青南高校生徒会

第44話 生徒会の仕事は色々とハード


 ◆



 生徒会の仕事は忙しい。


 元からある生徒会規定の仕事の他、先生、生徒から来た依頼などの雑務を引き受ける。

 その数多ある仕事の数々は常人が捌くのは困難。成績優秀者が選ばれるのは世の末。


 ここ、青南高校生徒会でも同様。


 忙しく、大変。それでもその分野のプロフェッショナルが揃っているからこそ青南高校生徒会は安泰である。


 僕、小宮慎也も「補佐」という名の名目上奴隷としてせっせと働く――


「――先輩。物憂げな顔して夕空なんて見ている暇があるのなら目的の資料を早く探してくださいねぇ〜」

「あ、はい」


 今回一緒に行動を共にしている後輩、夢園さんに喝を入れられて作業を再開。


 現在は資料室にて探し物の最中。


 生徒会の仕事を始めてから早三週間。

 アルバイトに顔を出す以外は生徒会を頑張っていたつもりではあるが……予想を上回る仕事量とその仕事を淡々と捌いていく生徒会メンバーたちに舌を巻いた。


 そりゃあ、ここまで活躍できれば周りから一躍も二躍もされるよね。それに対して僕は……凡人だとわからされたよ。超人たちの中にいる不純物が今の僕の名にお似合いさ。


 そんな時、たまたま手元にあった段ボールを開けたらお目当ての資料が入っていた。


 ん、これは……。


「資料見つかったよ!!」


 脚立に乗り他の資料を探していた夢園に伝える。その姿はまるで飼い主に褒めて褒めてと告げる子犬のごとく。


「先輩にしてはやりますね〜私も早く探さなくては――ッ!?」


 夢園が冗談の段ボールを取り出そうとした時、バランスが崩れて――


「夢園さん!」


 落下地点に走り、両手を掲げて構える。


「っ!?」

「ぐっ、ぬぅ……っ」


 落下する夢園をお嬢様抱っこの形で抱えられたもの、小柄で非力の小宮には少々荷が重かった様で……。


「うわっ!?」

「きゃっ!?」


 二人揃ってそのまま倒れ込む。


「っぅ。イテテ……って、夢園さん大丈夫!?」


 定まらない思考と腕の痛みを感じつつまずは後輩の安否を確認。


「……先輩のお陰で怪我一つありません。その点については感謝です。ただ――そろそろ私の上から退いてもらっていいですか?」


 頰をほんのりと朱色に染めた夢園後輩は視線を逸らし。


「わ、わぁ!? ごめん!」


 上から覆い被さるというより身長差から夢園後輩の胸元に自分の顔を埋める状況に理解し、すぐに退く。

 それは夢園後輩に対して申し訳ないという思いと一方。この状況を第三者――つまり美咲か文彼女に見られたら一大事。


「グッ」


 背後から気配と声が聞こえ。怖いもの見たさで「もしや」と思いドア付近に顔を向けるとテンプレ通り――ではなく、生徒会顧問のお爺ちゃん先生である一色叟いっしきおきな先生がサムズアップをしていた。


「あ、あの。一色先生。これには深い訳が」

「うむ。解っておる。若気の至りというやつじゃの。青春じゃな!」


 朗らかな笑みで。


 ち、違う。全然解ってない……。


「いや、これは違くてですね」

「冗談じゃ。解っておる。慎坊は季ちゃんの危機を救ったんじゃろ?」


 「物音で様子を見に来た時に察しはついていたからのぅ」と好好翁こうこうやとした顔で。


「……初めからそう言ってくださいよ」

「カカカ。ジジイジョークじゃよ」

『……』


 そんな一色先生にジト目を向ける二人。


「悪かった悪かった。資料はわしが探しとくから二人は皆の元に戻って帰りなさい。時間ももう遅いからのう」

「……ありがとうございます」

「一色先生、ありがとうございます」


 二人でお礼を伝え。


「なんのなんの、帰り道気をつけてな」

『はい』


 別れの挨拶を済ませ、二人は皆の元へ。

 

 ・

 ・

 ・


 夕暮れ時の校舎。

 生徒会室に向けて二人で廊下を歩いて。


「で、季のお胸の感触はどうでした?」


 振り向くと同時にニヤニヤとした顔で。


「あぁ。とてもよい経験をしたよ。控えめなのもまたいいね」


 何食わぬ顔でサムズアップ。


 夢園後輩の扱いは熟知しているからこそ冷静に対処をする。


 今まで何度小馬鹿にされてきたことか。今が先輩の威厳(笑)を示す時。

 恥ずかしがったり少しでも隙を見せたら――揶揄われる負ける


「は、はぁ?! これでも大きい方なんですがぁ!? 周りが巨乳ばかりで先輩が巨乳星人なだけでしょ!!」


 癇に障ったようでプンプンと怒り。


「まあまあ。そんな怒らないで。ほら、女性の魅力は胸だけじゃないから。それに夢園さんにはその太もも――」

「死ね!」

「――っとお。危ないな。狭い廊下なんだから暴れないの」


 「太もも」と口にした瞬間、予備動作もなく飛んでくるローキック。それを軽く躱す。


「小宮先輩のクセに……」


 躱されたことが相当ご立腹なようで、顔を真っ赤に染め、自分の――普通の女子より太めの太ももを手で隠して憤慨。


「お。そうすると夢園さんの太ももが普段よりも太めに見える――」

「変態! 女の敵!!」

「うぉぉぉっ!?」


 こちらに駆けて飛び膝蹴りをかます後輩。


 その一撃をなんとか躱わしたが、おちょくりすぎた――火に油を注いだと反省。


「フー、フーフー」


 まるでその姿は臨戦体勢の子猫。


 やり過ぎた。ここは一発貰っとくか?


 夜叉のような目付き、低姿勢でにじり寄ってくる夢園後輩を見て。


「――小宮君と季ちゃん、こんなところで何してるの?」

「」


 その声、その存在に小宮は絶句し絶望。


「美咲先輩!!」


 その人物、美咲の登場に夢園は歓喜。


「や、やぁやぁ! 美咲。僕たちはちょうど作業が終わって今から戻る所だったんだ。ささぁ、早く生徒会室に戻って――」

「美咲先輩! 小宮先輩が邪な目で私の肢体を見てくるんです! さっきも太ももを舐め回すように見られて……しくしく」


 美咲の胸に飛び込み。


 先手必勝と行動に移すが、やはり女性はずるい。こちらが最後まで話そうとしても嘘泣きで注意を引き、自分の術中に移す。


 ほら、今一瞬こっちを見た時に舌を出したよ。なんてして……。


「小宮クン」

「はい」

「この後、ね?」

「……あぃ」


 うん。甘んじて(罰を)受けよう。元は僕が調子に乗って夢園さんの太ももをネタにしたんだし。資料室の件を話さないだけマシ。



 ◇◇◇


 

 生徒会室に戻り、皆の同意の元小宮に制裁が下されて……。


「……酷い目に遭った」


 無理矢理着せられたチャイナ服をなんとか脱ぎながら死んだ目で嘆く。


 制裁、それは暴力などではない。それよりも小宮に効いて過酷なもの。それ即ち女装。

 皆の前で「小宮君お着替えタイム」が開催され白石が持っていた(なぜか)コスチューム何着かを着せ替えられ。チャイナ服を着たところで下校時刻となり解散。


 羞恥プレイだよ。これも自業自得と思えばアレだけど……海原先輩だけが救い。


 美咲と夢園が提案した「小宮君お着替えタイム」について生徒会長の比奈も含める大半が賛成をし。唯一海原一人が「可哀想だから許してあげよう」と庇ってくれたが虚しく。


「……帰ろ帰ろ。すぐに忘れる。白石先輩が撮影していたカメラとみんなの脳内記憶には残るけど……解せぬ」


 そうこうしているうちに制服に着替え。


「あ、小宮君まだ居た。良かった」


 帰ろうとしていた矢先、息を切らした生徒会の良心海原が生徒会室に入ってきた。それも小宮の姿を見て安堵している。


「何か忘れ物ですか?」

「あー、忘れ物ではないけど。ちょっと小宮君に聞いて欲しいことがあって。君が一人になるのを待っていたんだ」

「はぁ」


 理由は解らないもの自分が役に立つならと思い、話を聞いてみることに。


「それで?」

「うん。そのー、君はモテるよね」

「……否定はしません」

「ふふ」


 苦虫を噛み潰すような顔をした小宮を見て上品に笑う。


「恋愛経験豊富であろう小宮君に折り合って話がある」

「……聞きましょう」


 「恋愛経験」など皆無に等しいとは思ったが、まずは最後まで聞く。


「気になってる人が、いる。でも自分の気持ちが煮えきらなくて、その……」

「……」

「え、えっとだな。この気持ちを整理して答えを出すために誰かに〜あの〜」


 目を泳がせ、要領を得ない言葉を並べこちらの様子をチラチラと見て。


「……要は、恋愛相談、ですか?」

「……うん」


 頰を赤らめ。海原先輩らしからぬ表情を見て頭を抱えたい気持ちに。


 そっかー、恋愛相談かぁ。多分、というか絶対。聞く人が間違っている。


 現在進行形で「恋」に悩む青年は他人の色恋沙汰の相談に苦悩する。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る