知らないうちに超バズってた
「い、一緒に動画チャンネルを運営してほしい……⁉」
夜の公園――そのベンチにて。
美憂から衝撃的な提案を受けた俺は、思わず間抜けな声を発してしまった。
「うん。だ、駄目かな……?」
「駄目っていうか、それはさすがに……」
彼女はチャンネル登録者1000万人の、それこそ誰もが知る有名人だ。本来、俺がこうして話していること自体ありえない相手だ。
なのにいったい何を言うかと思えば――そのチャンネルのレギュラーとして出演してほしいと。
彼女はそう、この場で提案してきたのだ。
「見て。これ」
俺がしどろもどろになっていると、美憂が自身のスマホを差し出してきた。
――激突⁉ 綾月ミルVS緊急モンスター――
考えるまでもなく、昨日の生配信をアーカイブしたものだろう。
覚悟の上だったから良いものの、やっぱり昨日の戦いは世界中に発信されてるっぽいな。
学校でみんなの様子がおかしかったのも、なんなら繁華街を歩いている時にさえ視線を感じたのも……この動画配信がきっかけだったんだろう。
まあもちろん……薄々勘付いていたけどな。
「ほら。ここよ、ここ」
美憂が指差す先には、動画の視聴回数を示す箇所があった。
「えっと……い、一億再生⁉」
「そ。昨日の夜アップしてから、もうこんなに再生されてるってこと」
「マ、マジか……」
チャンネル登録者1000万を超えてても、平均の視聴回数はせいぜいが数百万回ほど。これは美憂だけがそうというわけではなく、他の動画配信者も似たような傾向にある。
まれに一億回超えている動画もあるが、それはいわゆる超バズった動画だけ。ミリオン超えはなかなかにないはずだが――昨日の紅龍との戦いは、それを一日にして成し遂げてしまったということか。
「私も詳しく知らないけれど、これの生配信がソラキンに取り上げられたようでね。そこから一気に火がついたのよ」
「な、なるほど……」
ソラキンといえば、たしかトウッターでフォロワー500万人超えのインフルエンサーだったか。
たしかにそのソラキンに取り上げられれば、一気に動画が跳ね上がるのもわからなくはないが……。
「それだけじゃないよ。最初は印象悪かったけど、私がピンチだった時に助けにきてくれたかっこいい男子高校生がいて……。その人が紅龍の動きを涼しそうに受け止めてて……。正直、これでバズらないほうがおかしいってくらい、面白い要素があった。だからこれは……筑紫くんのおかげで稼げた再生数なの」
「いやいや、さすがにそれは言い過ぎでは……」
「謙遜はダメダメ。これを見ても同じこと言える?」
美憂が画面の「コメント一覧」というタブをタップすると、そこにはなんとも気恥ずかしくなるような言葉の数々が並んでいた。
――かっけええええええ!――
――え、マジでかっこいい――
――つか紅龍の攻撃を受け止め続けるって、化け物すぎね?――
――河崎より強いんじゃ?――
――ガセかもわからんが、この人は霧島筑紫って名前らしい――
――霧島のレギュラー化キボンヌ――
「こ、これは……」
「わかったでしょ? 筑紫くんのおかげで……この動画は大きく伸びた。それははっきりしてるんじゃない?」
「あ、ああ……。そう、かもな」
できればはっきり否定したかったが、このコメント欄を見てしまっては、さすがにそうも言えなくなった。
ぶっちゃけ《ルール無視》スキルには不明点も多いし、昨日だって物理攻撃しか防げなかったんだけどな。ここまで褒め称えられるのはさすがに過剰評価と言う他ないので、あまり期待されすぎても怖いんだが……。
「うん。わかってる。ただ筑紫くんが動画に出るだけじゃ、筑紫くんにメリットないもんね。お金はちゃんと渡すし、それに……」
そう言って美憂は、ゆっくり俺の右腕を掴みあげる。
そしてなにをするかと思えば――なんと、自身の胸に俺の手をあてがうではないか。
「…………⁉ み、美憂、なにを……⁉」
「他にも、筑紫くんが喜びそうなことやるから。だから……」
潤んだ瞳で見つめてくる美憂と、そしてこちらの理性を吹き飛ばそうとしてくる異次元な柔らかさに、俺はごくりと息を呑むのだった。
―――――――――――
お読みくださいましてありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけましたら、作品のフォローをしていただけると嬉しいです!
たった数秒の操作で終わりますが、それがとても励みになります!
よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます