第31話 「補佐」になります
◇◇◇
それは「アルバイト」探しに苦戦を強いられていたとある日の出来事。
美咲に「生徒会副会長補佐」とかいう訳のわからない役職?立場?で生徒会の会議に出席させられた時の話。
『それでは本年度の予算を――』
『少し早いですが、文化祭の――』
『運動部部費の経費が高いですね――』
見目麗しき生徒会メンバーが肩を並べ意見を出し、論議をし合う。
「……」
暇だなぁ。
連れられて来たはいいもの、その聞いても解らない内容を永遠と論議し合う生徒会の皆さんの
ちなみに、この数日間で大宮から「美咲」と名前で呼べと強制された小宮君。
大宮に至っては「恥ずかしいからまだ当分は「小宮君」呼びにするね」とのこと。
ここで青南高校生徒会メンバー紹介
・生徒会長:
三年生。赤茶髪のミディアムヘアーが似合う小柄ながら理知的な女性。生徒、先生から信頼は厚く。胸は「無」。
・副会長:
二年生。ブラウン色の以下略。
・庶務:
三年生。ショートカットの黒髪が似合う王子様系女子。気さくで誰にでも優しく、男女関係なく人気がある。胸は「普通」。
・書記:
三年生。ウェーブに伸ばしたクリーム色の髪が似合う美春に似ておっとりとした正確の女性。普段から小宮を「弟」のように接して馴れ馴れしく可愛がることから美咲が一番危険視している。胸は「大」。
・会計:
一年生。黒髪ツインテールで毒舌な女子。小馬鹿にしたような言動が多く見られ正確に難あり(小宮限定)。胸は「中」。
計五名。全員女性で「可愛い」「美人」の集まり。
例年、成績上位者の生徒会附属希望者から選ばれる選りすぐりの優秀者達でもある。
『――では、「補佐」の――間抜け面で外を眺めている小宮先輩はどう思いますか?』
『うぇ?』
部外者の
『さては先輩。お話を聞いていませんでしたね?』
『それはごめん。でもさ僕は部外者でしょ。意見なんてしないよ』
『『『?』』』
至極真っ当な発言をしたはずなのに皆して首を傾げる。美咲ですら首を傾げる始末。
『……小宮君。つかぬことを聞くが、君は「補佐」だよね?』
『そうですが……それって形式上ですよね。ですからそんなもの無効――』
『残念だがそういうわけにもいかない。君は美咲嬢に推薦されてきた身。ならば歴とした生徒会の一員さ』
『……』
鷲見白会長にそう指摘されてしまう。
『それに、今話題に上げている「問題」は小宮君、君も無関係とはいかないだろう。いや、関係「大アリ」とも言える』
『……ちなみに、内容とは』
嫌な予感が捨て切れないが聞いてみる。
『君の「二股」疑惑についてだ』
『そんなどうでもいいものは忘れて仕事してくださいよ……』
嫌な予感が的中したことに辟易とした。
『残念ながらこれも大事な「仕事」でね』
鷲見白会長は重苦しく息を吐くと続ける。
『君達の関係について黙認されてはいるが意見、不満を少なくない生徒から「目安箱」に投函されている。それがこれだ』
どこに隠し持っていたのか何通かの便箋をテーブルの上に無造作に置いた。
『……』
『……』
目で「読んでみろ」と伝えられた気がしたので手元にあった手紙をひったくる。
【どうすれば私も小宮先輩の彼女になれますか? 匿名】
『……』
お、おう。「意見」ってそういう系……。
見てはいけないものを見てしまった感覚に陥りながら読み進むこと数分。
どれも自分への「好意」が伺える物ばかりで、このまま読み進めていいものかと悩み出した時、他とは異なる桜のシールが貼られたある便箋に目が惹かれる。
【毎朝小宮きゅんが乗る電車の向かい側に立って(座って)好き好きアピールをしているのに気づいてくれません。この頃は下駄箱に私の――想いを込めた「髪の毛入り」の手紙も投函しましたが返事も返ってきません。どうしたらいいでしょうか? 匿名】
『……』
こ、怖いわ。「不満」もそっち系統……これに至ってはなんか「深い闇」を感じる。でも下駄箱に
他にも何通か読んだが他と逸している、というか毛色が違う内容……「アピール」「髪の毛」という単語が怖くて震えてしまう。
『どうかな?』
『と、言われましても……』
『私も一眼目を通しはしたがその反応が妥当だろうね』
ふうと肩で息を吐き。
『これでも生徒諸君からの要望だ。無碍にできない。と言っても全て聞き入れることも難しく参考程度に留める。私たちが議論しているのは一つ――君の「保護」について』
『ほ、「保護」?』
予想だにしない言葉に戸惑う。
『そ、「保護」さ』
苦笑混じりの笑みを浮かべ近くにあった便箋と小宮を交互に眺めて。
『は、はぁ』
小宮は小宮で便箋を読んで「恐怖」は感じたもの、自分の身を守れる力は持っているし、守られるほどもうやわじゃない。
ただ、周りから見たら自分はか弱く「保護対象」にあたってしまうのかと不満が募る。
小宮の煮え切らない表情を見て鷲見白会長はいつにも増し真剣な面持ちで語る。
『「「小宮慎也」は複数の女性と付き合える」……と。校内で知れ渡った今、女子生徒諸君から「告白」の機会が増えるだろう。その時に「受ける」なら「受ける」。「断る」なら「断る」。事この件については曖昧な表現。保留は悪手……決して「夢」や「希望」を与えてはならない』
『……』
「彼女」達に未だに「答え」を出せていない自分がそんな「選択」をできるのか……。
『君とは美咲嬢を通して会話を友好を重ねた仲。悩みも葛藤もある程度理解できるつもりだ。もはや他人ではない。だからこそ口にする。その瞳に迷いがあり、まだ焦る時ではないとしてもいつかは答えを出すその時が来ることも常々忘れてはいけない』
『その時……』
今でも何も決められない自分が本当に「答え」など出せるのか不安を覚えた。
『小宮君』
『はい?』
『好きだ』
『!』
突然の鷲見白会長の「告白」に頭が真っ白になる。
『と、ここで瞬時に「イエス」か「ノー」で「答え」を出せたら申し分ないが、現実ではそう上手くいかない』
『あの?』
『あぁ、君を試すような真似をしてすまないね。自分でも今の行動は浅慮で性格が悪かったと反省している』
『では……』
『冗談だとも』
『……ほっ』
安堵の気持ちから息が漏れる。
『(ゴゴゴ)』
真横から鋭い視線が……察し。
『私は「恋」をしたことがない身。そのため多くを語れないが、恋は自分を無防備にする。自分を弱くする……らしい。その弱くなった心が愛するものを求める。それが「叶わぬ恋」だと知った途端諦めるのが必然。ただ中には「危害」を加える者も存在する』
「危害」その言葉を聞いて思い出した。以前、美咲と文にボコボコに――
『(ニコニコ)』
『ひっ!?』
真横から溢れる濃密な殺気に怯える。
『ん?』
『な、なんでもないですっんう!』
首を振ってなんでもないことを伝える。
その時、抓られる右太もも……。
『そうか。話を続けるが君自身、自衛ができるのかもしれない。手助けが不要なのかもしれない。だが、目の前で困っている生徒に手を差し伸べるのが私達――「生徒会」だ』
堂々とそう宣言をする。
『騒動を未然に防ぐ……という理由も少し含むが私達「生徒会」の監視下に君を置き、このような危険な思想の持ち主から君を守る。言い方を変えれば「保護」を行う』
鷲見白会長が近くにあった便箋をひらひらと揺らし。
『美咲嬢が君のことを好いていることはこの場の皆が知っている。なのでそこは安心してくれ……君に下手なアプローチ紛いをした私が言えた立場ではないがね。ま、バカな真似を起こす者などいない。だろう、諸君?』
『『『『(コク)』』』』
鷲見白会長が他の役員に言葉を投げると皆一様に頷く。
『――私を含め、君達の仲を引き裂く者はいない。私達は君達の――「味方」だ』
鷲見白会長の言葉に他の役員も続く。
『尊敬する先輩の「彼氏さん」ということもありますが、小宮先輩は「好く」よりも「揶揄う」の意味合いの方が強いですからねぇ』
イタズラっ子のように小悪魔風の微笑みを浮かべる会計の夢園。
『無論。好き合うカップルを引き裂くなど言語両断。ボクは君達を応援しているよ』
女性とは思えないイケメンスマイルで微笑む庶務の海原。
『当然よ。美咲ちゃんと弟君に危害を加える人は誰であろうと「お姉さん」が説教よ』
お姉さん然としたほんわか口調の書記の白石。
『み、皆……』
そんな生徒会の仲間を見て美咲は感涙していた。
『……』
「女性」から守られるという内容があまり嬉しく思えない小宮を置いて。
『今回小宮君が会議に参加表明をしてくれたことは大きい。このまま事が収まるまで生徒会に「補佐」としてポストを置くといい。融通も聞くし、牽制にもなり君も守れる』
『ということは……』
『うむ。「保護」などと御大層に話したが、つまるところ君はそのまま生徒会の「補佐」を担ってもらう。生徒会自体はそこまで忙しくはないもの男手はいないより助かる。それが君のような「小柄」な生徒でも、ね』
『……どうも』
貴女には言われたくないですけどね、と自分よりも「小柄」な鷲見白会長に内心呟く。
その後、他の生徒会メンバーも含めて話し合う。
その時に「不審者」とか「ストーカー」とか話題が上がったけど……内容はあまり解らなかった。解ることはただ一つ、「盗聴」とかも十分「不審」だよね。
美咲の行動を脳の片隅で考えつつ、自分の開示した意見も尊重され、アルバイトの件もあるので週に数回顔を見せる運びとなった。
◇◇◇
『小宮君、少しいいか?』
『はい?』
会議も終わり、美咲に「廊下で待っているから」と言われたので早目に帰りの支度をして合流しようと思っていたところ、同じ目線の先輩、鷲見白会長に声をかけられた。
『アルバイト、見つかりそうかな?』
『あー、実は難航しています』
その質問に、苦笑いでぶっちゃけた。
「人間不信」も問題だが小柄であり外見は「小学生」よくても「中学生」にしか見えず、どこも雇ってもらえなかった。
『だと思った。君は私と同じ匂いがする。だからなんとなくは察していたさ』
『……』
『そう拗ねないでくれ』
『別に、拗ねてません』
拗ねてはいないが先輩の顔が直視できずそっぽを向いてしまうのは許してほしい。
『まぁ、なんだ。私もわざわざ君に嫌味を言いに来たわけではない。君さえ良ければの話だが――うちで働いてみないか?』
『先輩のお家、ですか?』
『うむ。突然の話ですまないがうちの両親は自営業で喫茶店を経営していてね。どうやら君のお家方向にも近いときた。外観はこじんまりとした人の入りも少ない喫茶店だから仕事は案外楽さ。それで、どうかな?』
小柄な先輩が小首を傾げて問うてくる。
正直それは願ってもないこと。本来なら大手を叩いて喜びたい。
『素敵なお誘い嬉しいのですが、美咲達に変な勘繰りをされて先輩にご迷惑をかけるのも忍びないので……』
『案ずるな。すでに美咲嬢達に事前に許可を貰っている。だからあとは君の答え次第だ』
こちらの心理を諭すような目を向け、先輩は朗らかな笑みを作る。
『……じゃあ、厄介になります』
少し考えた末、双方迷惑がかからないならと思い小さく頷き了承の合図。
『そうかそうか! よい答えを聞けて私は嬉しいよ』
『は、はぁ』
こちらの肩をパシパシ叩く上機嫌の先輩。
そんな先輩とは裏腹になぜそんなに喜ぶのかと裏で何かあるのでは?と不審がってしまう疑心暗鬼の自分がいた。
『そう身構えないでくれ。自分と似た身長の子が働くと思うとつい嬉しくてね』
『先輩も働いているのですか?』
『私は手伝い程度さ。生徒会が忙しくない時はシフトで入っているけどね。だからその時は宜しく頼むよ――後輩君』
鷲見白会長はその小さな手を差し出す。
『こちらこそ、宜しくお願いします』
話を全て聞き終え、疑心暗鬼が晴れた小宮はその先輩から差し出された手を握る。
その後、シフト関係や賃金について説明はあったもの、次の日からさっそくアルバイト開始の運びとなった。
こうして人生初のアルバイトへ。
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