第37話 電話越しの尋問



 ※[]内は通話の話し合いとなります。



[――それで、言い訳は?]


 スマホのスピーカー越しに美咲の声が聴こえる。その声は電話越しで尚ピリついており誰が聞いても怒り浸透と答えるだろう。


[何も、弁解はありません]


 目の前に本人がいるわけでもないのに誠心誠意を持って平謝りの体勢で頭を下げる。



 イッチこと小宮が○ちゃんねるで生存報告を伝えていると「彼女」を名乗る人物の書き込みがあった。そのすぐに美咲から嵐のような鬼電がかかってきた。

 出てみると案の定今日の出来事……白石とのお出掛けや○ちゃんねるでの発言の数々を問い詰められ、無事御用に。


[……はぁ。今回は不問だよ。私も小宮君が白石先輩と出掛けた経緯はなんとなく予想つくから。でもさ、一言言伝あってもいいよね。私達「恋人」だよ?]

[はい。正しくその通りです。僕の考えが甘く浅慮でした]


 正式な「恋人」ではないと余計なことを言ったら怒られることは目に見えている。淡々に自分の非を認め。


[私もグチグチ文句を言うのは嫌いだからこれで終わりね。でも、次からは事前に教えてね? そしたら少しは考えるから。あ、あとこれは文ちゃんとお母さんにも伝えるから]

[……あぃ」


 ようやくこの重苦しい空気から解放されると思い通話を終えようと――


[で? 「ヤンデレ」ってなに?]

[……]


 お、終わってなかったぁぁァァ。


 電話越しの低い声。


[小宮君?]

[いやね、別に君のことを「ヤンデレ」と思っているわけではないよ。ただ掲示板で「ヤンデレ」疑惑が上がっただけだから。もちろん僕はそんなこと一ミリも思ってない。スレツトを見てたなら解ると思うけど]


 嘘は言っていないため堂々と答えた。

 

 これが向かい合っての会話なら少しは口ごもりを起こした可能性は無きにしも非ず。


[その言葉信じます。でもこれだけは解ってね。私は「ヤンデレ」じゃないよ。ただ君のことを愛しているだけの女の子だよ]

[……知ってる。あんな告白をされて解らないほど馬鹿じゃない]


 スマホ越しだが真っ直ぐ「愛している」と言われれば照れてしまうのは仕方がない。


[それに、もし私が「ヤンデレ」だとしたら小宮君に「自由」を与えるはずないじゃん。可愛くて愛しい小宮君が他の女の目に触れるのも会話をするのも息を吸うのも許さない。あれなら「監禁」だって辞さない。「ストーカー」なんて無駄な行為もしない。真っ向からぶつかって君の返答が私の思う通りにいかないなら何をしてでも、何を犠牲にしてでも君を手に入れるよ。逃がさないし逃げれない。君に不自由な暮らしをさせない。なんせ私がそばにずっーーーーといるんだから。君は私と運命共同体なんだから、ね?]

[……]


 その早口で捲し立てるように話す言葉の羅列を聞いて戦慄を覚えた。


 「病んでる」じゃんか、と。


[とか、一度は考えたことはあるけど行動は移さないよ。だって「夫」の行動を黙認するのも「夫」を立てるのも「妻」であり「彼女ママ」でもある私の寛大さがあってのこと。多少のことで動じないよ……悪いことをしたらお仕置きはするけど、ね?]

[……そもそも君は「妻」では――]

[何か言った?]

[なんでもありません]


 時すでに尻に敷かれている小宮はピシャリと言葉を遮られてしまい無駄な言葉は省く。


[小宮君がどうしても「ヤンデレ」がいいって言うなら心を鬼にしてでも――]

[今の美咲さんでお願いします]


 もう土下座をする勢いで。


[冗談だよ]

[怖いからやめて]

[ごめんごめん。もうこんな時間だね]

[ん、だな]


 スマホの画面を見ると日付を跨ぎ午前一時を悠に回っていた。


[今日は5月5日かぁ〜小宮君は何か言うことはないの?]

[……また、な]

[ふふ。期待しているね]

[ハードルを上げないでくれ]


 最後は普段通り会話を交わし、お互い別れの挨拶を行い就寝。



「……贈る言葉、ねえ」


 なん○民の言葉を思い返し眠りにつく。

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