第2話 小宮と大宮
小宮慎也には通う高校にどうしても相容れない存在がいた。
「チッ。いつもいつも……」
朝、教室に入り自分の机へと向かう。
そこにはいつもの光景――隣人の席である「大宮美咲」の席に電灯の灯りに群がるかのように集まるクラスメイトの姿。
自分の席はその生徒達が群がるせいで座るスペースも物を置けるスペースもなく、だからこうしていつもイライラとして登校している……。
なら早目に登校すればいいじゃないか?……馬鹿言うな。自分の住まわせてもらっている家はそこまで高校から遠くはない距離にあるがなぜわざわざ早目に登校しなくてはいけない。
端的に言って「ふざけるな」。
「――どけ」
だから毎朝自分のペースを崩すことなく登校するとこの群がる害虫どもに辛辣な言葉を浴びせ駆除を行うのが日課。
「お、小宮っちおはおは!」
「小宮君おはよう〜今日も不機嫌だね〜」
「小宮君おいでおいで、お菓子あるよ?」
「……」
なのになんだコイツらは? こちらの発言を無視してこうも馴れ馴れしく絡んでくる?……コイツらの心理がわからない。
「……はよ」
だがクラスメイトに挨拶をされ返さないのはどうかと思う。なので短く返す。
「不機嫌」だとほざいた女子が頭を触ろとしたのでその手を払い除け、「お菓子」と口にした女子からポッ○ーを三本頂戴した。
「……あむ」
道を開けてもらった僕は自分の机にカバンを置き椅子に座り貰ったポッ○ーを食べる。
『きゃっ〜!!』
そしてそんな僕の様子を見て女子どもが叫んでいる……。いや、貰った物はその場で食べるさ。アレだったらお礼も言う。悲鳴を上げる理由は分からないけど。
「悪意」は「悪意」で。
「好意」は「好意」で。
コイツらは僕がいくら辛辣な態度をとってもなぜか僕に「悪意」を向けたことがないが「好意」は向けてくる。多分、というかそれがなぜなのか分かっている。
「小宮君おはよう〜」
「……はよ」
隣人から挨拶。
その挨拶に応え――その本人に嫌味たっぷりの
「何その顔、小宮君今日も面白いね」
それはコイツ、「大宮美咲」の存在だ。
大宮美咲。
ここ、青南高校で学年、男女、先生問わず人気で有名な生徒で「マドンナ」とか呼ばれているのを聞いたことがある。
そのアイドルのようなルックス。高校生とは思えないまるでモデルのようなスタイル、人を引き寄せるカリスマ性、頭脳明晰、運動神経抜群……と、生徒はおろか先生方にも好印象で非の打ち所がない……と思える生徒。
ただ、コイツの「本性」を知っている。
そして、苦手にして嫌いな生徒でもある。
大宮は何かと接触を図り毎日挨拶をしてくる。それを邪険にできなかった僕は何か裏があると思いながら互いに挨拶を返す返されるの関係が続いていた。気づいたら他の生徒にも挨拶を、話しをするようになっていた。
「小宮君、こっちに視線ちょうだい〜」
「あ、私も私も!」
「小宮君のこの顔はレアだよ〜」
大宮を中心とした女子生徒がスマホを向けて「パシャパシャ」と写真を取り出す。
「……コイツら」
そのイジメともとれぬ女子どもの行為に肩をふるふる振るわせ。
先生が来る時間だから早くスマホをしまえ!!
◇◇◇
キーンコーンカーンコーン
「――はい、チャイムも鳴ったので今日の授業はここまで。今日やった場所は試験でも出るから復習しておいてね〜」
『はーい』
現代文担当の先生、僕が所属する二年二組の担任でもある
その言葉に園児のように返すクラスメイト……ここは幼稚園かな?
優しくそれも生徒思いであり生徒間から人気のある愛沢先生で、授業も分かりやすく課題も少なくテストの範囲をこうして教えてくれる分には僕も助かっている……コイツらのように園児にはならないがな。
日直の挨拶も終わり愛沢先生が教室を後にした途端、室内では声が飛び交いお昼ムードまっしぐらだ。
「お昼どうする?」
「食堂行くか」
「そうするべ。たまにはカツ丼でも――」
男子生徒達が楽しそうに。
「え〜、それお母さんじゃなくて彼氏に作って貰ってるのぉ!?」
「ふふん。君たちも料理上手の彼氏を見つけたまえ」
「上から目線、ムカつく〜」
「いや、あんたも料理ぐらい覚えて彼氏さんに作ってあげなさいよ……」
女子生徒達も楽しそうに会話に花を咲かせる。
そしてそんな僕は――
「――」
無言で素早く席を立ち、誰に何を伝えるでもなくバックから取り出したコンビニ袋片手にいつもの場所に向かう。
「大宮さん今日もお弁当かわいい!!」
「自作なんでしょ、レベル高ーい!」
「俺も大宮さんの弁当食べたいなぁ」
「お前は無理だろ」
「お前もな」
その後ろから大宮を中心とした男女交わる楽しそうな声が聞こえてくる。
危ない、危ない。あんな
いつものことながらそういう面倒臭いことに巻き込まれることを見越して早く行動をとるように心掛けている。コレに関しては僕から動くのが吉だ。少し遺憾だがな。
・
・
・
そんな僕が隠れ蓑として一人で食べている場所が――ここ、図書室。
「いただきます」
席を確保すると朝、予めコンビニで買っておいた菓子パンを取り出して食べ始める。
ぼっち飯?……ふん。言いたい奴は勝手に言えばいいさ。僕が自分で選び僕が気楽だと思って進んだ道が「図書室」であり、望んだものが「一人」を満喫する時間。他人にどうこう言われる筋合いはない。
それに一人の時間とは中々有意義な物だ。こうして一人の時間をのんびりと過ごす。なんと心地よいのか。その点図書室は「汚さない、煩くしない」を守れば食事を取れる。それも静かであり人気のない図書室は楽園だ。
「次の巻は……」
ご飯を済ませ、席を立ちこの頃ハマっている推理物の小説の続巻を本棚から取り出すと読み始める。
推理物っていいよね。話の内容は勿論だけど人と人との心理戦、また駆け引き。
謎を解くまでのこの時間。そして謎を自分で解いた時の感動感……謎なんて今まで一度も解いたことないけど……でもコレでいいんだ。僕は読んでその謎を解明した時、なんだか頭が良くなり、知識が増えたような感覚になるから。要は自己満。
「ヘェ〜小宮君もそれ読むんだ。実はそれ犯人家政婦だよ」
「ハァ? あの主人に順従で優しい家政婦がやるうぉぉぉぉ!?」
頭上から聞こえる声に呆れるが、その人物の存在に気づくやいや悲鳴をあげた。
「あー、ごめんね。私の性格上ついついネタバレしたくなって」
そして僕の頭に重みが伝わる。
「そんなクソみたいな性格捨てちまえ! そして僕の頭をお前の胸置き場にするなぁ!!?!!?」
叫び、なりふり構わずつむじを通して伝わるいつもの重みを振り解くべく頭を激しく振るう。
「やんっ」
「き、気色の悪い声を出すなぁ!」
頭に置かれていた物……胸の存在がなくなったことに安堵し、同時にその人物は艶めかしい声をあげる。
「大宮。お前、いつもいつも本当になんなんだ……」
そしてそのいつもお昼になると何処にいても邪魔をしてなぜか僕の頭を胸置き場にする
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