陰キャ、国の極秘情報に触れる

「す、すごいじゃん筑紫くん! まさか総理に呼ばれるなんて……!」


「ちょ、声でかいって美憂……!」


 ――授与式から一時間後。


 俺は美憂を連れて、銀座の街を歩いていた。


 見るからに高そうな服が売っていそうなブランドショップ、高校生では安易に立ち入れない高級レストラン、それに街行く人々のお洒落っぷり。


 生粋の陰キャたる俺が出歩ける街ではないが、それでも美憂とともにこの地に降り立ったのには、もちろん理由がある。


 ――個人的にお話したいことがあります。もし可能であれば、本日14時頃、この場所に来てください。無理そうなら後日、この電話番号にご連絡ください――


 国枝総理からこっそり渡されたのは、そう書かれたメモ紙だった。


 まさか公の場でこんな誘いはできないだろうからな。ひっそりとメモ紙を袖の中にでも隠しておいて、隠れて俺に渡してきたんだろう。


 そしてそのメモ紙に書かれていた住所こそが――ここ銀座の地だったわけだ。


 しかもご丁寧なことに、綾月ミルが同行しても問題ないと注釈してくれている。国民栄誉賞の授与式には美憂も来ていたので、きっと勘付いていたんだろうな。


「うっふっふ、私も鼻が高いよ筑紫くん。国民栄誉賞を受賞するだけじゃなくて、まさか総理とお友達になっちゃうんなんてね♪」


「お、お友達って……」


 ちなみに今回、美憂は国民栄誉賞を受賞していない。


 実を言えば、内閣府から受賞を打診する電話はきていたっぽいんだけどな。


 けれど美憂には、五年前に身内が“車の暴走事故”を起こしてしまったという過去がある。その背景を鑑みて、彼女のほうから受賞を辞退したらしい。


 それはそれでマスコミに受賞辞退を報道されて、美憂自身の好感度もめちゃくちゃ上がっているんだよな。

 高校生なのに謙虚すぎる、とっくに赦されていてほしい……などなど。


 この意味においては、郷山弥生に過去を暴露されたことさえ、また俺たちの人気に拍車をかけたことになる。あまり大きな口では言えないが。


「でも……本当にここであってるのかな……?」


 俺はそう呟きつつ、周囲を見渡してみる。


 駅前にあったショップは少しずつ姿を消していき、今俺たちのまわりには、沢山の住宅が立ち並んでいる。もちろん銀座という土地もあってか、瀟洒しょうしゃという言葉がぴったりな街並みだが……。


「う~ん、でも間違ってないみたいよ?」


 美憂も地図アプリで住所を検索してくれたが、やはりこの場所で合っているようだ。


 まさか総理自身の家に案内してくれるということか……? 

 それも何か違う気がするんだが。


「お待ちしておりました。霧島様と、綾月様ですね」


 と。

 俺たちがきょろきょろと周囲を見渡している間に、スーツ姿の女性が声をかけてきた。


「あ、あなたは……?」


「申し遅れました。内閣総理大臣秘書官の、仲部なかべと申します。以後お見知りおきを」


 おどおどと訊ね返す俺に対し、仲部と名乗る女性が名刺を差し出してきた。


 もちろんそれは素直に受け取っておくんだが、一介の高校生たる俺には、返す名刺がない。それについて謝罪すると、


「ふふ、構いませんよ。何か機会があれば、その連絡先にご連絡ください」


 と微笑みかけてくれた。


「さて、総理はすでに霧島様をお待ちです。準備がよろしければもうご案内致しますが、いかがでしょうか」


「あ、それは大丈夫なんですが……。まさか国枝総理、このへんに住んでいるんですか?」


「いえ、そういうわけではありませんよ。国が管理する、極秘ダンジョンでお待ちということです」


「ご、極秘ダンジョン……⁉」


 なんだそれは。

 まったく聞いたことがないんだが、もしかして……。


「……あのとき、ダンジョン運営省の官僚は見たことのない防具を身に着けていました。あれと同じで、一般には公開されていないダンジョンもあるとか……?」


「ふふ、さすがは霧島様です。おっしゃる通りですよ」


 仲部はそう言って笑みを浮かべると、近くにあった住宅の敷地に入る。そのまま手持ちの鍵で住居のドアを開けたので、俺と美憂もそれについていった。


「あ……!」

 そしてその家に足を踏み入れた瞬間、美憂が大きな声をあげた。

「ダンジョンの入り口……! そっか、この家はカモフラージュだってことね……⁉」


「ええ、おっしゃる通りです」


 美憂の言う通り、家のなかにはなにもなかった。家具もテレビもない、文字通り虚無の空間。一応電気だけはつくようにしているようだが、それ以外は文字通り虚無の空間だった。


 ――目の前で異様な存在感を放っている、地下へと続くダンジョンの入り口以外は。


「ついてきてください。総理みずから足を運ぶほどですから、危険な魔物は出没しません。どうか安心してください」


――――


◆◆ なんとすでに、本作が書店に並んでいます! ◆◆


Mノベルス様にて本作が書籍化しました!(正式発売日は10月30日ですが、もう並んでいるようです)


タイトルは初期からかなり変更しまして、

「ダンジョン配信を切り忘れた有名配信者を助けたら、伝説の探索者としてバズりはじめた ~陰キャの俺、謎スキルだと思っていた《ルール無視》でうっかり無双~」

 となります。

 ※近況ノートに作品のイラスト画像があります!


 自信のある仕上がりになっていますので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

 よろしくお願いします!



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ダンジョン配信を切り忘れた有名配信者を助けたら、伝説の探索者としてバズりはじめた ~陰キャの俺、謎スキルだと思っていた《ルール無視》でうっかり無双 どまどま @domadoma

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