閑話

第43話 その邂逅は必然的に



 それはとある日の土曜日。

 とある住宅街にて。


「――たまたま通りかかっただけ。この機会に鈴の面倒を見てくれた分、恩返しをするだけ……慎也の御両親も交えて……」


 ラフな格好に片手に某有名店の手土産を持った女性が――小宮家の近くに居た。


 その女性は染め直した綺麗な黒髪をポニーテールに纏めた美人の女性――蓮二の姉であり小宮に命を救われた過去がある茜その人。


 小宮に「会いたいから近くまで来た」ということは自分の口で言葉にするのは小っ恥ずかしく、たまたま家の近くに通りかかったという体で挑む――その手に持つ手土産が全てを台無しにしていることを知らず。


「茜?」

「! その声は……」


 唐突な呼びかけにハッと振り向く。


 "お家訪問"という一大イベントで浮かれていたとはいえ過去にレディース総長の肩書きを持っていた自分の背後をとる相手。

 その相手の存在を認識し、聞き覚えのある声を頭の片隅で誰の声なのか思い出して――声をかけてきた人物の格好を見る。


 その人物は見た目で「女性」と解るもの紺のパーカー、ジーンズ、黒いキャップ、黒のサングラス、黒のマスクという明らかに怪しい――オブラートに包まないでいいなら「不審者」という言葉が相応しい格好をしている。


(……私の知り合い。しかし、誰だ……?)


 思い出せそうで思い出せないもどかしい気持ち。記憶を辿っていると、その女性がおもむろにキャップとサングラスを外す。


「――私。気づかないなんて修行が足りない。少し、衰えた?」

「し、式さん……ッ!」


 そこには文の母親である雪見式その人が居た。不審者の正体は文母。


 ここだけの話、美春と式は同級生で親友であり、茜はそんな二人の一個下の後輩。

 それも――茜が昔束ねていたレディースの一代目総長を務めていたのが――文の母親、式だったりする。


 ※美春はレディースとは縁のない人。


「それで、茜はこんなところで何を?」

「え、あー、その。訳あって知人の家を訪問しようかと思ってまして。式さんは?」

「私も似た様なもの」


 二人は互いに腹の探り合いをするかのように話す。表面上は普段と変わりはないが、二人の間にはどこかピリつく空気が漂う。もしかしたら薄々勘付いているのかもしれない。


「そうですか……お相手は?」

「……茜に伝えたところで」

「そうですか。ちなみに――私は弟の友人であり娘の恩人のお家に向かうところです。こうしてお土産も持参しています。の御両親との挨拶も楽しみです」


 最初に仕掛けたのは茜。


「……そう。私は――であり、の家に遊びに行くところ」


 式も負けじと対抗をする。


「へ、へー、娘さんの彼氏に息子ですか。私はになる可能性のある人の御家族との顔合わせですけど、ね」

「聞き捨てならない。誰が誰の旦那?」

「私の、ですが?」

「……」

「……」


 二人の間にどんよりとした空気が立ちこみ。


「……探り合いは終わり。茜もの知り合いなんだ」

「……はい。先話した通り、過去に色々とありまして。は私と娘の恩人です」


 式の緩んだ雰囲気に茜も肩の力を抜き、昔と変わらない口調で話し合う。


「お互い積もる話があるとみた。近くに「鷲見白」という喫茶店があるからそこで話す」

「いいですね。たまには以前のように美春さんも呼んで三人で集まります?」

「美春は裏切り者だからダメ。今回は私と茜だけの話し合い」

「は、はぁ」


 何も知らぬ茜は式の言葉の真意が解らず生返事。


「その話も含めて話す」

「……わかりました」


 先輩であり、今も尊敬する式に従う。


 二人は当初の目的である「小宮家突然訪問」を辞めて喫茶店に向かう。


 そして、ついにあの茜も慎也の現状。美春の現状を知ることになり。

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