陰キャ生まれ変わり大作戦

「いや~、偶然だね♪ まさか同じ学校で同じ学年だったなんて♪」


「は、はは……。そうだね」


 放課後。

 学校の近くにある喫茶店にて、俺と綾月美憂は向かい合っていた。


「ん? どうしたの? そんなに緊張しちゃって」


「い、いや……。なんでもない……」


 と言いつつも、俺の心臓はバクバクと高鳴っていた。


 喫茶店に足を運んだのなんて初めてだし、もちろん、女の子と二人で出かけるのも初めてだ。


 こういうのをデートと言うのだろうか……というところまで考えて、俺は考えるのをやめた。


 ブサメンの俺なんかが女子とデートなんて、それこそ絶対にありえないからだ。


「でさ、筑紫君なに食べる?」


「え……」


「ほら。お礼させてほしいって言ったじゃん。なんでも奢るから、好きなの選んでよ」


「あ、ああ……」


 といっても、ここにはラーメンやカツ丼といった、いわゆるガッツリ系の飯はない。

 ぶっちゃけ全部同じに見えるんだが、そんなこと言ってられないしな。


「じゃあ、この……ショコラパンケーキwithトロピカルランドで……。綾月さん・・・・は?」


「そうだね~、私も同じのにしよっかな。ちょうど同じやつ気になってたし♪」


「りょ、了解」


 その後俺は店員を注文し、飲み物とパンケーキを注文した。


 コミュ障はこういうとき《うまく喋れるのか》めちゃくちゃ緊張するものだが、なんとかつっかえずに料理名を言うことができた。


「う~む……」


 そんなことを考えていると、綾月美憂が正面からじっと見つめていることに気づいた。


「ど、どうしたの、綾月さん・・・・


「いやね、筑紫くんってどこかで聞いたことあると思ったら、やっぱり三組の人だったんだなって。私、前からあなたのこと知ってたよ」


「…………」


 まあ――そりゃそうだよな。

 廊下で土下座させられまくったり、大勢の前で大声を出さされたり……。


 自分でも情けないくらい、俺は郷山に沢山のいじめを受けている。

 悪い意味で有名になってしまうのも、本当に致し方ないことだった。


「ご、ごめん。本当はもっとイケメンだったらよかったかもしれないけど……」


「あ、それね! ちょっと筑紫くんに提案したいことがあって」


「え……?」


「筑紫くん、素材はめっちゃ良さそうなのよね。ただ髪型がちょっと荒れてて……それがよくないのなって。これ、すごくもったいないよ‼」


「も、もったいないって……どういうこと?」


「つまり、筑紫くん本当はイケメンってこと‼」


 いやいや、マジでなにをいってるんだか。

 俺がイケメンだなんて、そんなことがあろうはずもない。


 髪型を整えていないのだって、自分の容姿が絶望的に醜いことがわかっているからだ。

 陰キャが髪型を整えても、それはそれでクラスの失笑を買うものだしな。


 陽キャにはわからないかもしれないが、これが陰キャの処世術なのである。


「はい。こちらショコラパンケーキwithトロピカルランドでございます」


 そうこうしているうちに、店員が料理を運んできた。


 濃厚なチョコソースのうえに、色とりどりのフルーツが載せられたお洒落なパンケーキ。少し食べにくいという難点はあったが、味はたしかに美味かった。


「私はね……悔しいの」

 苺をごくりと呑み込んでから、綾月がやや深刻そうな表情で言った。

「紅龍が現れたとき、あなたは身を挺して私を守ってくれた。息がきれぎれになりながらも、それでも私を守ってくれたよね」


「う、うん。それが……?」


「それで思ったの。筑紫くんは、みんなに馬鹿にされるような人じゃない。とてもかっこよくて……郷山なんか相手にならないくらいに素敵なんだって」


「はは……そんなまさか……」


 なんだろう。

 どうしてこんなに……俺を持ち上げてくれるんだろう。


 綾月ミルといえば、超人気の配信者。


 そんな彼女がいじめに加担していると知られたら、印象的にもあまりよろしくない。だからこうやって、精一杯フォローしてくれているということか。


「……筑紫くん、なにか後ろ向きなこと考えてない?」


「えっ? さ、さあ、どうかな。あはは」


「…………」

 綾月はそこで再びじ~っと俺を見つめると。

「決めた!」

 と言っていきなり立ち上がった。


「それなら、一緒に美容室行きましょう! お金なら私から出すし、それでみんなをギャフンと言わせるわよ!」



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