第57話 旅行は計画の段階が一番楽しい
◆
「不審者騒動」から早いもの二月が経ち。
今では「あんなこともあったかぁ」と青南高校の生徒、教師の記憶から薄れつつある。
ある男子生徒が廊下を歩いていた。
「小宮!」
「……」
すると、背後から名を呼ばれ。
「……はい?」
男子生徒、小宮は面倒臭そうに。相手をしたくないと言うように不機嫌に振り向き。
「恋の伝授をしてください!」
「帰れ」
土下座をする名も知らない男子生徒のお願いを秒で拒否。その足で目的地に――
「ここを通れると思うなよ!」
「通りたければ!」
「我々に女性にモテる秘訣を!」
柔道部の汗臭い男達が立ち塞がる。
「うわぁ」
柔道部部員から漂うモワンとする異s――芳醇な香りに顔を顰め、後方にたじろぐ。
色々な意味で面倒臭いなあ。もう。
「……まず」
『!』
「女性は、清潔感ある人を好みます。その身嗜みはもちろん。外見、匂いにも気を使うといいですよ。あぁ、見境なしの告白はNGで」
逃走を諦め、お告げを告げる。
「おお、そうか! ありがたい!」
「今日から始めよう!」
「清潔感だな!」
「はい、減点」
『なぬっ!?』
暑苦しく煩い男達に容赦なく。
「はぁ、あのですね。女性男性関係なく、煩く騒ぐ人は嫌われます。もう少し節度を持って行動してください。今のままでは身嗜みを整えようが減点ポイントの方が高いので」
『……』
そもそも自分たち自身に原因があったと知った柔道部部員たちは打ちひしがれ。
『……』
その様子をモサイ男たち――美咲や生徒会の親衛隊たちが羨やましそうに眺めていた。
こっちみんな! あっちいけ!!
内心、気色の悪い男たちにキレて。
・
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目的地、美術室の扉を開ける。
「よ、ハーレム王ww」
椅子に座りニマニマ笑う蓮二は首だけを向けて小宮を渾名(笑)で呼ぶ。
「……重役出勤とは恐れ入った。"時の人"となった幽霊部員は違うな」
皮肉を言うクマは優雅にお茶を飲み。
「なりたくてなったんじゃないやい。蓮兄はその謂れのない名前やめろ」
苛つく感情をなんとか理性で抑えてソファーに腰を下ろす。
「しかし、生徒会全員と付き合うとは大きく出たなぁ〜」
「やはり小宮は海原先輩を狙っていた、と」
「冗談で言ったつもりの重婚が現実味を」
「赤飯を炊かなくては」
「……」
言いたいことを言い続ける友人に対しついに怒りが達した小宮は無言でガンを飛ばす。
「嘘嘘。冗談やって〜」
イヤらしい笑みをやめて小宮の元に近寄ると「機嫌なおしてや〜」と肩を揉む。
「事実を言ったまでだ」
クマはクマで淡々と。
「はぁ。僕も二人の冗談だとわかってるからもう何も言わないよ。そんなことより――」
ずっと手に持っていた「今年の夏はここ!」というパンフレットを机に広げる。
「さぁ、夏休みの計画を始めようか」
ニヒルな笑みを浮かべて。
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・
現在、7月16日。
太陽も燦々に、夏が本気を出す。
制服は夏服に変わり、額に汗を垂れ流す男三人。夏休みの計画を建てていた。
「着々と近づいてきた夏休みに向けて、例年通り行きたい場所を確実出し合おう」
友人二人の顔を伺い。
「いくよ――」
『やはり(やっぱり)――「山」「海」「家」だな(だよね)』
三人は同時に発言。
小宮→「山」
蓮二→「海」
クマ→「家」
「……極端に案が別れたね」
資料室から借りてきたホワイトパネルに自分で書き写した案を見て悩み。
「そうやが。クマくんの意見だけは却下だな。「家」とか引き篭る気まんまんやん」
「僕も思ってはいたけどクマだからね。で、クマは「山」と「海」どっちがいい?」
「……「家」は冷房もあって快適だぞ?」
『却下』
二人はクマの提案を即却下。
「クマ。夏休みだよ? 30日以上ある学生だけに許されたパラダイスだよ?」
「そうやぞ、クマくん。この機会に思い出を沢山作るのもいいものやで?」
「そう言って去年、一昨年とロクにいい思い出になっていない記憶があるのだが?」
『ピュ〜』
クマの発言に二人はそっぽを向き、出来もしない出来損ないの口笛(偽)を吹く。
「……もう「海」と「山」が両方ある何処かでいいんじゃないか?」
二人の友人に呆れた視線を送りつつ。
「それが無難かな」
「でも、その二つがある場所か〜」
「偏見かもだけど、田舎とか?」
「……田舎か。新潟とかはどうだ?」
「近くに長野もあるしいいんじゃね?」
行き先が決まった。
「ホテル代……旅行代は以前から話していた通り僕が出そう。喜べ、奢りだよ!」
胸を張って堂々と。
「おう、頼むわ」
「有難いが、叔母さんと叔父さんに着いていかなくて本当にいいのか?」
「いいのいいの。たまには夫婦水入らずで旅行を満喫してもらいたいし」
クマの発言に軽い調子で答える。
小宮は叔父さんと叔母さんに「恩返し」をするためにアルバイト――喫茶「鷲見白」でバイトを開始した。
約三ヶ月間のバイト。貯金もだいぶ溜まった小宮は計画通り叔母さんと叔父さんに恩返しをするために「温泉旅行」をプレゼント。
※アルバイトは未だに継続中。
『ありがとうな。慎也がアルバイトをやっていたのは社会勉強だと思っていたが、優しい子に育って、嬉しいよ』
『慎ちゃんありがとう。ふふ。お言葉に甘えて温泉旅行、楽しんでくるわね』
二人はとても喜んでくれた。
小宮は当初の予定通り育ての親「小宮夫妻」に恩を返せた。
その勢いで陰で企てていた計画――唯一の男友人蓮二とクマと旅行を行こうと。
「大宮ちゃんたちが慎也くんの旅を許すとはね〜」
「確かに。旅行先で何が起きるか……小宮が他の女を作る(作ってしまう)可能性が高すぎるが故、全否定をすると思っていたが」
「ま、僕も信頼されているからね。余計な真似をするつもりはないし、変な行動を取ったら「監禁」って言われてるし」
「全然信頼されてないやん、自分」
「哀れだな、小宮」
二人に可哀想な子を見る目を向けられる。
「あはは。冗談……ではないけど「夏祭り」とか「デート」をする約束は事前に取り付けているから大丈夫。彼女たちも女性陣での付き合いもあると思うし」
「……ふーん。まぁ、そう言うなら」
「小宮。行き先はバラすなよ」
「そんなヘマはしないよ〜それにもしバレても彼女たちが来るわけ……」
その先を考えて、口を噤み目を逸らす。
「そこで無言になるのやめや」
「リアルすぎて泣けてくるな」
哀れみの視線を向けられ。
「だ、大丈夫だって! ほら、僕たちは楽しむことだけを考えよう!」
「……そうやな」
「無粋だったか」
無理にはしゃぐ姿を見て二人は薄く笑う。
男三人は夏休みの計画を進める。
◇◇◇
7月25日。
「苦行」と呼ばれる校長の挨拶は青南高校に存在せず、手短でスピーディーな校長の挨拶を聞き終えた小宮たちは終業式後、教室に集まり夏休み前最後のホームルーム。
「――明日から夏休みに入ります。楽しい事が沢山あります。でも、お酒やタバコ……不良さんのような悪い道に進むのはダメです。夏休みデビューは……軽くなら許します」
硬いのか緩いのかわからないことを話す担任の愛沢先生に注目が集まる。
「難しいことは言いません。夏休み明け、また、こうして皆の元気な顔が見れることを楽しみにしています。夏休み、楽しんで!!」
『はーい!』
その言葉に園児のように返すクラスメイト……ここは幼稚園かな?ってこれ何回目だよ。もう飽きたよ。
小宮は変わらないクラスメイトたちに内心ため息をつきつつ窓に顔を向ける。
そこには青く澄んだ綺麗な青空。夏を表現するように真っ白な入道雲がこんにちは。
浮かれるのもまた粋かな。
夏本番、十六の夏に夢を見る。
※これにて二章の本編お終いです。
数話、閑話が続きますが、最後までよろしくお願いします。
三章は……8月近くになる予定です。
すみません、リアルが色々と忙しくなる時期で💦
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