第55話 査問会議


 ◆


 水曜日。


 「不審者騒動」の首謀犯人、剛田が警察に捕まったことはすぐに校内に広まる。

 これから安心して過ごせるという気持ちを持つ生徒の中、剛田により無慈悲な暴力、性的なことをされた生徒たちは行動に。

 その件で教師たちは目まぐるしく忙しくなるもの、元々自分たちが目を背けていた事実ということもあり、誠心誠意を込めて対応。



 ◇◇◇



 そんな「不審者騒動」が収まった放課後。


「――定例会議改め査問会議を始める。議題は罪人、小宮慎也の倫理観問題について」


 生徒会長の比奈が自ら司会進行役を務め。


 今回の会議――査問会議にかけられた罪人こと小宮慎也は床に直、正座状態。

 周りにいる生徒会メンバーから冷ややかな視線を送られ続け。


「まず、罪人小宮慎也。彼は生徒会執行部役員という肩書き、役職に就きながら品性のない発言に加え、趣味をもつ。他にも卑猥な雑誌及びR18禁と近しいアダルト系統のグッズを隠し持ち、所持していたことが判明した」


 先輩、同級生、後輩(全て知り合い)がいる中、小宮の尊厳など関係なく暴露される。


「……躾が足りないね」

「卑猥だな」

「男の子だね〜」


 各自、生徒会メンバーから囁かれる。


「議長」

「夢園君、発言の許可を許そう」


 夢園が手を挙げ、発言の許可を求める。


「はい。死刑でいいと思います」


 可愛い顔をして真顔で辛辣なことを言う。


「うむ。それも視野に入れて――」

「ま、待ってください! 議長! 僕にも発言の許可を!!」


 無言で項垂れていた小宮はここぞとばかりに挙手をしてアピールを入れる。


 何さ「死刑」って。

 開始早々物騒過ぎやしないかな。

 夢園さんは「余計な横槍入れやがって」みたいに睨んでくるし……誰か止めて。


「罪人小宮慎也。発言の許可を与える」

「あ、ありがとうございます」


 色々とツッコミたい気持ち。今は耐えてこの茶番劇を最短で終わらせる。


「……議長が口にした雑誌。それは特段査問会議の議題に挙げられる程の物ではないと思います。まず、その雑誌は真――長瀬白亜ながせはくあが載った本当にただのファッション雑誌です」

「これが?」


 議長、比奈の手には小宮が定期購読をしている雑誌「ROM ROM」があり。


 【これが15歳の美貌。柔肌乙女】


 雑誌の表紙には黒髪をサイドテールにした可愛らしいギャル系の少女(セクスィーな水着を着た巨乳)が載っていて。


『……』


 白い目を物理的に向けられる。

 あの白石ですら目が笑っておらず。


「え、えっと。ま、まぁ。見る人によっては……水着という少し肌の露出があるので……エロティックに見えるのかもしれません。でも、あの、内容は何処にでもある若者系ファッション雑誌ですから……」

「まぁ、いいだろう」

「ホッ」


 なんとか比奈議長に納得をしてもらえた。雑誌は美咲に受け渡され。


 それを袋――ゴミ袋のような物の中に詰めているのは……きっと気のせいだ。個人の物だ。しっかりと大切に保管して……後で返ってくるのだろう。返って、来るといいなぁ。


「では、こちらのアダルトグッズはどう説明をすると?」


 会長の机に白いスク水を着たピンク髪の美少女フィギュア(胸デカ)が置かれ。


「――コッフ」


 それを見て吐血をし、その場で倒れる。


 な、な、なぜ、それがぁぁぁぁ……。


 そのフィギュアは正しく小宮の宝物「すーぱーそ○子 白水着style 1/7スケール」。

 断じてアダルトグッズなどではないが、知らない人から見たら"そう"見える代物。


 お、おかしい。あれは一時の避難のために蓮兄に保護して……奴かぁぁぁ。


 自分の仲間内に既に敵が存在し、仲間を信じ切った自分を恨む。


『……』


 一人自負の念に苛まれていると底知れぬ絶対零度マイナス帯の視線がチクチクと刺さり。


 ジト目、白い目を通り越して汚物を見る目を向けられていて。ある人物の目には明確な「殺意」すら滲まされており。


「ま、まあまあまあ。皆さんちょっと落ち着いてよく見てください。そのフィギュアは一見アダルトグッズに見え……なくもないですが、健全なフィギュアです」


 爽やかに揉手をして。


『……』


 議長比奈を含める全員から向けられる軽蔑と疑いの眼差しは変わらない。増す一方。


「ほ、ほら! ちょっとエッチな見た目の水着を着たただの作り物ですから。それに用途としては鑑賞目的以外に使い道は――」

「R氏から言伝がある。読ませていただく」


 議長比奈の声に遮られ渋々。


 懐から取り出したA4用紙に目を通し。


「《すーぱーそ○子 白水着style 1/7スケールの用途? あぁ、慎也くんは鑑賞として大事にしとったよ》」


 議長比奈はR氏の口調を真似て。


 R氏とかもう隠す気もないけど、さすがR氏。余計なことを言わないその気配り最高。


「《他の用途? んー、あぁ。以前テッシュを持ってy――》」

「うぉぉぉぉ!!!」


 叫ぶ。

 心の底から叫ぶ。

 恥も外見も捨てて。

 議長比奈の声を妨げ。

 掻き消すべく叫ぶ。


 最低だよR氏。○ね。


「議長。許してください。もうそれは不健全で構わないのでそのR氏とやらの言伝は読まなくて大丈夫ですから」


 低姿勢で平謝りをした。


「む。そうか。しかし、特段変なことは書かれていないと思うが。見てみるか?」

「え? えぇ」


 議長比奈の普段通りの対応に少し拍子抜けになりつつ言伝用紙を受け取る。


【他の用途? んー、あぁ。以前テッシュを持って汚れた箇所を丁寧に拭くくらい大切にしてた。てか、鑑賞以外にどう使うんや?】


「ガッデム!」


 ま、紛らわしいんだよぉぉぉ!!


 R氏の言伝を読んだ小宮は膝立ちで叫ぶ。


 し、死にたい。恥ずかしい。


 自分の勘違いにより自ら墓穴を掘り数少ない宝物を取りこぼし。友人を貶した。


「罪人小宮慎也が認めた通り、このフィギュアは――大宮君に管理をしてもらおう」

「お任せください」


 手渡されたフィギュアの――顔面をあえて持つというか掴む。

 せめて優しい処分管理をしてもらいたいと神様仏様美咲様に願う。


「さぁ、これで罪人小宮慎也の倫理観について皆にもわかってもらえただろう。彼は私たちが考える数段卑猥な思考の持ち主。生徒会役員として、相応しくない」

『(コクリ)』


 議長比奈の言葉に頷く。


「死刑……は許そう。しかし、判決は厳しいものと処す。罪人小宮慎也。君は」

「……はい」


 その透き通った真剣な目で見られると自分が悪いことをしていなくても緊張をする。


「生徒会の「共有彼氏」になってもらう」

「はい……はい?」


 その聞き慣れない単語に聞き返す。


「ふぅ。議長役は些か、疲れるな」


 小宮の疑問に答えることなく雰囲気を軽くした比奈は席に座る。


「あ、あのー。それで……」

「うん? 君には今日から我が生徒会――私たちの「共有彼氏」となってもらう」

「それはさっき聞きました。「共有彼氏」とはつまり?」


 それでも意味がわからなく。


「ざっと簡単に説明するとこの学校で過ごす間の「彼氏役」を君に務めてもらう。もちろん、本物の「彼女」は美咲嬢と文嬢の二人だ。「共有彼氏」としての私たちの関係は――校内限定の恋人と思ってくれていい」

「なんとなくは、把握しました」

「例に漏れず二人には許可を受けている」

「そうですか」


 認めたくはないが、二人が承諾をしてしまったのなら自分も折れるしかない。

 その名の通り「校内」だし自分の負担はそこまで……ないはず。それに。


「もしかして、僕のためですか?」

「概ね、そう思ってくれて構わない。一つ加えるなら私たちの風除けとして活躍してくれると幸いだ。穂希の件もあるからな」

「そういうことなら」


 その説明なら納得はいく。


 今後、第二第三の須田先輩のような輩が現れる可能性は多いにある。

 その点自分は既に……「何人」とも付き合えるとか言われている。だから問題ない。


 「風除け」としては的確な人材。


「私たちのような美麗美女たちが君の彼女なら下手な女子生徒は手を出さない。この際「「小宮慎也」は綺麗どころとしか付き合わない面食い」とでも広めてもいいな」

「あ、それいいですね。自分に自信がない子は小宮君に告白なんてしないし。それで小宮君の株、評判が落ちるならやりましょう!」


 小宮が否定をできないとわかっているからか比奈と美咲の二人は楽しそうに。


 あぁぁ。これでまた男子諸君にボロクソ言われるのかなぁ。クラスメイトたちは……多分大丈夫。問題なのは美咲たちの親衛隊。

 クマと蓮兄に美味しい内容を届けるだけだ……役目なら、渋々担うけど。


「……あのー、それはいいとして。さっきの査問会議茶番いりました?」

「いらないね。ただ、美咲嬢きっての頼みだから聞いたまでだ」

「ふふふ。小宮君には少し痛い目に遭ってもらわないと。公開処刑だよ」

「……」


 そんな二人の言葉を聞いて肩を落とす。


「ま、君の倫理観を叩き直すには丁度いい。あのような物を好む品性は直してもらう。君は我々の、その、一応、彼氏だからな」

「あれ? 会長照れて――」

「ほう、仕置きが足りないようだな」


 一瞬で目の前まできた比奈の拳が目に入り、ワイシャツの襟を掴まれ、凄まれて。


「じょ、冗談ッスよ〜」


 昨日の「恐怖」再来。


「あ、先輩。勘違いしないでくださいね。「彼氏」と言えど「共有彼氏」ですから。今までと何も変わらないので!!」


 夢園は上から目線で鼻を鳴らして。


「わかってるよ。何も皆の彼氏面なんてしない。皆に好きな人がいたら悪いことをしたとは思うけど……」

『……』


 その何気ない会話に他の面々は無言。


 そうだよね。美咲や海原先輩はいいとして。会長や白石先輩、夢園さんに好きな人がいたら、その恋の邪魔になりかねない。

 いや、でも待てよ。その件も踏まえて納得をした? それか彼氏さん又はこれから付き合う人に報告済み……なるほど。


 周りの雰囲気を気にすることなく、一人独断の考えのもと納得をした。


「……まぁ、なんだ。小宮君。頑張れ」

「え、あぁ、はい?」


 なぜか海原先輩に肩を軽く叩かれ、応援された。意味がわからない。


 その海原の目が可哀想なモノを見る目をしているとも知らずに。


 ピロン


 小宮は生徒会の「共有彼氏」となった。

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