第52話 真相は、時に
二人と話し合い今後について全て話がまとまり、その足で青南高校に赴く。
「――」
途中、またまた自宅に戻りわざわざ制服に着替えた小宮は職員室に向かった。
「――愛沢先生」
職員室内にある人物が居ないことを確認した上でお目当ての教師に声をかけた。
「あ、小宮君。日曜日なのにどうしたの? 生徒会?」
「いえ。大事な忘れ物をしまして取りに来たところです。ちょっと愛沢先生に聞きたいこともありましたので寄りました」
「そうなんだ。それで〜?」
何も知らぬ愛沢先生の愛くるしい顔。一つの不信感も抱かせず、その笑顔を曇らせないように満面の笑顔で。
「それがですね。以前愛沢先生から木箱の運搬を頼まれたじゃないですか」
「あー、あの時は本当にありがとね」
「いえいえ。それでですね。その木箱って誰から倉庫に運ぶように頼まれたのですか? ちょっとした好奇心ですが、よければ」
「あぁ、それはねぇ――」
告げられた名前を聞いた小宮は――口角が上がるのを感じ、我慢した。
「そうですか。ありがとうございます」
「いいえ〜」
できるだけ表情を崩さず朗らかに。
「他に何かある? 先生聞くよ?」
「そうですねぇ。あ、来週の火曜日はできるだけ早く帰宅することをお勧めします。この頃「不審者」とか悪い噂も聞きますからね」
「小宮君や生徒会の皆が注意喚起してくれてるんだよね〜わかりました!」
こちらの話を真面目に聞き、ビシッと敬礼をしてくれる。
「では、用事も済みましたので今日は帰ります。また明日からもお願いします」
「こちらこそ〜じゃあねぇ〜」
教師でありながら子供のようなその天真爛漫な笑顔を見てこちらも気分が上がる。
職員室を後にして。
「……役者は揃ったってね。いや、後一人、二人かな。「味方」は多ければ多いほど優位に立てる。当たり前のことだ」
本当の意味で線と線が繋がり全てにおいて理解した。後はその時が来るのを待つのみ。
自分の「味方」にメールを送り、最後の「味方」になりえる人物の元へ――
◇◇◇
月曜日、何事も起きずつつがなく終わり。
火曜日の放課後。生徒会の会議が終わり。
「ごめんね。今日も須田君と帰るから皆は先に帰っていいよ」
いつもと同じく顔の前で手を合わせて申し訳なさそうな顔の白石に対し他の生徒会メンバーは笑顔で接する。
「あぁ、穂希も気をつけて」
「穂希先輩。また明日です!」
「彼氏さんと、素敵です〜」
「こちらはこちらで
生徒会メンバーから声を掛けられ。
「馬車馬こと小宮慎也。皆様を今日も送迎してきます! 白石先輩、お疲れ様です!!」
白石相手にやけに胴の入った敬礼をして。
別れる。
・
・
・
「――比奈先輩、小宮先輩。それでは!」
小宮と比奈は後輩、夢園を見送って。
「それで、計画は順調なのかな?」
帰路に歩き出して数分。隣で肩を並べて歩く比奈に聞かれる。
「はい。順調ですよ」
その質問に軽く答え。
「今日僕たちが「不審者」に襲われない事が、何よりの答えですから」
「……は?」
小宮の答えに言葉の意味がすぐに理解できず、端正な顔を間抜けな顔に変え。
「まあまあ、すぐに終わります。僕たちも皆も――白石先輩も無事。安心してくださいよ」
「待ってくれ。それはどうい――」
ブー、ブー、ブー
比奈が問い詰めようとしたその時、小宮のスマホに着信が入り。
「……出ますね」
断りの言葉を入れ電話に出る――わざとスピーカーに切り替えて。
[こっちは想定通り終わったわ]
蓮二の声がスピーカー越しに聞こえる。
「――ッ」
近くにいる鷲見白先輩から困惑の視線が向けられているけど、今は無視無視。
[ありがとう。こっちも想定通り――白石先輩以外を安全地帯に送れたよ]
[そっか。ま、そっちは姉貴が色々と策を講じて……というか暴れたからな]
[不審者たちには悪いけど、ご愁傷様]
[ほんまな。後は]
[うん。彼らに任せよう]
[せか。じゃ、こっちはぼちぼち解散するわ。不審者たちはサツに受け渡したしな]
[了解。クマや他の皆にもこの埋め合わせは今度作るって話といて]
[別に慎也くんが……わかったで。じゃな]
[うん]
蓮二との話し合いを終え通話を切る。
「今のは蓮二か。小宮君話してくれるな?」
通話を終えてすぐに怖い顔で詰め寄られ。
「もちろん。ただ、場所を移しませんか?」
「……そうだな。そこの公園に行こうか」
「はい」
・
・
・
場所を移し。
「それで?」
ブランコに腰掛ける比奈から問われ。
「……「不審者」は一人ではない。厳密に言うなら「不審者」などはなからいなかった」
「それは、どういう?」
背後にあった防止柵に腰をかけた小宮は夜風に靡く髪の毛を押さえ目を瞑る。
「ある人物が企てた計画。その一因としてお金で雇われていた人々。それが今回の騒動である偽りの「不審者」」
「その、人物とは?」
「あぁ、それは――」
瞑っていた目を開けた小宮は包み隠さず話した。自分が知り得る事実を。
「そんな、ことが……っ!?」
話を聞いた比奈は絶句し、何も知らなかった無知な自分たちに後悔し。
◇◇◇
B棟体育倉庫内
小宮たちと別れた白石は待ち合わせ場所になぜか指定されたB棟体育倉庫に赴き。
「須田君。こんなところに呼び出してどうしたの?」
「……」
「あぁ。今日で――この関係も終わりだから誰にも見られない場所で話そうってこと? メールか電話でもよかったのに」
こちらに背を向け何も発さない須田に対して少し不思議には思うもの、白石はさほど気にせずに普段通りに話。
「ねぇ、白石さん」
真剣な面持ちでこちらに振り向き。
「ん?」
「今回、お互いの意見も合致して「偽物」の恋人関係として過ごしてもらったよね」
「そうだね。私は楽しかったよ!」
「……そっか」
白石の答えを聞いて短く返し。
「あのさ」
「なーに?」
「……よければ、このまま本物の恋人に」
「ごめんね」
白石の言葉に一瞬肩をビクつかせ、残念そうに苦笑いを浮かべ。
「……後輩君に?」
「うん」
「そうか」
その一言を聞いて須田は肩を落とす。
「須田君の気持ちは嬉しいよ。でも、やっぱり私は彼を――小宮慎也君を諦められない」
「……」
芯の通った真っ直ぐとした言葉。
「須田君とは前のように友人として仲良くできると、嬉しいな」
その言葉が何よりもフラれた須田に効くとも知らず、晴れやかな笑顔で。
「……こちらこそ。よろしく」
「うん!」
二人は握手を交わす。
元々、白石と須田の二人はお互いの意見――「少しの間の隠れ蓑」が必要でありたまたま同じ目的を持つ同士手を組んだ。
白石はその美貌、性格。生徒会に所属しているという理由で男子から絶大な人気。
須田は野球部のキャプテンであり、教師、生徒から人気がある。
そんな二人は「終わらない告白」という聞く人が聞けば妬むであろう内容に翻弄される毎日を過ごしていた。
そこで、打開策として周りの生徒たちが納得をするように仕向ける――要は互いに付き合う(偽物)を演じて過ごすこと。
それは今回の「不審者騒動」に打ってつけだった。
「女子」は「男子」と下校。
他の生徒たちが嫌々集団で帰る中、付き合っている生徒たちは痛い目を向けられることなく苦もなく登下校できる。
そこにあやかるように白石と須田は二人で下校。すると二人の下校を見ていた生徒たち間で瞬く間に噂は広まり。
「嘘」を「真」にすることなど容易い。
「白石さん、最後に我儘いいかな?」
「内容にもよるけど、何?」
握手を終え、お互い帰宅と思った矢先。
「見てもらいたいものがあってさ」
「今日は遅いし、明日じゃダメ?」
「それが後輩君――小宮君と付き合える近道になる代物だとしても?」
「……その話、乗ります!」
須田の態度を不審に思った白石。魅力的な内容を持ちかけられ、あえなく撃沈。
「じゃ、こっちきて」
須田は倉庫――B棟体育倉庫に白石を誘い。
・
・
・
『……え?』
須田が開け放ったB棟体育倉庫内を見て、二人は絶句し、動きを止める。
鼻につく埃とカビの匂いに顔をしかめ倉庫内に足を踏み入れる。すると倉庫内には大人が三人、いや四人いて。
「――彼の予想通り来るとは、残念だよ須田君。して、君は……自分が選択した行動が何を意味するか、理解しているかね?」
須田だけに眼光強く光らせた目を向ける――生徒会顧問の一色叟先生が質問をし。
「……っ」
須田は何も答えられず、たじろぐ。
「動くな」
「!」
「うぐっ!」
「噂崎組」の木崎が須田と己で押さえつけている体育教師の剛田に吠える。須田はその怒声に身を縮こませ剛田はなすがままに地面に平伏し唸り声を上げるだけ。
「……」
跳び箱に寄りかかる――灰色のスーツを着込むいかにもやりての男性が眼鏡を上げ。
「えっ、と?」
何も知らぬ白石の顔には戸惑いが見える
「安心せい。君に不埒な行いを働こうとした輩はわしらが懲らしめた」
普段通りの優しい顔つきで安心させるように白石に告げる。
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