第54話 解決



「――ということがあってのう。本当に残念ではあるが、そこにいる須田君は剛田先生と手を組んで君、いや。を陥れようとした。受け入れるのは厳しいとは思うが」


 今回巻き込まれた白石に対してオブラートに包みつつ、全て話した。


「そんなことが……っ。あ、あの! 皆は、生徒会の皆は無事なのですか!?」


 話を聞き終えた白石は自分たちを陥れようとした須田に対して嫌悪感を抱き、少し離れる。そこであることに気づき。


「安心せい皆無事じゃ。わしらを招集した影の立役者が全て解決してくれている」

「そう、でしたか。あの、その方は?」

「申し訳ないがわしの口からは何も。相手からの希望でね」

「……わかりました」


 その人物の情報が掴めなかったことについて残念そうにするもの、生徒会の皆が無事なこと、自分の状況を見て今になって緊張の糸が切れたのかその場で腰を下ろす。

 無防備に座り込む白石に対して生駒が近づき、牽制のためか須田に睨みを効かせる。


「須田君、自分の非を認めるかね?」

「っ」

「調べがついておるよ。。その点については須田君、君も被害者じゃ。じゃがのぅ、それを理由にして自分の欲望のためだけに第三者を陥れてはならん」


 須田に対して怒りの形相を向ける。


 一色の言葉通り須田は剛田に弱みを握られ「脅され」ていた。ただ自分の「欲」――「剛田と手を組めばおこぼれ――白石穂希を自由にできる」という感情に囚われた須田は先のことなど何も考えられなかった。


「君のやろうとしたことは立派な犯罪じゃ。今回は未遂となった。が、こちらには数々の証拠もある。言質もとっておる」

「……ごめん、なさい」


 須田はようやく自分の過ちを認めた。

 その場で膝をつき、茫然実質。


「剛田。そしてそこの坊主」


 須田の元に首根っこを掴んで連れてきた剛田を投げ捨て。


「今回は騒ぎが大きくなりすぎた。ことがことだから広にされるだろう。それは償いだと思って身をもって受け入れろ」


 木崎の言葉に二人は体を震わせ。


「と、この件について少しでも救いを求めようとするな。剛田の雇った「不審者」並びにお前のパイプ連中も芋づる式にお縄だ。だから、助けなどないと思え」


 中腰になり、二人にその眼光を合わせる。


「テメーラは終いだよ。手を出した相手、そして目をつけられた相手が悪かったな」


 そう吐き捨て、二人を視界から消す。


「須田君」

「……?」


 木崎と変わり、須田に近づく生駒。


「彼はね、君を評価していた。過去の過ちを認め真人間に変わった君を。今回は白石さんを罠に嵌めることなく、守る側になると」

「……」


 知らない大人。自分の過去を知っている。

 名も知らぬ「彼」からそう思われていたのは嬉しい。それでも自分は、間違えた。


「残念なことに君は彼の信頼を踏み躙った。そんな君を私は一教育者として軽蔑する」

「……」

「軽蔑するが、君を見限ることはしない」

「……え?」


 須田が顔を上げるとそこには苦笑を浮かべる生駒がいた。


「これは私の話だがね。昔、私も君のように選択を間違えた。それは取り返しのつかないこと。だがね。私は変わった。信頼を得るために今の地位まで上り詰めた」

「……」

「人は、変われる生き物だ。後悔をバネに今後、期待されるような人間大人になりなさい」

「……はぃ」


 生駒は須田にその言葉を送り。

 生駒の話を受け取った須田はか細い声で。


「時期、警察も来る。積もる話もあると思うが、後のことはそこで聞こうか」


 一色の言葉に合わせるようにちょうどパトカーのサイレンが聞こえてきて。

 


 ◇◇◇



 無事、白石の身の危険もなくなり「不審者騒動」も終息の一途を辿った時。


「お、白石先輩も無事だと。これで、この件も一件落着ですね〜」


 メールを読んで肩の力を抜く。


「そうか。穂希も無事か。よかった」


 比奈も友人の無事を知って胸を撫で下ろす。


「小宮君。君に任せた私が聞くのもおかしいが、いつから剛田先生が首謀者で、穂希――私たち生徒会が狙われているとわかった?」

「……」


 問われた小宮はスマホをしまい、夜空を見上げる。


「偶然です」

「……聞き間違えかな?」


 少し頰を引き攣った表情で聞き返し。


「マジ、偶然です。たまたまです。はい」

「――」


 聞き間違えではないことに「偶然」「たまたま」で自分たちは救われたのかと絶句。


「「不審者」について調べがついていたのは事実。ただ、その「不審者」たちを牛耳っている人物が剛田だと気づいたのはつい最近」

「では、本当に」

「偶然です。運がよかったと言ってしまえば聞こえはいい。でも偶然が重なった結果、こうして皆を危険に晒すことなく、救えた」

「!」


 その言葉に目を剥き、頰を赤らめ。目を逸らし。ぶっきらぼうに。


「そ、そうか。しかし。その偶然が重ならなかったら小宮君は――」

「助けましたよ。確実に、絶対」

「……」


 握り拳を作り、その拳を強く、握り込め。


「周りが不幸になるのは、自分が不幸になることより、許せないことだ。僕は持てる力を持って皆が救われる道を、画作する」


 確固たる自信を持って言い放つ。


「……君は、カッコいいな」


 小宮の顔を見た比奈は自然に笑みと言葉が溢れ。ブランコから立ち上がり佇まいを整え、小宮の目を見つめる。


私たちは救われた。生徒会一同代表として、事件をスマートに解決してくれた君に、感謝を。守ってくれてありがとう」


 先輩としてではなく、一友人として。


「あくまで「脇役」ですがね。だから、ちょっと締まらないところはありますが……」


 照れくさそうに、目を逸らし。


「ふふ。君のことだから適材適所と。自分たち未成年が動くより大人に任せた方がいいとでも、判断したんだろ?」

「……バレバレですやん」

「わかりやすいからな、君は」

『ぷっ』


 お互い笑い合う。


「鷲見白先輩。この件については……」

「皆には内緒だろ?」

「理解が早くて助かります」

「穂希にバレたら〜とか思ってるんだろ?」

「ま、まぁ」

「そんなことだろうと思ったさ」


 頼りになる後輩にジト目を向ける。


(ま。隠そうとも無理だと思うけど。そんな野暮なことは口にはしないが、ね)


「……そうだな。この際、小宮君を」

「ん? 何か言いましたか?」

「……いや? そうだ。君が口にした木箱の中身が気になっていてね。私も木箱の情報など聞かない。君は中身を知っているのか?」

「あー、まー、知っていると言えば……中身は予想に過ぎないですが……」


 さっきまでハキハキと話していた小宮は突然不自然に目を泳がせ、歯切れが悪くなり。そんな後輩に不審な目を向ける。


「そこまで濁らされると逆に聞きたくなる」

「……聞いて、後悔しません?」

「あぁ」


 比奈の答えを聞いた小宮は目を瞑り、数秒悩み、頭をポリポリと掻き。


「えっとですね。あくまで、あくまで。これは本当に個人的な見解で――」

「早く答えろ。会長命令だ」

「……わかりましたよ。あれは――」


 いやだなぁ。言いたくないなぁ。


「実は――」


 そう思いながら口にする。

 すると、話を真剣に聞いていた比奈の顔は、耳は首は徐々に赤く染まり――


「〜〜〜!!?!??!?」


 声にならない悲鳴を上げて――


「ぐほぁっ!?」


 腹目掛けて全力でタックルをかまされ。


 だから、いやだったのに。


「〜〜〜!!!!」


 半べそをかきながら、馬乗りになった比奈にポカポカ――ではなくボカボカと殴られ。


 ・

 ・

 ・


 警察署内。


「なんじゃこりゃあ?」


 警察官が開けた木箱の中身を見て、興味本位で一緒に眺めていた木崎が声を上げる。


「……これは」

「あぁー、夜のお供?ってやつか?」


 警察官は顔を見合わせると本当にいやそうに――玩具を手に取り。


 木箱から「大人の玩具」と呼ばれる代物が沢山、それはもう沢山出てきた。


 鞭。

 蝋燭。

 首輪。

 ローション。

 何かの薬。

 ピンク色の丸いポチ。

 キノコのような形状の健康器具。

 イボイボが付いた……棒状のナニカ。

 ・

 ・ 

 ・

 etc.etc.etc......


『……』


 その場にいる大人たちの意見は一致する。


【早目に捕まえてよかった】


 剛田性犯罪者に対し、他にも余罪が何かあるのではないかと取り調べをし。

 

 ・

 ・

 ・


 夜の公園。


「――だから言いたくなかったんですよ!! 「後悔しませんか?」と確認したじゃないですか!」

「!」


 羞恥から後輩を殴り続けていた比奈は動きを止め。


「だ、だからと言って、そのぉ〜の話だと、誰が思うか!」


 またその拳を宙に上げ。


「ま、待って待って! 待ってください! 僕の予想と言ったでしょ?」

「……」


 その一言で動きを止め腕を下げる。

 ほっと一息。


「ホラ。冷静に考えれば神聖な学舎。その倉庫にアダルトグッズはおかしいでしょ?」

「……君が言ったのだが?」

「……僕、男子高校生ですし〜」


 目を逸らし。適当に。


「……ほぅ」


 比奈は小宮の本心を確かめるようにその目を光らせ、冷たい視線に変え。


「では何か? 小宮君はそう言った不純な玩具や話を、好むと?」

「別に僕に限ったことでは……さっきも言った通り男子高校生なら誰だって――」

「戯け!」

「!」


 その一喝に叱られた子供のように目を瞑り。


「君は青南高校生徒会に所属しているという自覚が足りないようだな」

「え。で、でも。別にそんな個人の趣味にとやかく言う規則は――」

「規則云々の話ではない。その品性が疑われる。生徒の上に立つ「生徒会」の我々は常に清廉潔白でなくてはならない」


 堂々と告げる比奈の姿は青南高校生徒会長の威厳をこれでもかと発揮し。


「わ、わかりました。これからは気をつけますので」

「ダメだ。君には徹底的な施しが必要なようだ。心を鬼にしてでも教育及び、君の倫理観を変えるための生徒会会議を明日、開く!」

「そ、そんな。御無体な」


 自分の失態を後悔し。


「……わかりました。先輩。わかりましたから、早く家に帰りたいので僕の上から退いてもらっていいですか?」

「む。それはすまな――」

「……鷲見白先輩?」


 不自然に微動だにしなくなった比奈に対して不審そうな顔を向け。


(よ、夜の公園。気になる後輩と二人きり。男子の上に跨る……大人の玩具……っ)


 それらを一重に考え。


「――」


       プシュー


 オーバーヒートを引き起こす。


「先輩? 大丈夫です――」

「き、君と言う、奴は!!!!」

「は?」

「徹底的に、倫理観を叩き込んでやる!!」

「ちょ、何が――っ!!」



 変な勘違いを引き起こした比奈により、小宮はこの後口では言えない酷い目に遭い。


 騒ぎを聞きつけた比奈の母と父の仲裁もあり、なんとか事なきを得て。

 

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