第38話 美咲の誕生会
5月5日 午後7時
美咲の誕生日当日。
比奈の実家、喫茶「鷲見白」を貸切にして友人達で祝う。
男性陣を除いた女性達は席に着き、大きなテーブルには人数分の飲み物が用意され、華やかに楽しむ。料理の数々は後から運ばれてくる運びに。
「――美咲嬢の誕生を祝って」
『乾杯ーーーー!!!!』
「店員」兼「友人」比奈の音頭に集まった生徒会メンバー、美春、文が声を揃える。
本日は美咲の誕生会。祝いの席、無礼講の場ということもあり各々和気藹々と談笑に花を咲かせる。
「美咲ちゃん誕生日おめでとう〜これ誕生日プレゼントね〜美春さんも仕事間に合ってよかったですね〜」
比奈の母親、真依はちゃっかりと皆と席につき開口一番に大宮親子に声をかける。
「真依さん、今日は私のためにお店を貸し切りにしてくださりありがとうございます。素敵なプレゼントも頂いてしまい……」
「真依ちゃん。私からもありがとね!」
真依から手渡された花柄のハンカチを胸にお礼を伝える美咲。
「ママ友」として元から仲のいい美春は隣の席に座る真依にじゃれつき。
「いいのいいの。娘の友人なんだから当然よ〜ほら、今日は祝いの場なんだから美春さんも皆も呑んで呑んで〜!!」
真依は二人の言葉を受け取り美咲達未成年にはオレンジジュース。美春にはワインを進め。その顔はすでに真っ赤に染まっており。
「美咲嬢。これは我が生徒会からのプレゼントだ。受け取ってくれるかな?」
美咲と真依の大人コンビが晩酌をしてる横で、ラッピングされたプレゼントを手に持つ比奈が美咲に近寄る。
「あ、ありがとうございます。中身、見てもいいですか?」
「好きにしてくれていいよ」
プレゼントを受け取り、許可をもらったのでラッピングの包装を取る。すると中にはピンク色の小型のアロマキャンドルが入っている。
「アロマキャンドル……可愛い」
中身を見て喜ぶ姿はとても絵になる。
そんな美咲の顔を見て薄く微笑む。
「喜んでくれたのならなにより。だがそれで終わりだとは思わないでくれたまえ。私達"個人"から君への贈り物がある」
その言葉に顔を上げるとそこには生徒会のメンバーが各々ラッピングされた贈り物を手に持って待っていた。
「まずはボクから。毎日頑張っている君への贈り物さ。中身を見てもらえると嬉しいな」
凛々しい微笑みを携えた海原から。
「宇佐美先輩ありがとうございます。わ、フェイスタオル。触り心地とてもいいですね」
それは水色のフェイスタオル。
「ふふ。触り心地はもちろん今後暖かくなるからね。汗拭きとしても使うといい」
「嬉しいです。使わせていただきます」
「どういたしまして」
海原と変わるように後輩の夢園。
「美咲先輩、いつもありがとうございます! これは日頃からの感謝と私個人としての細やかなお礼です」
少し恥ずかしいそうに微笑む夢園から。
「季ちゃんありがとう。これは、フォトフレームクロック?」
白を基調としたフォトフレームで加工された時計。
「はい。私の実家が時計屋をしているのであやかりました。写真は生徒会メンバーのもので小宮先輩もちゃっかり映り込んでます」
「嬉しいな。家に飾って大切にするね」
「はい!」
夢園と変わるように先輩の白石。
「頑張り屋さんの美咲ちゃんへ、いつもお仕事お疲れ様〜!」
お姉さん然とした振る舞いで。
「穂希先輩ありがとうございます。わぁ、このポーチ欲しかったんです!」
花柄の女子ウケするポーチを手にして。
「ふふ。ならよかった。出歩く際はコスメとか化粧品を持ち歩く頻度も高くなると思うから……弟君とのデートとかで、ね?」
「あぅ。ありがとうございます」
警戒をしているといっても尊敬している先輩からのプレゼントに喜びが勝る。
白石と変わるように比奈。
「生徒会最後のトリは私が引き受けた。さ、受け取りたまえ」
年長者の威厳をこれでもかと出す小柄な先輩。比奈から大きめの袋を手渡され。
「比奈先輩ありがとうございます。これは……ぬいぐるみ、ですか?」
手渡された物は猫のぬいぐるみ。
「うむ。ただ侮ってはならない。それはどこにでもあるぬいぐるみではない。己の姿勢を正してくれる優れものさ。デスクワークの際にでも使うといい。以前、美咲嬢が猫背にならないか心配と言っていたからね」
「覚えてくださっていたのですね。それに、このぬいぐるみにそんな効果が……」
猫のぬいぐるみをわさわさして。
「使えば分かると思う。私もペンギン型を使用済みだから効果は折り紙付きさ。置物としても申し分ないだろう」
「帰ったらさっそく使ってみます」
「使用感を聞かせてくれると嬉しいな」
「その時はまた連絡入れますね」
「生徒会」の皆からプレゼントを贈る会が終わった最後、待つのは共闘関係の文。
「美咲先輩。いつも仲良くしていただきありがとうございます。これはそのお礼と今後もよろしくお願いしますという旨を込めてです」
後輩にしてライバルであり……よき理解者の文はほんわかとした笑みで。
「文ちゃんありがとう。わ、可愛い猫のマグカップだね〜」
三毛猫が描かれたカップを手に取りうっとりと。
「はい。実はそれ私とお揃いなんです。使っていただけると嬉しいです」
「うん。大事に使うね」
二人はお互い笑い合う。
そんな二人を見ていた生徒会メンバーや美春と真依はほっこりと。
「お客様方。お話も宜しいですが暖かいうちにこちらのお食事もいただいてくださいね」
女性陣がきゃっきゃっうふふふとしていると、タイミングを見計らったように女装を施した店員――小宮が顰めっ面で現れ、ピザやパスタなどをテーブルに置いていく。
「あ、小宮君――じゃなくて「慎ちゃん」。お料理届けられてえらいえらい」
小宮もとい「慎ちゃん」の格好と仕事っぷりを見て満足げに美咲は頷く。
「(ぐっ)」
文は無駄なことは言わず「慎ちゃん」の格好を見て親指を上に向けサムズアップ。
「ふ、ふふふ。「慎ちゃん」とても似合って、ふふ、すまない。似合って、いるぞ」
普段から凛々しく王子様然とした海原ですら「慎ちゃん」の格好を見て笑いを堪えるためか俯きプルプルと震えている。
「先輩。女装も板についてきましたね!」
なぜか嬉しそうな夢園。
「(カシャかシャカシャカシャ)」
スマホを手に無言で連写をする白石。
「……」
知り合い達の発言と行動に反応も反論もすることなくただプルプルと耐える。
「うむ。小宮君はその格好が似合う。私だと似合わないが……こうしてお客目線で見るとこれは、中々……」
白と茶色の普通のウェイター服に身を包む比奈は思案顔でマジマジと見つめ。
「鷲見白先輩……働い……観察はいいんで大人達をなんとかしてください」
「貴女も働いてください」という言葉が喉からでかかったものなんとか耐えて。
今日は貸し切りなので他のお客がいない。実質比奈の父親、利憲と自分で回せるからさして問題はない。問題はないのだが……。
身内内の問題は別。
「小宮君は女装だからこそ輝くわぁ。もちろん、男装の方もいいけどぉ。やっぱり女装だわぁ〜こんな光る原石を野放しにするなんて勿体無い〜私の計画どぉりぃ〜」
完全なる酔っ払い状態と昇華した真依は呂律の回らない口調で目の前の「慎ちゃん」を見て大変ご満足。
「真依さん……」
これは「女装」で間違い無いけど、本来の僕は「男装」ではなく、あれが「正装」だ。
「すまないね。大人達はできる範囲でなんとかする。ただ、後ろ」
「え?」
その言葉に後ろを振り向く――
「慎ちゃーんんん!」
「ぬわっ!?」
振り向いた時には遅く。真依と同様にお酒が回った美春が赤らんだ顔でそのナイスバディを惜しげもなく「慎ちゃん」の背中に擦り寄せながら抱きつく。
「可愛いわぁ。可愛いわぁ。食べちゃいたいくらい、本当にぃ〜」
「ちょ、ちょちょ! 美春さん!?」
「店員」が「お客様」に粗相をしてはいけないと分かっているからこそ動けず。今日いるメンバーにこんな痴態を見せてはいけないとも思い助けを求める。
「あははははは! 美春さんいいぞぉ〜もっとやれ〜!!」
そこには信頼する大人は存在せず、ただの酔っ払いが笑い転げている。
店長に助けを求めたくとも今は厨房でせっせと料理を作っているはずだから呼べない。
それにこんな姿、二人に見られたら……。
「失敗したお酒があった。酔ったという体で普段よりも大胆に……ブツブツ」
「今日は無礼講。先輩に何をしてもいい。なんなら何をされてもいい。それに今の先輩は……ブツブツ」
そんな二人、美咲と文は額に手を当て黒い笑みを携えて何かよからぬことを――
「あぁ、もう! 僕は仕事に戻らなくちゃいけないので美春さんは離れてください!!」
「うへ、うへへ。慎ちゃん〜」
「ちょ、だから、離れ――」
すぐに解放されるだろうという浅はかな願いは叶わず、店長が戻ってくるまで弄ばれた。
・
・
・
「(しくしく)」
もうお嫁に……お婿にいけない。
解放された時には衣服ははだけ、小宮が涙を流し床に転がる。料理を持ってきた店長の手によりなんとか厨房に避難させられ。
その間も騒ぎ散らかす女性陣。
※作者です☕︎
GW……5月1日〜5月7日の約一週間【ママ活】の最新話を一話投稿致します✨
近所報告にも書きましたが、一応。
それでですね。なんとなんと、思いのほか筆がのりまして、8話分ストックが作れたので本日から「一日一話」投稿致します。
明日は午後12時〜を目安に投稿致します🐈
皆様もGW楽しんでください🍀
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