第20話 二人の共闘戦線 後編



『さっそく今後のことについて色々と話したいとこだけど……文ちゃんとは一度話し合いたいと思っていたことが他にあるの』

『どんなお話しでしょうか?』

『うん。について。文ちゃんも薄々気づいているんじゃない?』

『……』


 その問いに思い当たる節はあった。


 自分はあえて考えないようにしていた。


(だって、小宮先輩は女性と話す時より、熊本先輩(クマ)や他の男性と話す方が……でも、自分が好きな男性が……)


『――ボーイズラ』

『うん、違うかな』


 一言で否定された。


『(ぷしゅう〜)』


 自分の勘違いに顔を手で覆って伏せてしまう。


『もしかして文ちゃん、好き?』

『……(コク)』


 苦笑気味に聞いてくる先輩にただコクリと頷いて見せた。


『あはは、そっか。でも良いと思うよ。価値観や趣味嗜好は人それぞれだから、ね』

『……』


(あ、ああ。せっかく良い雰囲気だったのに空気が……美咲先輩に気を使わせてしまった。私のBL好きが足枷でした……でも、でもでも小宮×熊本や熊本×小宮や小宮×噂 ――)


『文ちゃん、いいかな?』

『ハヒィ!?』


 ついのスイッチが入り、自分の世界にのめり込んでいたところ、大宮の声で現実に戻された。


『時間も遅いし、話し進めるね』

『……お願いします』


 深々と頭を下げ、この先は余計な口を挟まないと心に誓った。


『私が違和感を覚えたこと、それは小宮君の「恋愛感情」について』

『「恋愛感情」。先輩は「ド」が付くほどの鈍感ですが……でも、言われてみれば……』


 文は自分でもその違和感になんとなく気づいていた。それは今まで話してきた小宮との会話の中で何か引っ掛かるものがあるから。


(先輩は鈍感なことは間違いないです。でも、それ以上に……私が恋愛面について何か話をしても当たり障りのない答えばかりで、その時は特に不自然さは覚えていませんでしたが……今思い返すと、小宮先輩は……)


『……先輩と何度か恋愛話もしたことがあります。ですがどこか上の空と言いますか、自分には関係ないと言いますか、無感情でそれでいて無関心で聞いていたような……』

『やっぱり。私も同じ気持ち。ただそれ以前に……何か人として欠けている気がする。例えば……小宮君が過去、恋愛面で何かあった、とか?』

『それ、は』

『結局これは私個人の考察に、推測の域にすぎないけどね。本人に直接聞いてみないと分からないこと。でもこうして分かり合える人が近くにいて少し、安心したな』


 肩の荷が降りたと言いたげに一息つく。


『……もしかして、共闘って……』

『おそらく文ちゃんの思っている通りだと思う。今の小宮君の攻略はおそらく、厳しい。でもその攻略の糸口を見つけて彼の「恋愛」に無関心な理由を調べる。そうしないと……私達も小宮君も一向に前に進められない』

『……私もそんなこと嫌です。美咲先輩、私ができることならなんでもします』

『なら、その話し合いを今からしようか』


 そうして二人は小宮のためでもあり、お互いの恋の成就のために話し合う。


 まず二人が決めた内容は「役割」。


 小宮に「彼女(仮)」の提案をされた文がその名の通り「仮の彼女」役に。


 自分一人で行動を起こせない大宮はいつも通り小宮の「監視」及び「盗聴」役に。

 

 小宮の弱みを握った際に連絡を取り合うためのスマホ操作。その時に今後何かで役に立つと思い……小宮のスマホ内に「位置情報アプリ(自分のスマホと連動型)」を付け、スマホケースに小型の「盗聴器」を……。


 これだけ聞くと、本人に聞かずそんな危ない橋を渡っていることにまんま「犯罪」ではないかと思うが……。


      【愛ゆえがために】


 そんな一言で済ませてしまう二人。


 文が提案した「勉強会」は「勉強会」と銘打っただけにすぎないもの。「彼女」らしいことをして少しでも小宮が「恋愛感情」を芽生えてくれればとした一抹の希望。

 結局それも文と小宮の仲が少し深まっただけで終わった。盗聴越しに聞いていた大宮は二人の関係を知れたもの、除け者の自分はハズレくじを引いたとガックリ。


 そんな二人の共同戦線は第二フェーズへ。


 普通の行動では「恋愛感情」を芽生えさせることが厳しいと踏んだ二人は精密な連携方法で小宮に不審に思わせることなく、大宮は普段通り、文は小宮の「味方」という立ち位置をキープしつつ行動に。

 大宮の口車に乗せてテスト勝負までかこつけた二人はこちらの勝利を確信していた。それは前々から巻いていた種――「勉強会」を文が提案した時点で芽吹いていた。


 実は「勉強会」と文が口にし小宮に勉強を教えていたもの。それは全て400点前後の点数が取れないであろうというラインをキープしていた。大宮の口頭で「小宮君は英語が苦手」と聞いていたので他は念入りに。英語だけは赤点を回避できるだけの施しをした。


 陰で連絡を取り合い初めからそんな計画を立てていたことを知らない小宮はまんまと二人の罠に嵌り図書室へ。



 ◇◇◇


 

 そして今、逃げ道を塞がれた小宮は二人の話を全て聞き終わり、話をまとめるためか微動だにしないで俯いていた。


「――要するに、大宮と文さんは……僕に「恋」をさせるため、動いていた?」


 かなり端折ったが要はそういうことだと思い口にしていた。本来は他にも色々と聞きたいことはある。「盗聴」とか「盗聴」とか。


 「盗聴」をしていたってことは……美春さんとの密会も知っているわけで……。


 顔が青ざめていく感覚を覚える。


 それに、文さんは知っていたけど……。


「!」


 少し頰を赤くした大宮と目が合ってしまう。


 ま、マジかぁ。あの大宮が僕のこと……。


 顔は確実に青ざめているのに頰と胸が熱くなってくる感覚も覚える。

 

「お母さんのことはこの際不問にしようか。私達も君を嵌める形で行動をしたし」

「……助かる。でも、あの、大宮は――」

「それは後で。それよりも聞かせてよ。君の答えを。どうして「恋愛」に対してそんなに無関心なのか」

「先輩、聞かせてください! 力になりたいんです!!」

「……」


 二人に聞かれるも、自分は答えられない。


 話しを聞いていた時点でそんな質問がされるとは薄々感じていた。でも、本当に分からない。「原因の一端」は思いつくもの、自分が「恋愛」に無関心だとは思ったことは一度たりともなかった。


 でも、他の人から見たら僕は……。


「僕も、僕もさ。本当に自分自身のことなが情け無いけど……分からないんだ。そんな気持ちはないし、二人に言われて初めて自覚したぐらいだ」

「そんな……」

「では……」


 二人は自分の話を聞いて暗い顔を作る。


 心配してくれる二人にそんな顔をさせるのは申し訳ないと感じた。だから、今まで誰にも口にしたことがなかった秘密を打ち明けることにする。


「――でも、思い当たる節は、一つある」

「小宮君、よければ聞かせてくれない?」

「私も、先輩のお話聞きたいです」


 一白置いて、話す。


「僕さ――「」なんだ。心の奥底で人を信じられない自分がいる」

『――ッ』


 その事実に二人は絶句し、小宮は苦虫を噛み潰したような顔になるも続ける。


「あまり面白い話じゃないけど、二人に話を聞いてほしい――」


 淡々と自分の「過去」について語る。

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