閑話
第29話 友人との日常
◆
大宮に「
文に「彼女(仮)」。
美春に「愛人」と、三者三様に言い寄られた小宮君は奔走する日々に。
美春による「拉致未遂」が起きた翌日。
大宮と文を片腕に侍らせ登校をした小宮が注目を集め……。
さっそく青南高校で「「小宮慎也」が二人の「彼女」を作った」と話題になった。
不幸中の幸いが、元々の小宮の評判。「彼女」達が「大宮美咲」と「雪見文」の二人なら仕方ないという理由で呆気なく終息へ。
少し面倒くさかったと……大宮と文が感じたことは「小宮慎也」なら複数の「彼女」がいても何もお咎めがないと知らされたこと。
幸いなことに今のところは何もなく、三人は少し変わった生活を過ごす。
行動が読めない「大宮美春」というダークホースに怯えながら。
「――ぶはははっ! ほんま、慎也くんはおもろいね。「彼女」を二人作るとか常人じゃ考えつかんよほんま。くくくっ」
金髪、強面のヤンキーと見間違える風貌。それでもどこか愛嬌がありイケメンの青年――「
「……笑い事じゃないんだよコレが。学校では「それが普通」みたいになっちゃったし……公然の二股行為だし……「恋愛」の「れ」の字すら知らない僕がどう挑めばいいのか……」
この頃色々と話題の「的」である小宮はため息をついてしまう。
二人は「噂崎家」の大きな庭が一望できる縁側に肩を並べて座り語り合う。
「まぁ、なんとかなるんちゃう?」
「適当かよ」
「適当やね」
「……蓮兄のためになる話、プリーズ」
頼りになる兄に期待の眼差しを送る。
小宮は何度も助けてもらい信頼している。
「んー、姉貴にバレるなよ」
「……ためになんねぇ」
兄の言葉を聞き、頭を抱える。
そんな弟を横目に蓮二はお茶を啜る。
「いやさ、別に茜さんに――」
「ん、慎也。呼んだ?」
「いや?」
横から女性の声――蓮二の姉である茜の声が聞こえてきた。
三年前よりも大人びた雰囲気を出す黒髪をポニーテールにしている美人。
そんな話題の人物の登場に動揺を悟られないように適当に返事を返す。
「く、くくくっ」
その様子を見て蓮二は顔を覆って笑う。
こ、コイツ……分かっていて僕に話題を振りやがったな……。
「? やっぱり今茜って……」
「いや、違うよ。「赤点」って言ったんだ。僕は違うけど蓮兄が、ねぇ?」
「あぁ、赤点ね。お爺ちゃんから聞いた話じゃ今回のテストは上手く行ったみたいだね。それに比べて馬鹿弟は……」
小宮の巧みな方向修正に茜の視線は蓮二に向く。
「はっ。まだ中間考査や。俺は期末考査で本領を発揮すんねん。姉貴には関係ね。それよりも鈴ちゃんの元にはよいけや」
蓮二は顔を背けて手でしっしっとあっちへいけサインを送る。
「この馬鹿弟は……まぁいいわ。慎也」
「なに?」
自分の兄に向けてよく「避けた」と感心しているとまた名前を呼ばれアホ面を向ける。
「鈴がまた慎也と遊びたいってぐずっていてね。馬鹿弟と話が終わったら、な?」
「りょーかい」
要請を受け、小宮は返事を返す。
「で、蓮兄やってくれたねぇ?」
「それはこっちの台詞や。自分、上手いやん」
二人は茜が立ち去るとガンをつけあう。
「もう慣れたよ。何回目だと思う?」
「知らんな。でもためになっただろ?」
「ならねぇよ」
「んだと?」
「やんのか?」
さっきまでの仲良しこよしはどこに行ったのかお互いの襟部分を掴む。
「やめろ馬鹿たれども」
『あいた!』
そんな二人の頭に拳骨を落とすクマ。
「まったく、人が鯉に餌をあげていたと思えば……お前達は本当に飽きないな」
普段と変わらない仏頂面を作りながら。
「いやや、クマくん。こんなんスキンシップやん。な、慎也くん?」
「そうそう。僕達は仲良し。ね、蓮兄?」
二人はガンをつけあいながら微笑む。
「……お前らは……」
どうしようもない友人二人を見て目を伏せる。
クマも加えた三人で縁側に座り。
「何はともあれ、慎也くん。良かったな」
「?」
「「生きる」意味見つかったんちゃう?」
その質問に一つ、思う節はある。
「……まさか「彼女」達が?」
「そうや」
「んー、どうかな。それに僕はもうほとんど大丈夫だよ」
「へー、それは意外やね。何か進展でも?」
少し驚きの顔を向ける兄に微笑む。
「だって、僕には蓮兄とクマ――「友人」がいるから」
『……』
その発言を聞き、蓮二はそっぽを向きクマは目を瞑る。
「はー、クサイわ。クサくてたまらんわぁ」
「……よく恥ずかしげもなく言えるな」
そうは言っても二人はこちらに目を合わせず、照れていることが分かる。
「へへ。いつまでも過去に囚われるのもどうかと思ってね。「過去」の話を打ち明けたってのも大きいけど。あれから、もう三年も経つし……僕だって少しは、成長する」
「せか」
「……」
その場に流れる雰囲気がどこかしんみりとしたものに。
「それでさ、二人に相談なんだけど」
「改まってどした?」
「聞くだけ聞いてやる」
二人の了承を得た上で話す。
「新しいことに挑戦したいと思っていて……「アルバイト」とか……」
「ほぁぁ。アルバイトねぇ。なんや、自分お金欲しいんか?」
「いや?」
「何か欲しいものでもあるのか?」
「それも違う」
「じゃあ、なんや」と蓮二が愚痴り出したところで小宮がボソッと。
「……叔父さん達に恩返ししたくて」
『……』
その話を聞いた二人は一瞬無言に。
「なんや、慎也くん。泣かせるやん」
「お前にもそんな人の心があったんだな」
蓮二はニマニマと笑い小宮の肩をパシパシと叩き、クマは目頭を抑えて震え出す。
「お世話になってるんだ。僕だって恩返しくらいする。それで、アルバイトの経験がないから二人に聞きたくて……」
「せか。ま、俺もないんけどな!」
「右に同じく」
堂々と言い切る友人達に冷ややかな目を。
「使えな」
そこで少し一悶着はあったもの、蓮二がボソッと口を滑らす。
「……爺っちゃに貰えばええんちゃう」
「それはちょっと」
それには流石の小宮も難色を示す。
「だが、それが一番効率はいい。玄蔵さんのことだ、小宮が一言言えば済む」
「あれだったら「肩叩き」だけでも慎也くんに50万くらいポンと渡しそうやな」
「本当にあり得そうな話だから却下」
「ダメか」
「せか」
自分で稼いだ「お金」だからこそ意味があり、それがいくら「ホワイト」なお金でも今回ばかりは譲れない。
その一言でまた振り出しに。
「せや、慎也くんなら「ママ活」――」
「マジでやめれ」
何か良い提案でも思いついたように話すも瞬時に止める。
「冗談や。本命は「パパ活」――」
「もっと酷いわ」
「まったく。アレもダメ。コレもダメ――お前はどれがいいんだ?」
「「普通」のアルバイトだよ」
小宮の言葉にアルバイト経験皆無の男子高校生達は悩む。
「……地道に探すよ。叔父さん達には欲しいものがあるという体で許可を得て」
「そうやな。金稼ぐのは地道に限る。手伝いはできんけど様子見くらい行くわ」
「お手並み拝見としよう」
「まだアルバイトに応募すらしてないけどね。でも、そうだね。頑張るよ」
『おう』
三人はそんな穏やかな時間を楽しみつつ、クマと蓮二が稽古をつけるために道場へ。
茜の要請に従うべく小宮は部屋へ。
結局「相談」は意味はなかった。
それでも決意を固める「意義」はあった。
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