《ルール無視》スキルさえあれば、デメリットだらけの武器さえも

 ダンジョン内における武器防具の作成。


 それは探索者自身が持っている《魔物の素材》によって、大きく幅が広がってくる。早い話が、良質な素材さえ持っていれば、それだけ強力な武器防具を作れるということ。


 もちろんゴールドだけでも装備を作ることはできるが、それだとあまり良いものは選べないんだよな。ゲームでいうとスライムとかゴブリンみたいな、あくまで初心者向けの魔物しか対処できない。


 そして一昨日おととい紅龍と戦っていたときも、俺はゴールドだけで買える武器を使用していた。


 あくまで護身用に携帯していただけの武器だったが、やはりこんなものでは紅龍に歯が立たず……不便な思いもしたのが正直なところ。


 もし郷山がこれから突っかかってくるのであれば、美憂の言う通り、より強い武器を選びたいのが正直なところだった。


「それで……え~と、選べる武器は……」


 ステータス画面のなかから、俺は《武器作成》の項目を選択する。これも詳しい原理は不明だが、スマホと同じように画面をタッチするだけで操作が進むんだよな。


 そして浮かび上がった《武器一覧》のなかで、目新しいものは下記のものだった。



 ・紅龍ギルガソード 攻撃力+500

 ・紅龍バルフレア  攻撃力+300 炎属性の上級魔法、《フレアーソン》を使えるようになる



「う~~ん……」


 たしかに強い。

 間違いなく強いんだが、あまりパッとするものはなさそうだな。


 まず紅龍ギルガソードは攻撃力増強にかなり長けており、その上がり幅は他の武器とはもはや比べ物にならない。

 が……俺はもともとのステータスがべらぼうに低いんだよな。


――――


霧島筑紫 17歳 所持スキル《ルール無視》 レベル17


 物理攻撃力:41

 物理防御力:56

 魔法攻撃力:34

 魔法防御力:45

 俊敏性  :71


――――


 では他の探索者はどのような数値を誇っているかというと、だいたい各ステータスの平均値が300といったところか。


 俺がいかにしょぼいステータスをしているか、もはやこの数字を見れば明らかである。


 これでも紅龍を倒したおかげで以前よりは強くなっており、レベルが上がったうえでこの数値なのだ。もはや絶望的という他ない。


 そんな俺が攻撃力を高めても宝の持ち腐れだし、紅龍バルフレアに至っては論外だ。

 そもそもスキル《ルール無視》のおかげで、いまの俺は“炎属性の魔法”が使えるようになっている。わざわざこれを求める理由がない。


 ややがっかりしながら画面をスクロールしていったとき、俺は目を見張る武器を見つけた。


 ・紅龍・極魔剣きょくまけん 魔法攻撃力+5000 常識外に魔法攻撃力が高まる代わりに、その一回でMPが尽きる



「こ、これは……」


 探索者の経験が薄い俺でもわかる。

 これはロマン追及型の武器であり、到底、実戦向きとは言えないだろう。


 たしかに魔法攻撃力が5000もアップするのは破格だが、それだけでMPが尽きてしまうのでは意味がない。特にダンジョン探索では連戦になる恐れもあるからな。


 ちなみにMPの回復方法としては、専用アイテムを用いるか、一定期間の休息の二通りだけ。命をかけてダンジョンを巡る探索者としては、どちらも隙ができてしまうために好ましくない。


 ロマンよりも生き残ることが重要視されるダンジョン探索において、これはやはり、「ロマンだけの武器」と言えた。


 けれど――。

 俺は昨日の朝、たしかに下記の能力を手に入れたはずだ。


――――


 ・薬草リポップ制限時間 無視

 ・相手の攻撃力 無視

 ★炎魔法使用制限 無視

 ★MP制限   無視


――――


 あの紅龍との戦いで実感した通り、このスキルはすべてのルールを無視する。


 つまりこの武器によって発生する「一回でも魔法を使用したらMPが0になる」というルールも、ひょっとしたら……?


「美憂、買う武器決めたよ」

「え? なになに? どれにするの?」

「紅龍・極魔剣」

「へっ?」


 さすがの彼女も、驚いた様子で目を丸くする。


「ま、待ってよ。それはちょっと……」

「わかってる。でもこれには理由があってね」


 その後、俺は自身のスキル《ルール無視》について改めて説明した。


 昨日、紅龍と渡り合えたのはこのスキルがあったからということ。

 このスキルのおかげで、俺は何度も何度もリポップし続ける薬草を採取できたということ。

 そしていま、このスキルには《炎魔法使用制限 無視》と《MP制限 無視》といった能力が追加されたこと。


 それらをすべて伝えたとき、美憂は「つ、筑紫くんがそこまで言うなら……」といって理解を示してくれたのだった。


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