第39話 野球拳でもしませんか?
「――では、宴もたけなわになってきたところでお開きに――するわけもなく〜もっと盛り上げるために「野球拳」でもしようか!」
頰を赤らめた比奈が唐突に言い放つ。
その体は横にフラフラと揺れ動き。
そこにはもう理知的な女性は存在しない。
「それ、いいですね〜」
「「野球拳」。聞いたことがあります。生は見たことがありませんので楽しみです」
同じく顔を赤らめた美咲と文が同意し。
『やんや、やんや!!』
他の生徒会メンバー達も同様に頰が赤らんだ状態で同調。
どうやら美春と真依が飲んでいたお酒の残香を吸い酔う――いわゆる「場酔い」という現象が起きていた。
「甘酒」でも「お酒の入ったお菓子」でも「その場の勢い」でも酔う人は稀にいる。
「……店長」
「うちの娘と家内がすまない。ただ、ああなったら女性は止めることは至難の業だ。落ち着くまで待つか、相手をするか……」
「そうですか……」
盛り上がる女性陣を横目に。
「にしても「野球拳」って。男の僕達は巻き込まれないように厨房にでも避難しますか」
「それが無難かな」
女性陣のハッチャケを見て軽く引き、肩身の狭い男性陣はいそいそと厨房に引っ込む。
「栄えある配役は〜司会進行役である私こと「比奈ちゃん」と〜「慎ちゃん」〜」
『フー!!!!』
背後では最高の盛り上がりを見せていた。
「……」
「小宮君……」
男性陣は悲壮に暮れ。
「ほらほら「慎ちゃん」。逃げないでこちらにおいで。ただの余興だから安心したまえ。遊び感覚でヤればいいから〜」
「そうそう〜」
「先輩の勇姿を見せてください」
「店長……」
比奈の声を無視し、近寄ってきた美咲と文に両手を抱え込まれドナドナされる中、最後の良心である店長に――
「す、すまない……っ」
「……」
見捨てられた。
・
・
・
「さあさあ。ルール説明は簡素的なものですませよう〜まず、私と「慎ちゃん」がジャンケンをする。勝者は動かず、敗者は着ている衣服を「一枚」脱ぐ。どうだい、誰にでも解る簡単なルールだろぉ?」
「……まぁ」
どこまでで「ストップ」が入るのか聞きたかったもの余計なことは口にしない。
「エンドレスに脱ぎ続ける。両者のどちらかがもう脱げないという状態になったところで余興は終わりだ〜自身の衣服が命の代価と置き換えて挑んでくれたまえ〜」
「は、はぁ」
この時にはもう何を言っても無駄だろうと悟った(相手が酔っ払いだから)。
「もちろん、勝者には敗者への「絶対権」が行使され。敗者は勝者の言うことを「一度」聞かなくてはならない。棄権は禁止だ〜」
「……」
ルール追加されてるじゃないか。
不満を漏らすも味方が少ない小宮にはどうにでもできず、周りの声に耳を貸す。
背後から声が聞こえてくる。
「美咲先輩はどちらが勝つと思いますか?」
「「慎ちゃん」に負けて欲しいな」
答えと言うか会話になってねえ。
それ、君の願望じゃん。
「比奈ちゃんの下着姿もいいが「慎ちゃん」の下着姿も……甲乙つけ難いな」
「私は「慎ちゃん」の敗北に小宮先輩の魂を賭けます」
海原先輩、頼みますからその凛々しい顔でそんな発言はしないでくれ。
そして後輩よ、それどっちも僕。
「どっちともがんばぇぇ〜!!」
うーん、これは……プリ○ュアかな?
「「慎ちゃん」の〜裸が見てみたーい。はい。イッキイッキ。イッキに脱っげ!!」
大学生の悪ノリ!!
欲望に忠実だよ美春さん。
頼むから静かにしててくれ。
そう思っても口にできず。
どうせ言っても止まらない。
「オーディエンスの皆も熱く盛り上がってきたところで――さっそく私と君の一騎打ちを始めようか〜」
「……」
こちらに抗戦的な態度を示す比奈。
もうどうにでもなれと思い対峙する。
ま、鷲見白先輩の両親もいるため下手なことは起きないだろう。
「ただ、私も鬼ではない。ハンデで一枚先に脱いでやろう。君はどれを選ぶのかな?」
そ、それを
それも親御さんの目の前で……。
「……じゃあ、そのリボンで」
「リボンね、無難な選択だ。が、夢がない。下着類かと思っていたからガッカリだよ」
「……」
無難に答えたつもりなのに不満の声。
「ピッチャービビってる〜」
「ヘイヘイヘーイ!」
その間、比奈は首元のリボンを外す。
妙に滑らかな仕草で。
「さ、脱いだ。これで小宮君が少し有利に立ったかな。だがこれは勝負。時の運を制してこそ勝敗は決する」
「油断は、禁物ですよ?」
この流れに乗るしかないと思い話に乗りかかる。
「上等。いくよ〜」
先輩が右手を出したのでこちらは左手を出す。
『野球するならこーゆー具合にしやしゃんせ〜アウト。セーフ。よよいのよい!』
「野球拳」の音頭を口ずさみ。
小宮は「グー」
比奈は「チョキ」
「フッ。どうやら"時の運"とやらは僕に味方をしてくれたようだね」
グーの手を握ったまま勝ち誇る。
は、恥ずかしい。
流れに身を任せてみたもの、こんなの痛いヤツ……厨二じゃないか……。
素面では少し厳しいものがあった。
「くっ、やるね。まあいい。まだ勝負は始まったばかり!」
そうは言うが悔しそうにしながら左手につけていたシュシュを外す。
「次、いくよ!」
また、先輩が右手を出したのでこちらは左手を出し。
『野球するなら――』
二人の生死をかけた闘い?が幕を開き。
・
・
・
「野球拳」を初めて数分ほど経ち。
勝敗はすぐに決まる。
「そ、そんな……」
上は白く可愛らしい下着。衣服が脱げたことで顕になったシルクのような色白で綺麗な素肌。下はスカート姿という少々あられもない姿で――比奈は立ち尽くす。
周りには脱いだ衣服が無造作に散乱し、さっき負けたことで最後の砦――スカートを脱がなくてはいけない。
屈辱か羞恥からか顔に脂汗を作り肩が、小さな体がワナワナと震えている。
「……」
そんな姿を向かいからこちらも立ち尽くし、視線を逸らして考える。
る、ルール通りやったつもりなのに全勝してしまった……先輩が弱いのか、はたまた僕が運がいいのか……。
男性が観客として観ていたら「有能!」と声が上がるかもしれない状況。
自分からしたらこの無駄な運の良さに「無能!」と罵りたい気分。
「……いいだろう。これは勝負。くれてやる!」
下唇を噛み、赤らめた顔でこちらを睨む先輩がスカートに手をかけた。
「い、いや。もう僕の勝ちでいいじゃないですか。わざわざ脱がなくても……」
「否。これは私のプライドの問題でもある。全敗している状態で引き下がれるものか!」
静止の声も虚しくスカートを脱ぎ去る。
上下に純白の下着のみを纏う比奈の姿。
先輩を何がそうさせているのかは不明だけど、このままじゃ……。
「……」
助けを求めるべく鷲見白夫妻に顔を向け。
「比奈ちゃーんがんばえぇぇーー! そんな変態に負けるなぁぁ!!!!」
真依はまたプリ○キュアに声援を送るように……
誰が変態じゃい!
「……」
案の定、
「小宮君、見損なったぞ!」
「小宮先輩のスケベ! ロリコン! 女装趣味!! 会長を解放してください!」
海原と夢園から非難の声を浴び。
なぜか僕が悪者に……解せぬ。
スケベでもないしロリコンでもない。
ましてや女装は僕の趣味じゃない。
「美春さん見てください。こちらさっき撮った「慎ちゃん」――弟君の生写真です」
「いいわね〜私にも後で送ってくれる?」
「いいですよ〜でも〜」
「解ってるわ〜慎也君秘蔵のお宝写真を贈呈するわぁ〜」
「交渉成立ですね」
「ええ」
『ふ、ふふふ』
似たもの同士の美春と穂希は「野球拳」には見向きもせず、陰でコソコソと密談。
美春さんも白石先輩も当てになんないし、あとは……。
「小宮クン。
「鷲見白先輩の下着姿を見れて嬉しいですか? 嬉しいですよね。ただそれ以上見たら……」
「……」
背後から物凄い殺気を感じる。
恐らく、いや間違いなく「夜叉」がいる。
それも、二人。振り向くな。ヤられる。
「……」
ど、どどど、どうする?
勝敗は二分の一、か……いや、先輩の手を見てわざと負ける?
それしかないと思いこの勝負に全集中。
「さぁ、やるかぁ〜私が負けたら小宮君はどっちを選ぶのかも、見ものだね〜」
座った目でカラカラと笑いながら。
完全に目がキマッてやがる……っ。
「……」
平常心、平常心、大丈夫……負ければいい何も難しいことはない。簡単だろ。
「いくよぉぉ!!」
「(ゴクリ)」
その掛け声に緊張から唾を飲む。
今までと同様で先輩が右手を出したのでこちらは左手を出す。
「野球するならこーゆー具合にしやしゃんせ〜アウト。セーフ。よよいのキュー〜」
「野球するならこーゆー具合にしやしゃんせ〜アウト。セーフ。よよいのよ……へ?」
「野球拳」の音頭を口ずさみ。
いつもの流れで勝敗が決まると思った矢先、さっきまでフラフラとした危ない足取りで立っていた比奈がその場にへたり込む。
「ええっと?」
『あーーー』
困惑気味の小宮の声に周りで見ていた観客達も声を上げる。どうやら先輩は酔いが回って倒れてしまった様子。
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