壮大なオフ会

「は、どういうこと?」

 俺たちのやり取りを聞いていた郷山弥生が、眉をひそめながら問いかけてくる。

「みんなの心を突き動かしたって……。まさかこれ、配信されてるってこと?」


「ええ、当然」


 それに答えたのは美憂だった。


「あんたがシヴァーナっていう化け物を生み出したことから、さっきの地震の原因まで……丸ごと全国に配信されてるわよ。言っておくけど、あんたはもう社会的に終わり」


「な、なんですって……⁉」


 表情を絶望のいろに染め上げる弥生。


 まあ……無理もない。

 俺だって、いつ美憂が配信を再開したのか全然わからなかったからな。

 戦いの最中にこっそりスマホをいじっていたんだと思うが、そのへんの器用さはもう、さすがは有名配信者といったところか。


「それだけではないな」


 続いて厳しい言葉を投げかけたのはディストリア。


「今現在、綾月ミルのファンたちが一斉に動いている。インフルエンサーのソラキン氏に、そしてSNSでの拡散活動……。はっきりいって、おまえはもう終わっているのだよ」


「そんな……ソラキンまで……?」


「そうだ。せめて最後くらい、大人しく――」


「あはは、あはははははははははは‼」


 ついにおかしくなってしまったのだろうか。


 弥生はいつの間に拾い上げていた魔導杖を掲げると、再び空高く飛び始めた。そしてなにをするかと思えば――再び魔物を召喚しようとするではないか。


「それなら全員まとめて、この世から消し去ってやるわ! 死ね死ね死ね‼」


「…………っ」


 どこにそんな力を温存していたのか、弥生が続々と魔物を生み出していく。


 ホワイトウルフやゴブリンといった雑魚モンスターから、新緑龍ウッドネスや骸骨王スカルキングなどの中堅・上級モンスターまで。


 文字通り見境なしに魔物を生み出し続けている。


「ガァァァァァァァァァァァァ!」


 そして当然、化け物たるシヴァーナも、咆哮とともにこちらへ歩を進めているまま。


 ――疑いようもない地獄絵図が、目の前に広がっていた。


「お、おふくろ……」


 この光景を見て、郷山もきっと思うところがあるんだろうな。


 少し切なそうな――それでいて、力強い瞳で魔物たちと対峙している。


「みんな、少し聞いてほしい」

 そんな仲間たちに向けて、俺は小声で話しかけた。

「あのシヴァーナは化け物だが、バリアーを壊しさえすれば、こっちからの攻撃が通るはず。他の魔物たちも倒しつつ――みんなで一斉攻撃をかけて、そのバリアーを破壊したい」


「ふむ、そうだな」

 その提案に、ディストリアが深く頷いてくれた。

「破壊神くんのスキルがあれば、あのシヴァーナにも大ダメージを与えられるだろう。私とミルちゃんとで他の魔物たちを見ながら、うまく立ち回っていきたいな」


「お……おい、破壊神って言うなよ」


「ん? なにがおかしいんだ、自分でそう名乗ってただろう」


「…………」


 なにかを言い返したそうにしていたが、唇を尖らせるばかりで押し黙る郷山。


「それで、筑紫くん」

 その微妙な空気を、美憂が打ち破った。

「バリアーを壊したあとは、筑紫くんの魔法でトドメを刺すってわけね?」


「うん、そうだね。炎属性の魔法には、溜め時間が長い代わりに高威力な大技があったはずだ。それでトドメを刺したい」


「おっけ、そしたらその作戦でいきましょう」


 美憂のその発言を皮切りに。


「ひゃはははははははははははははは‼ 死ね死ね死ねぇぇぇえええ‼」


 俺たち四人は、いまだ奇声を発し続ける弥生と改めて対峙した。俺は《紅龍・極魔剣》、美憂も剣、そして郷山は大剣。


 そして――。


「ディストリア氏、まさか武器なしで戦うの?」


「ふふふ、ミルちゃんよ。僕は武器を使わない。拳と拳で語り合うのが、僕の流儀といったところなのさ」


「そ、そう。すごいわね」


「さあ、それでは始めようじゃないか。正真正銘、最後の戦い――もとい、ミルちゃんと霧島少年を取り囲むオフ会をね‼」


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