第41話 男達の愉快な語らい
◇◇◇
5月6日。
客数が減った閉店間際の午後8時30分。
喫茶「鷲見白」に見知った顔が。
「――こちら、ハンバーグプレートセットライス大盛りと喫茶鷲見白限定DXパフェ。大盛りポテトです」
店員――「慎ちゃん」は注文の品をテーブルに並べていく。
ハンバーグプレートとライスは大柄な男性の前に置き、色とりどりの果実が入ったパフェの器は金髪の青年の前に置く。
おぼんの中に残った大盛りポテトは二人が手で取れる位置に置き。
「――失礼致します」
立ち去ろうと――
「おおきに。ここのパフェは格別なんよね〜「慎ちゃん」手作りなんやろ?」
「……悪いかよ」
立ち去ろうとしたところパフェを見て感嘆の声を漏らした金髪の青年に止められた。
その間、他の客がいないことを周りを見て確認した「慎ちゃん」はおざなりに返す。
「いんや、美味しいデザートが食べれて嬉しいねん。店長に習ったんやろ?」
「まぁ。何もできないよりはね」
「もうデザート系ほぼ作れるんちゃう?」
「……まだ半分だよ」
小声で返す「慎ちゃん」にお客――蓮二は「凄いやん」とカラカラと笑う。
ハンバーグをナイフで上品に切り、フォークで口に運び旨みを堪能し、ナプキンで口元を拭く――という上品な食べ方をした大柄な男性は利き手の右指を上げてサムズアップ。
「……店員。店長に今日のハンバーグの焼き加減もバッチリだと伝えてくれ」
「自分で伝えろ」
大柄な男性――クマに呆れたように。
「てか、クマはよくそんなに食べれるね。僕はそのハンバーグ一切れだけでギブだよ」
クマが食べるハンバーグセットの中身――200gのハンバーグにナポリタン。じゃがバターに温野菜。それに加えてライス大盛り、大盛りのポテトを見て口を押さえる。
見てるこっちが胃もたれしてくる絵面。
「愚問だな。食事が資本。体作りでは多くの食事を
向かいで美味しそうにスプーン片手にパフェを食べる友人を睨む。
「ええやんええやん。好きな物食べれればぁ〜それに、このDXパフェを甘く見んとくれ。ボリュームもよく尚且つ美味しい。クマくんだってお腹いっぱいになるで?」
「ふん。そんな俗な甘味物では腹の足しにならん……店員。奴と同じDXパフェとやらを食後に一つ」
「結局食べるのかよ……はいはい。喫茶鷲見白限定DXパフェ一つ。オーダー入りました〜」
ツンデレ友人を横目に厨房に下がる。
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厨房に戻ると他の人もいないし就業時間も近いからという理由で店長から二人と席でゆったりと寛いでいいと許可が出た。
その時にサービスとして三人分のメロンソーダをいただき。まだ女装姿は戻していないからか少し不機嫌そうな顔で二人と同じ席に小宮も腰を下ろし。
「で、大将。聞いたで昨日は羨ましい体験をしたんだってな?」
「……誰から聞いたのかな?」
「宇佐美や」
「チッ。幼馴染とかリア充が」
蓮二の口から出た海原宇佐美の名前を聞き舌打ち一つ。
「自分には一番言われとうないけどな。幼馴染言うても家が向かいさんなだけやし」
「はいはい、自慢乙〜」
蓮二の話に耳を傾けることなくクマの隣の席で「ケッ」とそっぽを向いて。
言葉の通り生徒会の一員であり先輩である海原宇佐美は蓮二の幼馴染である。
昔いた自分の幼馴染に裏切られた過去から今も幼馴染として仲のいい蓮二が羨ましい……要は妬み。
「小宮……もしやお前……海原先輩まで狙うつもりか……」
「違う。ただ単に幼馴染幼馴染している蓮兄がうざいだけ」
「正直者やなぁ〜」
悪口を間近で言われても蓮二はカラカラと笑う。
「ま、俺と宇佐美はホンマに何もないで。俺は宇佐美に対して恋愛感情など持ってないし男友達感覚くらいや。アイツも……ま。慎也くんが邪神するほどのもんはないね」
「いや、別に蓮兄と海原先輩の関係がどうこうはあまり気にしてないよ」
「蓮二と海原先輩の会話を見ていれば、な」
クマのその一言に三人は軽く頷く。
「そんな話は今はいいねん。それよか慎也くんの方だろ。で、昨日はどこまでいったん? 叔父さんに聞かせてみい?」
「強引に聞いてくる親戚の叔父さん! 本当に何もないよ。昨日は色々と大変だったしこの僕だよ何か進展があるとでも?」
「いやーもしかしたら、もしかするかもしれんやん?」
「ないよない。ありません」
小宮が否定すると「つまんないの」と店長がサービスしてくれたメロンソーダを飲み。
「何もないのか。ついにあの小宮が大人の階段を登るのかと思っていたが……」
残念そうな顔を作るクマは片手にラジカセとクラッカーを持って待機していた。
「祝う気満々なのやめろ」
「残念」
そんな三人の会話を人の良さそうなニコニコとした笑みで聞く店長。
「それよりも二人に聞いてほしいことがあるんだ。聞いてもらえると助かる」
「また突然やね。それで?」
「食べながらでいいなら聞こう」
二人の言質をとったので。
「実は、明日文さんのお家にお呼ばれされることになりまして……その、お母さんに挨拶することに……どしよう?」
真剣な表情の中に不安さを滲ませて。
「おめでとう」
すると向かいの清々しい笑顔の蓮二から拍手と共にお祝いの言葉を貰い。
「(パッーン)」
隣にいたクマに無言でクラッカーを鳴らされ。遅れてラジカセから「大人の階段のーぼるー君はまだー」と懐かしの曲が。
「いや、全然おめでとうじゃないから。どうしたらいいか聞きたいんだよ」
「ラジカセも止めろ」と言いながら髪についたクラッカーの破片を取り少し怒ったふうの小宮相手に二人は肩を落とす。
「いやーどうしたらいいってもうそんなの一つやろ。なぁ、クマくん?」
「ああ、事実上の親公認ご挨拶。もうそれは婚約と言っても過言ではない。明日はそのまま役所に赴き婚約手続きで晴れて夫婦だな」
二人は満面な笑みでこちらを見てくる。
「……色々と飛躍しすぎなんだよ。絶対ふざけてるよね?」
そんな二人に眉間をヒクヒクとさせて問う。
「いんや? これで晴れて慎也くんも幸せになれるし一石二鳥や。雪見さんなら良い子だし問題ないね。やったな!」
「うむ。友人が幸せで俺も鼻が高い。これは祝いの席だ。店長――赤飯を」
「いやいやいや! 二人とも怒るよ?」
「そもそも赤飯などないから」と告げるも二人は小宮が文と結婚した前提で話を進め。
「小宮君」
「あ、店長。この馬鹿二人に言って――」
「娘は、貰ってくれないのか?」
「店長おぉぉおぉぉぉっ!!」
悲しげな瞳で訴えかける店長。
頼りになる店長もボケ始めたことで更にカオスが加速して。
「ええやん。生徒会長も混ぜて重婚やww」
「重婚とは……小宮もビッグになったな」
「赤飯は任せてくれ」
そんな三人を見て。
「だから、違うって言ってるだろうがよぉぉぉぉ!!?!!?」
小宮の魂の叫びが木霊する。
「幸せは誰かがきっと運んでくれると信じてるねー」と二番曲に入った音楽をBGMに。
その後も男達の話し合いは続く。
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