紅龍の報酬がぶっ飛びすぎてるんだが
「ええええ~~~! 郷山から呼び出し~~⁉」
「ちょ、美憂、声でかい……‼」
放課後。
校門へ向かうと、約束通り美憂が待ってくれていた。
そのまま適当にカフェで一休みしたあと、適当なダンジョンに潜る予定だったのだが……。
まさか郷山に無理やり予定をねじ込まれたのを黙っているわけにもいかず、正直に打ち明けた結果――いまの大絶叫に繋がった。
「ほんっと、最低! あいつって、ほんと自分の事情しか考えてないよね!」
カフェへ向かう道すがら。
まるで我が事であるかのように、美憂が怒りを露わにしていた。
「そうだね……。こっちから反論する余地もなかった」
「ちゃんと強く言えばよかったのに。俺にはこれから予定あんだよ! って」
「はは、言えたらいいけどね……。でも、そんな簡単には言えないさ」
なにしろ、郷山との縁は高校だけに始まった話じゃない。
小学、中学、そして高校……。嫌な奴との悪縁に限って、妙に長続きするものだ。
小学生から俺のことを知っているためか、郷山も俺のことは
そして現在は、最悪なことにあいつと同じクラス。いわゆるいじめが過熱するのも――俺は《いじめ》という可愛らしい語感が嫌いだが――ごく当然のことと言えた。
つまりそんなふうに迫害し続けてきた奴に対して、まさか昨日の今日で強く出るわけにもいかず。
郷山の常軌を逸した暴力性を思い出すと、いまでも少し身体が震えてしまうのだった。
「…………」
そんな俺を見て、美憂はなにを思っただろう。
隣を歩く俺の手に、彼女自身の手を優しく重ね合わせてきた。
「み、美憂……?」
「そうだね……、ごめん。そう簡単に言い返せる話じゃないもんね」
「…………いやいや、俺が駄目なだけだよ。もっと強くなったほうがいいっていうのは、自分でもわかってるんだけど……」
「…………」
まさか俺に同調してくれているのか、美憂が悲しそうに眉を八の字にする。
「筑紫くん、郷山との待ち合わせは20時からだよね?」
「え? うん、そうだけど」
「そしたらまだ時間あるわね……。ちょっと今日はカフェなしにして、先にダンジョン行かない? せっかく倒した紅龍の報酬、こういうときにこそ使わないとね!」
★
月が丘ダンジョン。
それは学校とほど近いところに存在する、比較的安全なダンジョンだ。
出没する魔物もそれほど強くなく、薬草の採取場所としてもうってつけである。
ただここは郷山がよく訪れるところでもあり――メインの採取場所はこっちではなく、昨日美憂と出会ったあのダンジョンだけどな。
「よし、到着ね! 筑紫くん、ステータス出してみて!」
「了解」
一度でもダンジョンを訪れた者は、心で念じれば自身のステータス画面を出すことができる。詳しい原理は不明だが、自分の視界にだけ映るんだよな。
そこで装備品を変えたり、素材を組みわせて武器防具を変えたり、自身のステータスを確認することができる。
(ダンジョン外でもステータスの確認自体は可能だが、そのステータスの数値はあくまでダンジョン内でだけ適用される。またダンジョンの外では装備品の装着等はもちろんできない)
「って、あれ……⁉」
そのステータス画面に、とても見慣れないものがあったのだ。
――403321ゴールド。
一昨日まではせいぜい2000ゴールドしかなかったはずなのに、急に増えている……⁉
「そう、これが紅龍を倒した報酬ね! ふふ、私と二等分されてるとは思うけど、いっぱい入ってるでしょ?」
「う、うん……」
さすがにこれは予想外だ。いきなり大金持ちになったような気分である。
ちなみにダンジョン内での《ゴールド通貨》は、国の所定施設に赴けば、そのまま1ゴールド=1円として交換してもらえる。つまり俺は、今の時点で40万近い金を得たことになる。
またステータス画面での《ゴールド画面》が増えるタイミングは、基本的には誰かから譲渡されたときか、魔物を倒した時だけ。そしてよくあるゲームと同じように、強い魔物ほど高い金額が振り込まれる。
魔物を倒しても国にとってメリットがないかもしれないが――実はそんなことはない。
強い魔物であればあるほど、それだけ探索者の命を奪いかねないからな。間接的に全員の安全を守った形として、日本円に換えてもらえるといった形だ。
そしてもうひとつ――紅龍を倒したことによる報酬があった。
「ア、アイテム欄もすごいことになってる……⁉」
そう。
紅龍の鱗、紅龍の両翼、紅龍の爪、紅龍の逆鱗などなど……。
俺の見たこともないレアアイテムが、アイテムボックス欄に沢山あったのだ。
「ふふ、いっぱいあるでしょ?」
美憂がなぜか嬉しそうな笑みを浮かべる。
「それを使って、強い武器を作りましょう。それで筑紫くん自身の攻撃性能ももっと上がるはずよ」
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