ざまぁ回 郷山の後悔

「まさかおまえ、裏であんなひどい苛めをしていたとはな……。すまんが、俺との関係は一切なかったことにしてくれ」


「ま、待ってくれ! 頼む……!」


 同じく、その日の夜。

 郷山健斗は通話にて、必死にパブロック――かつてコラボ配信を行った有名配信者――との別れを必死に止めていた。


「あんたとの関係まで切れたら、俺はもう終わりだ。頼む。頼む……っ!」


「まだわからんのか? おまえと関わってたら、俺まで巻き添え喰らって燃えるの。ってかもう、炎上してんだよ? 俺の評判ガタ落ちなんだよ? どうしてくれるの?」


「う…………」


「迷惑料とか取らないだけ優しいと思えよ。じゃあな」


「ま、待ってくれ……! 見捨てないでくれ……っ‼」


 プツン。

 郷山の静止も虚しく、通話は一方的に切られてしまった。


「く、くそお……!」


 音声の途切れたそのスマホには、三つの新着が表示されている。



 ――おまえ停学になったらしいなwww 人生終了乙wwwww

 ――さんざん苛めまくった霧島少年にやり返されて、いまどんな気持ち? ねぇねぇ

 ――もう有名人ともコラボできないねぇwww 人生終わったねぇwwww



「くぅぅぅぅぅぅぅぅううう……!」


 郷山はその場に崩れ落ち、滂沱の涙を流す。


 しかも――これだけじゃないのだ。

 今回の炎上がきっかけで縁を切ってきたのは、なにもこのパブロックだけではない。


「ちょっとさすがにあの苛めはひどいな……。すまん、もう俺には連絡してこないでくれ」

「っていうかさ、あんたやっぱキモいわ。偉そうにしてる割にはマザコンだし、自分の意見ないし」


 先の炎上を受けて、かつて縁のあった友人や知人たちが一斉に離れていってしまった。なかにはコラボ予定だった配信者もいたが、その話もすべてナシになってしまったのだ。


 おかげでもう、郷山はろくに生活することもできない。


 近所のコンビニに寄るだけでも、客や店員が自分のことを知っているのではないか、隠れたところから撮影しているんじゃないか、家を特定しようとついてきていないか……。

 そんなふうにぐるぐるとマイナス思考に陥り、もはやなにも考えられなくなっていた。


 頼みの綱だった母親も何かをやらかしたらしく、今日はやたら元気がない。郷山家は今、かつてないほどの暗闇に包まれていた。


「俺は……どうしたらいいんだよ……」


 ずっと母親を盲信して生きてきた。


 小学生の頃から霧島筑紫をいじめ続けてきて、そしたら母親にめちゃくちゃ褒められて。

 学校の教師から注意されることはあっても、それでも母親が気にしなくていいと言ってきて。


 そんなふうに暴力を振るい続けてきたら、誰もが郷山を賞賛するようになった。


 誰も逆らってこないし、まるでイエスマンであるかのように付き従ってくれる。


 だから霧島筑紫をいじめるのは、もはや《当たり前》のことだと思ってきた。


 一度だけ母親と先生が面談をする機会があっただが、それ以来、先生もあまり注意をしてこなくなった。なにがあったのかはわからないが、母が郷山の快適な学校生活を提供してくれたのだと思った。


 けれど。



 ――なあ、さんざん自分は苛めてきたくせに、炎上するとだんまり? あまりにザコすぎん?www

 ――なんか言えよwww それとももう、なんも言えない精神状態なのかなぁ? ン~~?



 こうして自分が〝やられる側〟の立場になってみると、今更ながら、色々なことがわかるものだ。


 自分はまだ精神的な攻撃だけだからマシだが、霧島の場合は、日常的に暴力も受けてきたのだ。


 それでもめげることなく……毎日学校に通い続けてきた。

 学校中の生徒から白い目を向けられてもなお、ずっと学校へ足を運んでいたのだ。


 ところが自分は――こうして炎上しているだけで、もうメンタルがもたなくなってしまっている。


「あいつ……ほんとは強かったんだなぁ……」


 今さら後悔しても、もはやもう遅い。

 鳴り続けるスマホの着信音に身を竦ませながら、郷山は引き続き、毛布にくるまるのだった。




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