第27話 「彼女」と「ママ」
◆
「――ということがありました」
『……』
自分の「過去」について全て話終え。
二人の反応がないことに「長く話しすぎたか」と外の夜の帷を見て喉の渇きを感じ、反省を覚え、お礼の言葉で締めようと思った。
「「人間不信」と大袈裟に言ったけど軽度のものだし過去の話でもある。それに今はこうして、少しは克服できたから大丈夫。あ、クマとか蓮兄とか君達とは普通に話せるし、他の人とも普段なら話せるよ。こんな長い時間付き合ってもらってありがと――」
『……』
その言葉を告げる前に――正面から二人に抱きつかれた。
「ふ、二人とも? あ、あの苦しいんです、けど?」
二人に抱きつかれる。それはすなわち二人の推定○カップの胸に埋もれるということ。
窒息を起こしそうになり、二人の背中をタップする。普通なら幸せかも知れないが、幸せじゃない違和感。
「馬鹿。そんなことがあったのに何で平気な顔をするの。話してよ。これでも私、一年近く君の側に居たんだよ……でも、一番馬鹿なのは私。ごめんね。君の過去にそんなことがあったとも知らず……」
あの大宮が泣いている。それも自分のために。でも、あの、お願いだから解放……。
「先輩、先輩。私、悔しいです。同じ中学校にいたらそんな人達なんて
ふ、文ちゃん。それは嬉しい申し出だけど、
昇天しかけたが、何とか二人に解放された。
その後に、自分達のせいであの世に行きかけたことを知り泣きじゃくり、それを宥める。
宥めて落ち着いたと思えば、蓮兄の姉さんである茜さんとの関係を根掘り葉掘り聞かれて疲れ、へとへとに。
茜さんとの関係と言っても「知り合い」としか答えられない。茜さんは未亡人?だけど娘の鈴ちゃんもいるから……よくよく考えると茜さん、中々「母性」が強い……。
そんな馬鹿なことを考えているとこちらの内心でも悟られたのか般若のような顔になった大宮と文ちゃんに軽くボコられかけた。
『ごめんね。本当はこんなことをしたくないけど……、仕方ないの。愛の鞭なの』
『ごめんなさい。暴力は駄目ですが、先輩を調教――調教して他の女性に目移りしないようにしなくてはいけないのです』
二人の言い分はこんな感じ。
凄い苦しそうな顔をしていたけど、要は僕への暴力だよね。文ちゃんに至っては何も訂正できていないし……「調教」て。
そんなこんなもあり二人から色々と詰問を受け、何か色々と約束をさせられ解放となった――文ちゃんが。
夜も遅く、「彼女(仮)」として過ごした時間があるから大宮に譲るという謎理論だったが、文ちゃんが帰り。
逃げることができなくなった自分は大宮と二人きり……どうやら僕には発言と解放の自由が無いらしい……ツラピ。
「……小宮君。あのね、えっと、その……」
二人きりになり、お互いに向き合う。
大宮が何かを言いたげに恋する乙女然とした熱った顔でこちらをチラチラと見ては、目を逸らし俯き、また顔を上げたら下げる。
「な、何だこのしおらしい生物は? 大宮はもっとガサツでここでくそしょうもないことを言って僕のマウントを取るのが通常運転で正常だろ……さてはコイツ、偽物だな?」
「……君、凄いね。普通そういうのって雰囲気的にも常識的にも内心で留めるよね。口に出すとか……
黒い笑みを張り付かせた微笑みを作りその手に持つハサミの矛先を向ける。
おかしいな。オブラートに包んで話しているのだと思うけど、今、確かに違う言葉が。
「ねぇ、何か言ったらどう?」
「うゆ。わかっあかぁら、あいあんくりょおは、やめちぇくりゃ(要約:うん。わかったから、アイアンクローは、やめてくれ)」
ハサミを持つ逆手でアイアンクローをされ、少し宙に浮く小宮君。
話が通じたのか、なんとか解放された。しかし、目の前から凄まじい殺気と圧が……。
「いや、僕の発言のチョイスも悪かったけどさ。なんか、今の大宮はやだ」
「……」
「そこで無言でグーパンの構えはやめて。いや、あれだよ。ほら、大宮は、その……今まで通りがいいとか……思ったり……」
「ヘ?」
一瞬、言葉の意味が理解できず大宮は声を上げ、少し考えて……ニマニマとした笑みを。
「へー、ほー、ふーん?」
「な、なんだよ?」
その変化した大宮の態度に嫌な予感を感じ取り、身構える。
「いや〜知らなかったにゃ〜小宮君が攻められるのが好きとか〜君、ドM君〜?」
ニヨニヨと笑うその姿はいつもの太々しいこちらを容赦なく煽る「女神(笑)」の姿。
「攻められるのも好きじゃないし元々僕はドMでもない」
「とか言ってる割には普段の私がいいんでしょ〜?」
「……そっちのお前の方が「好き」なのは事実だよ」
「ふぇっ!?!?」
それは大宮も油断をした不意打ち。
小宮が口にした「好き」という言葉に過剰に反応し、テンパってしまう。
はっ、顔真っ赤にしちゃって、言った自分が一番恥ずいけど……。
「あ、あれ、あれあれ〜? 大宮さん? 照れちゃった? もしかして、照れてるん? え? マジ、あの大宮さんが? そんな大宮が――「大好き」だよ(キリッ)」
少し楽しくなり震えている大宮に近づき、右斜に顔を向け、自分の一番イケているであろう顔を作る。そして最後の追い討ちをかける勢いで――耳元で囁く。
「〜〜〜!?」
大宮はその行為に案の定顔全体を真っ赤に染め、目を回しフラフラと蹌踉めく。
か、勝った……何に勝ったのか分からないけど、今まで馬鹿にされていたあの僕が大宮を出し抜くことが……一年近く、長かった。
「大宮。僕は――あうぇ!?」
調子に乗り最後の止めの一撃を繰り出そうとしたところ、大宮に押し倒されて――
「ふ、ふー。ふー、ふー……っ!!」
「え、あの、大宮さん?」
鼻息荒く片手を真上に上げて――
や、やべぇ。なんか大宮の目がマジだ。なんかキマッてやがる……え、どうなるのこれ?
「ねぇ、小宮君」
「は、はい。何でございましょうか!」
「「大好き」」
「――ッ!?」
どうせぶん殴られるんだろうなと次に来る痛みに耐えるように目を瞑ってしまった。
その時、首に手が回る感覚と唇に今まで感じたことのない柔らかな感触が伝わる。
・
・
・
「――っ、ぷはっ! お、大宮?」
数秒、数十秒かは分からないけどようやく大宮の唇――キスから解放された小宮は本当に驚いた顔で相手の顔を伺う。
「……小宮君が悪いんだよ。私の欲しい言葉をそんなに、簡単に伝えてくるから。本当はちゃんと言葉を交わして、もっとロマンチックな場所で雰囲気でするつもりだったのに……君のせいで狂っちゃった」
先と同じく熱った頬、火照りトロンとなる目で見つめてくる。大宮の体から香る甘い香りにこちらの頭もおかしくなってくる。
「あ、大宮。今のき、きき、キス……は……」
「ぷっ」
「え?」
なぜか大宮が涙を浮かべて笑い出す。
「あは、あはは、どう驚いた? 変態ゴミクズナメクジ男君ならさぞかし驚いたよね? こんな可愛い女の子とき、キス……ができたんだから! でも勘違いしないでよね。私は、あの、私は……別に、あの……私を出し抜こうなんて1000光年早いんだからね!!」
小宮を馬乗りにして、その状態で腰に手をあて堂々と宣言……目を回しながら。
そんな大宮を見てすぐに気づいた。「無理をしている」と。
「さすがにそれは無理がある」
「〜〜〜!! う、うぅ。小宮君のくせに小宮君のくせに!! 生意気、生意気〜調子狂う。本当は今日、最高のコンディションで告白をするはずだったのに……っ」
こちらの胸をその両手でポカポカ叩いてくる。それは力が入っておらず全然痛くない。
「あぁもう! いいよ。この際開き直ってやる!! 小宮君の事好きだよ。大好きです。はい! 結婚を前提に付き合って死んでも一緒にいてください! いなくちゃ殺す!」
自暴自棄になったのか大宮は普段見せない子供のような雰囲気を見せ、少し過激な告白文句を述べ、小宮を睨む。
「あ、えっと……あの。その、心の準備というか、僕はまだ「恋愛」が……」
「返事なんていらないよ!」
「そういうわけには……」
「だって小宮君は私と付き合って結婚してお互い歳をとってお爺ちゃんお婆ちゃんになっても幸せに暮らすんだから!!」
「そんな、無茶な……」
「無茶じゃない!」
もう、それはほとんど脅迫のような言葉。
大宮の気持ち、知ってるしな。
「――分かった。ただ、少し待ってくれ。僕だってこの気持ちに整理をつけたいし、文ちゃんの件や……君のお母さん、美春さんの件だってある。僕は優柔不断だ。でも、決断する機会をくれ。それを不義理にしたくない」
押し倒された状態だけど、大宮のその目を真剣に見つめ、自分の口で伝える。
「……分かったよ。ただ、もし断ったら……」
さっきまで持っていなかったはずのハサミがその手にあり、刃を向けてくる。
「怖いからやめて」
「ふん。殺されてもいいくらいの覚悟で挑んでって事だよ。君のこと殺すわけないじゃん?……浮気したら別だけど(ぼそっ)」
なんか不遜な言葉が聞こえたけど気のせいだ。うん。
「はぁ、今日はもう遅いから明日以降ゆっくりと考えよう。お前も遅くなると美春さんが心配するぞ?」
「またお母さんの名前……分かった」
何か不服そうな顔を浮かべたが、小宮の体から素直に退く。その際に小宮も制服についたホコリを落として立ち上がる。
「ねぇ、小宮君」
「何さ?」
また何か油断のならない発言でもするではと警戒してしまう。
「前、君みたいな非モテの子でも世界に一人くらい「好き」になってくれる子が現れるって、私が言ったの覚えてる?」
「……あぁ、そんなことを言っていたような。それが?」
その意図が分からず聞き返す。
すると大宮はくるりとその場で体を回転させ、月明かりがその妖艶な顔を照らす。
「それが「私」だよ。残念だったね。もう、逃さないから、ね?」
「!」
小悪魔っぽく笑う大宮を見て驚き、苦笑いを作るしかなかった。
「そ・れ・に〜そんなにお母さんが好きなら〜私が「
普段の勝ち誇った顔でそんなことを言う。
おかしいな。「ママ」と口にしたはずなのに別の言葉が頭に浮かぶ……。
それになんということでしょうか、同級生の口から絶対に、金輪際聞くことはないであろうNo. 1の言葉を頂きましたぁっ!!
これで僕も「犯罪者」の仲間入りだーい!
全然、嬉しくない。
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