第45話 恋をした先に


 ※[]内は通話の話し合いとなります。



 ◇◇◇



「――さて、相談役を務めますか」


 夕食、お風呂を済ませ寝巻き姿。ベットの上で――スマホの液晶画面に映る「海原宇佐美先輩」という連絡先を見て。


 海原から「恋の相談」を持ち掛けられた小宮はその場で詳しく話を聞くことはなく、一度別れて電話にて話を聞くことに。

 時間帯が遅く下校時刻ということもある。それ以前にもし万が一――あの場で話して誰か、第三者に聞かれていたら色々とまずい。

 学生というものは元来、噂……ゴシップ物が好きだ。それが今話題の人物の内容なら尚のこと。小宮は無い頭を使って考えた。


 安全地帯――「家」で話そうと。


「そろそろかな」


 ブー、ブー、ブー


 そうこうしているうちにスマホに「海原宇佐美先輩」という表示の着信が来た。


「ふー」


 一呼吸入れて。


[はい、小宮です]

[こんばんは、海原だよ]


 着信に出るとスマホ越しに透き通った海原の声が聞こえてくる。


 女性とは……美咲とか美春さんとか文さん茜さんと……我ながら結構通話したことあるな。うん。でもなんだか新鮮。


[ごめんね。わざわざ電話越しでボクの相談に乗ってもらって]

[いえ。自分で役に立てるのなら]

[ありがとう。それで……相談事の前に話しておくことがある。今からボクが話す内容は嘘偽りなく、事実だ。驚くと思うけど、どうか耳を傾けて欲しい。君だけが頼りなんだ]

 

 スマホ越しなのでその表情とかは解らない。それでも声質から真剣味と切羽詰まったような感情が流れてくる。


[解りました。多少のことじゃ驚かないと約束しましょう。なので海原先輩の恋の相談事を聞かせてください]


 海原相手に信用してもらうべく、紳士的な対応を心掛け。


[助かる。じゃあ話すよ。ボクは――]

[(ゴクリ)]


 唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。


 「覚悟」は決まったもの、この独特の静かな世界に一人きりで居るような時間が返って不安をよぎらせる。


[――鷲見白比奈のことが好きなんだ]

[……]


 海原の一言に無言となり、静寂が包む。


 うん。ごめん嘘ついた。驚かないと言ったのは常識的なことに限って、予想だにしない内容にはどうやら手に余るようだ。


[本気なんだ。同性の「友情」ではなく、異性間の恋愛的感情「愛情」をボクは比奈に持っている。同性同士でおかしいと思う。でも、この気持ちは……嘘偽りなく本物]

[……]


 知識としてはある。


 近年、男性だと「BL」。女性だと「GL」という「同性愛」を示す言葉が多く見られる。


 悪く言うつもりはない。驚いただけに過ぎない。それに趣味、嗜好、秘密を他人がどうこう言うのはお門違い。


[はは。気持ち悪いよね。ごめん]

[誰がそんなこと言ったんです?]

[ッ!?]


 その乾いた笑みと諦めの混じる言葉に少し怒った口調で。スマホ越しで海原が息を呑む声が聞こえ。


[あのですね。僕が何も答えなかったのは内容の理解に脳が追いついていなかった。ただそれだけです。同性同士の恋?いいんじゃないですか。僕は尊重します]

[……君は、本当にそう思うか。本来なら同性愛は周りから奇異されるものであり――]

[今は周りなんて関係ない。なんですか? 海原先輩が口にした言葉は冗談だと?]

[冗談なんかじゃない!!]

[……]


 これまで聞いたことのない怒声に黙る。


[ボクは比奈のことが好きだ。比奈がどう思うかは別として。もし、彼女が応えてくれるなら、反対する周りを押し切ってでもボクは彼女を幸せにしてみせる!]

[なら、僕はそれを応援します]

[へ?]


 さっきの怒声が冗談かの如く海原は情けない声を漏らす。


[だから、僕は海原先輩の恋路を応援すると言っているんです。先輩が僕たちの恋を応援してくれたように。あぁ、海原先輩がその道に進むにあたって。周りに押し付けたり、無理矢理はダメですよ? あくまでもお互いの意思を尊重してこそが最も重要なことです]


 うんちくを語るように。


[ボクの考えがおかしいと思わないのか?]

[全然]

[ボクの考えは、普通じゃない]

[かもしれない。でも僕が知っている海原先輩は間違ったことをしない人だ。それに誰に迷惑をかけているわけでもない]

[君は、変わってるね]

[よく言われます]

[ふふ。あぁ、君に相談をしてよかった]


 どこか憑き物が取れたような普段と変わらない声を聞いてこちらも安心する。


[当たって砕けろとは言いませんが、伝えなくちゃ伝わらない想いは気持ちはある。鷲見白会長がそうとは言いません。僕は鈍感……らしいです。美咲達に直接言われなくちゃその気持ちに気付かなかったほどですからね。中にはそういう人間もいるので]

[……ありがと。まだ怖いけど、そうだね。この気持ちを燻らせていても伝えなくては意味がない。君の言葉通りだ]


 その後、一言二言話。


[今日は相談を聞いてくれてありがとう。美咲ちゃんには事前に小宮君彼氏君を相談役として借りると伝えているから問題ないと思う]

[あ、そうでしたか。美咲にどう伝えようか悩んでいたので助かります]

[初めに話せばよかったね]

[いえ]


 しばし、軽い談笑を交えて。


[最後に。今後比奈とボクの間で少し空気が暗いと思ったら察してくれると助かる]

[わかりました。成功することを祈ってます。ですが、どう転ぶかは人生ですからね]

[うん。では、おやすみ。よい夜を]

[おやすみなさい]


 二人は通話を終え。

 スマホを枕の上に置き、ひとりごちる。


「はー、意外は意外。だけど蓮兄の言葉がようやく理解できた」

 

 通話の余韻にしたりながら。


『ま、俺と宇佐美はホンマに何もないで。俺は宇佐美に対して恋愛感情など持ってないし男友達感覚くらいや。アイツも……ま。慎也くんが邪神するほどのもんはないね』


 それは以前、蓮二が口にした言葉。


「あの時、海原先輩の好きな人を知っていたからこその言葉だよね」


 「恋愛」は「恋愛」でもむつかしいのだなとまた少し賢くなり勉強になった。



 ※作者です☕︎


 これにてGW連続投稿、終わります。

 毎日見にきてくださった皆様、ありがとうございます。

 来週からはまた「週一程度」の投稿頻度に戻ります。少しでも早く投稿できるように頑張りますので、またよろしくお願いします。


 お互い、来週からも頑張りましょう💪

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