謎のフェロモン&プチコメント回



「え……と、ごめんなさい。私、山越風香やまこしふうかって言います。月が丘高校の一年生です」


 ――数分後。

 手頃な岩石に腰かけ、俺たちは今の状況を改めて整理することにした。


 ちなみに月が丘高校っていうのは、俺や美憂の通う月島高校と隣近所のようなものだな。俺のような陰キャには関係のない話だが、よくこの二校で交流している生徒を見る。


「それで……さっきいきなり葉王が現れたって言ってたけど。詳しい状況を教えてもらえるかな?」


「は……はい」


 風香の話をまとめるとこうだ。


 彼女はそんなに強い探索者ではないが、この月が丘ダンジョンにはよく訪れていた。ここなら強い魔物が全然現れないし、なにより現実社会の鬱陶うっとうしい喧騒から逃れることができる。


 いわば彼女のお気に入りのスポットとして、よくここを散歩していたのだという。


「なのに……急に現れたんです」


 風香は両手を抱え、そしてぶるぶる身を震わせる。


「緊急モンスターみたいに突然現れる魔物がいることは知ってます。だから散歩中といっても、気は抜かないようにしてたんです。だけど……葉王は様子が違いました」


「様子が、違った……?」


「はい。緊急モンスターって、派手なエフェクトと一緒に現れるじゃないですか。異次元から魔物が来たぞ! って探索者たちに知らせる形で……」


「う、うん……。そうだね、そういえば」


「でも今回は違ったんです。一般の魔物と同じく、まるで初めからそこにいた・・・・・・・・・みたいに……いきなり私めがけて襲い掛かってきたんです」


「え……」

 風香の言葉に、美憂も言葉を詰まらせる。

「そんなの絶対おかしいよ。風香ちゃんも気づいていないところから、急に襲い掛かってきたってこと?」


「そうなんです……。だから私、びっくりしちゃって……」


 そこで風香は両手で顔を覆い、震える涙声を発した。


「もう私、怖いです……。学校なんて大っ嫌いで、このダンジョンだけが拠り所だったのに……。これじゃ、もう私、ここに来られないです……」


「…………」


 その様子を見て、俺も思わず顔を落としてしまう。


 この葉王がどうしてここに現れたのかはわからない。けれど、もしここに第三者が介入しているのだとしたら……。


 それはもう、絶対に許すことはできないな。


 と。



――――


リストリア:そうだ、わかったぞ! 霧島くん、これはすべて郷山弥生の罠だ! 早くそこから逃げたまえ!


ゆきりあ:ん? どうした?


リストリア:葉王チャーミリオンは、死んだとき大量のフェロモンを放出する! 本来はそれで獲物の理性をなくして、食べてこようとした相手を捕食するんだけど……その《理性をなくす》という性質は、人間にも作用するんだ!


美里:え……? 理性?


バルフ:いま目の前には、服がやぶけた少女……。つまりそういうことか……⁉


むーれす:っていうか、いまもうすでにフェロモン漂ってるんじゃね?


――――


「え……?」


 ふいに美憂から見せられたスマホ画面に、俺は驚愕する。


 たしかにいま、この洞窟には良い香りが漂っている気がするが……。

 俺のような学校一の陰キャが、間違っても女性に襲い掛かろうと思えるはずがないが……。


 とにもかくにも、リスナーがここまで忠告してくれているのだ。ここで逃げないわけにはいくまい。


「なんだかやばそうだ。行こう!」


 そう言って、そそくさと月が丘ダンジョンから脱出するのだった。



――――


バルフ:でもそのフェロモン、霧島少年にはあまり効いてなさそうじゃね?


リース:いやいや、でもたしかに俺、葉王を倒したとき目の前が見えなくなったよ。あそこに好きな女がいたらやばかっただろうなぁ


美里:え、ってことは霧島くん、理性を抑えられてるってこと? 紳士すぎなんだけど!


ゆきりあ︰郷山弥生とかよくわからんけど、これたぶん、霧島少年の強さが全世界に知られただけでは?



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