まさかの乱入者登場
「おお……!」
ステータス画面の《紅龍・極魔剣を作成しますか?》という確認画面に応じると、俺の目の前に、なんとも神々しい剣が出現した。
刀身のほとんどが
「ほ、ほんとに《極魔剣》作っちゃったよ……」
俺が試しにぶんぶん剣を振り回していると、やや呆れ顔で美憂が呟く。
「筑紫くんの言うことだから受け入れたけどさ。たぶん今までの探索者で、その剣を作った人はいないよ?」
「え? そうなのか?」
「うん。紅龍ってなかなか出現しないし、しかもすっごく強いからね。素材がもったないなさすぎて、《極魔剣》を作るくらいの余裕はないんだよ」
「マ、マジか……」
自信満々にこの剣を作ったは良いものの、今更になって、とんでもないミスをしたんではないかと心配になってきた。当然のことながら、武器作成にやり直しはありえない。一度使った素材やゴールドは、基本的には戻ってこないのだ。
「う~ん、そうだなぁ……」
美憂は数秒だけなにかを考え込むと、
「そうだっ!」
とひらめいたように相槌を打った。
「それなら、霧島筑紫、《極魔剣》を作ってみた~~~~~! って感じで生配信しようよ! 絶対うけるよ、このネタなら‼」
「え……? マジ?」
「うんうん。せっかくなら、バズって少しでもお金に換えたほうがよくない? まだ郷山が来るまでには時間あるし!」
「それはまあ……たしかにそうかも」
俺が首を縦に振ると、美憂は
「やった♪」
と嬉しそうに右腕を空に突き上げた。
それから自身のステータス画面をぽちぽちといじりだし、長い銀色のウィッグと、フリフリとした白色のワンピースに着替える。
これこそが――俺が何度も動画配信サイトで眺めてきた、綾月ミルその人だった。
あんな服装どうやって用意したのか不思議に思っていたが、なるほど、ダンジョン内での装備品だったか。
また《綾月ミル》を演じるにあたって、顔にも大きなテコ入れをしているようだ。
童貞コミュ障の俺に詳しいことは何もわからないが、両目のラインがしっかり際立つようになって、肌もより潤いのある白色に輝いている。
化粧せずとも美憂は可愛いと思うが、やはり化粧ってのはすごいな。
あまり派手になりすぎない範囲で、まるで別人のように可愛らしくなっている。
さらに銀色のウィッグをも組み合わせてしまえば、たしかに綾月美憂とは見分けがつかないな。あっぱれな変身である。
「ふっふ~~ん♪」
俺の沈黙をどう捉えたか、美憂が唇に人差し指をあて、悪戯っぽく笑った。
「どうしたのかな筑紫くん♪ まさか私の美貌に見惚れちゃったのかな?」
「え……っと、その、うん。とても可愛いと思う」
「へっ」
いけない、ミスった。
コミュ障かつ恋愛経験のない俺は、こういうときどう答えればいいのかが全然わからず。
思わずドストレートに褒めてしまった。
「ち、ちちち、違うんだよ。化粧したから可愛いって言ってるんじゃない。化粧する前の美憂も可愛いから、そこは勘違いしないでほしい」
「え、えええっ!」
さすがに驚いたのか、美憂が顔を真っ赤にして大声をあげる。
「ふ、ふふふん。そうでしょう。筑紫くんも、私のこと可愛いって思うでしょう」
「う、うん……」
「その殊勝な心意気やヨシ! ……で、でも、ちょっとだけあっち行ってていい?」
いったいどうしたのか、なにもない空間を指さす美憂。
「え? 別にいいけど……」
「あ、ありがと!」
美憂は猛ダッシュでここから十メートルほど離れると、両手で顔を覆い、足をくねくねさせ始めた。
「や、やばいやばい……。なんでこんなに胸熱くなってるの……。あんなの反則だよ……」
「…………??」
よくわからないが、遠くからでも呟いている内容が丸聞こえだった。
★
ともあれ、これにて準備完了。
美憂はいつもスマホを専用スタンドにセットして撮影しているらしく、俺たちはその画面内に映り込む位置に立っている。
もちろん一台のスマホだと拾える範囲が少ないので、複数台で別々の角度から撮影してるようだな。さすがは人気配信者だけあって、このへんはかなり力を入れているっぽい。
「よし、それじゃ配信スタート‼」
美憂がそう声を張った、その瞬間。
「おい、おまえ……‼」
なんとも最悪なタイミングで、最悪な男――郷山健斗が姿を現したのだった。
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