世界中のみんなが、陰キャたちを応援する(コメント回)

 ――郷山健斗。

 小中高と俺を苛め続けてきた人間が、この土壇場で助けにきてくれた。


 綾月ミルのためなのか、自分の名誉を挽回するためなのか、もしくは――それ以外の理由があるのか。


 その真意はわからないが、少なくともこれだけははっきり言える。


 圧倒的な防御力を誇るシヴァーナに対して、攻撃力アップ(特大)のスキルを誇る郷山の登場はとても助かるということを。


「えっと……その……」

 その郷山は、俺を見て目をあっちこっちさせていた。

「駄目だな、俺は……。こういうとき、なんて言えばいいのかわからねぇよ……」


「郷山……」


「だからせめて、このときくらいは協力させてくれ。俺のスキルなら、あいつのバリアーを壊せるかもしれねえ」


 無理だ。

 俺はすぐにそう直感した。


 たしかに郷山の攻撃力はぶっ飛んでいるが、しかし言ってしまえばそれだけ・・・・だ。漆黒龍ゲーテの防具を失っていることから、現在は1ランク下の装備を身にまとっており――敵の攻撃を一撃でも喰らえば致命傷になりかねない。


 それはこいつだって、わかっているはずなのに。

 シヴァーナの巨体を見て、身体が少し震えているのに。


 それでも大剣を構え、俺と美憂を守るようにして立ちはだかっている。


「ガァァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!」


 シヴァーナの咆哮がダンジョン内にて響きわたり、一帯が激しく揺れる。


「ちぃっ……!」

 その強烈な音圧を受け、郷山は左腕で自身の顔面を庇った。

「はは……やべぇなありゃ。おふくろの奴、なんであんな化け物を出してやがんだよ」


「あんた……ほんとに行く気なの?」


 美憂の投げかけに対し、郷山はぎこちない笑みを浮かべてみせる。


「ああ。そうでもしなきゃ……俺のやった罪は消えねえ。たとえ俺が死んだって、あんたらは生き残ってくれよ」


「…………」



「――ふふ、よく言ってくれたな少年。いや、破壊神君というべきかな」



 また新たな人物が現れたようだ。


 やや灰色がかった長髪が、腰のあたりまで伸びている。大きな黒縁眼鏡をかけ、上下ともに黒色のジャージを身に着け。どことなくミステリアスな雰囲気を漂わせる女性だが――俺は、あんな人と会ったことはない。


「おやおや、なにを驚いているのかな。我がハンドルネームはディストリア。ミルちゃんと霧島少年の、一番の推しだよ」


「「「は……⁉」」」


 俺と美憂と郷山が、いっせいに驚きの声を発する。


「嘘⁉ ディストリア氏って、女の人だったの⁉」


 美憂の投げかけに対し、ディストリアが満足げに頷く。


「その通り。なぜかコメント欄ではディストリアニキと呼ばれているがね、僕自身は性別を公にしたことは一度もないよ」


「…………で、でも、ここに来てくれたってことは、ディストリア氏も助けに……?」


「しかり。我が拳をもって、巨悪を成敗しに馳せ参じた。……そしてミルちゃんと霧島少年。君らを応援しているのは、なにも僕だけではないのだよ」


 そう言って、ディストリアはポケットからスマホを取り出した。


「さあオタクの諸君! 君らの声を霧島少年とミルちゃんに届けるのだ! 僕らオタクにできることはなんだ‼ ここぞというときに、推しを守ることだろう‼」


 なんと美憂がこっそり生配信を行っていたのか、そこには――温かい言葉の数々が並んでいた。



――


ゆきりあ:《50000円 チケット》 頑張れ! ミルちゃんと霧島くんのこと、心の底から応援してるからな!


ぱーろむ:《50000円 チケット》 霧島少年! 最初君のことをチー牛と言ってしまったが、あれは撤回させてくれ! 君こそが英雄だ! 伝説の探索者だ!


リストリア:《50000円 チケット》 たとえ遠くからでも、僕は君たちのことを応援している! 炎上のことなんか気にするな! きっと世間は、君らの美しい心を見てくれている!


バルフ:《50000円 チケット》 ファイト! 二人の勇姿、ソラキン氏にも取り上げられてるぞ!


美里:《50000円 チケット》 霧島くん! 弥生の悪行、いま全世界に広めてるから! そんな奴に負けないで‼


シオン:《50000円 チケット》 霧島くん大好き!!!!!!!!!!!!!!


メロ:《50000円 チケット》 霧島くん、愛してるよぉぉぉおおおおおおおおおおおお!


むーれす:《50000円 チケット》 破壊神くんも頑張れ! 見直したぞ‼


ら:《50000円 チケット》 よく母親の洗脳から抜け出したな!


――



「あ……」


 このコメント欄に対し、真っ先に反応を示したのは郷山だった。


「お、応援されてる……? 俺が……?」


「ふふ、そのようだな。君の勇気と決断が、皆の心を突き動かしたようだよ」


「そんな……。俺、俺、こんなに馬鹿なことばっかりやってきたのに……」


 郷山が表情をぐっと崩し、両手で自身の顔面を覆う。


「う、うううううあああああああああああ……‼」


 そして年甲斐もなく、大きな泣き声を上げ始めた。


 いつも傲慢に思えたこいつの――初めて見る姿だった。



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