第40話 消えない気持ち
◇◇◇
倒れた比奈と伸びていたその父親の利憲を介抱し。皆には一旦椅子に腰掛けてもらい酔いを少しでも治すためにお水を配る。
「……疲れた」
皆が皆酔いが回ったりと上手く動けないこともあり小宮が一人で走り回り肩を貸して介抱し、騒動を収めることに。
今は皆からちょうど見えない位置にあるカウンター席でテーブルにグデーっと体を預ける。ふと気になりスマホの画面を見ると午後10時を回るところだった。
「――小宮君」
「……美咲?」
皆同様疲れと酔いで倒れていると思っていた女性、美咲に声をかけられた。少し驚くも体を起き上がらせて目線を合わせる。
そこにはまだ頰が赤いが外見状は普段と変わらない美咲がそこにいた。
「皆は?」
「まだ横になってるよ。私は体質なのか酔いが早く醒めたみたい」
「そっか。記憶は?」
「うーん? 曖昧だけど……ちょびっと、覚えている、かな?」
顎に手をやり眉間に皺を寄せて思い出すように考え込んで一言。
「ま、酔ってたもんな」
「うん。小宮君が比奈先輩の下着姿を舐め回すように眺めていたのは鮮明に覚えてるよ」
「……」
「冗談冗談〜」
「タチが悪い」
『ぷっ』
二人はそんな会話をしてひとしきり笑い合う。
「ね、小宮君。何かあるんじゃないの?」
「……今ここで? 日を改めても――」
「ダメ。今日貰いたいの。早くしないと日付変わっちゃうよ? そしたら私拗ねるよ?」
「……わかった。ただ、少し待っていて」
「うん。待ってる」
美咲の根気良さと勢いに根負けし。立ち上がり、誕プレを取りに。
小宮と美咲以外誰もいないと思えるほど静かな空間の中、誕プレが入ったラッピングを手に戻ってきた小宮。美咲と向かい合い少し気恥ずかしそうに一度わざと咳き込み。
「あぁ、コホン。人並みの贈り言葉になるけど……大宮美咲さん。誕生日おめでとう」
そう言葉を贈り、誕プレを手渡す。
「他の言葉、期待していたんだけどなぁ〜でもありがと――小宮君?」
苦笑気味に手渡された誕プレを受け取ろうとした瞬間、小宮に手を軽く握られ。
「期待通りは僕にはちょっと無理。だってこれが僕だから。カッコよく偽ったってそれは所詮まやかしだ。でもこれは伝えたい。まだ答えは出そうにない……ごめん」
「ううん」
その言葉を聞いて美咲は自分も軽く小宮の手を握り返す。
「だけどさ、きっとこの先胸を張れる答えを出して僕は本当の意味で"前に進む"。その時は……あの、あれだ……その時でもまだ想いが変わっていなかったら、よかったら僕の隣を歩いてよ。君がそれでいいなら、だけど」
プレゼントを手渡し自分の本心を伝えて。
その時室内が暗くて良かったと思えた。
明るければこちらの顔が――赤らんだ顔が見られてしまう。
少しクサかったかな……蓮兄とクマにもカッコつけすぎたら痛い目見るとか言われてたし……もっとゆるく――
「!?」
刹那、右ほっぺに暖かい感覚。
「うん。待ってる。ずっと」
暗闇でも分かるほど頰を赤らめた美咲が満面の笑みで笑う。
「……」
自分はまだ残る暖かい感覚を残す頰に触れ立ち尽くし。
「でも。私は待っているだけの女じゃないよ。攻めて攻めて攻めて――攻めまくって。君を絶対に籠絡させてやる!」
「……なんだ、それ」
腰に腕をつけ、ビシッとこちらに人差し指を指して宣言する美咲に苦笑が浮かぶ。
その顔は表情は以前告白を受けた時と同様に朱色に染まり。
本当に、なんだそれ。
なんでこんな僕なんか好きなのか。
なんでこんなに胸が、暖かいのか。
その姿をニヨニヨと陰で見ている人も知らず、その逆で今は譲り、応援する人がいた。
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