第17話 テスト2日目 中間考査終わり
火曜日、数学
・円周率
円周率とは円の周長の直径に対する比率。
問.「1パイは何センチか」
本当にこんな初歩的な問題が出題されるとは……。
日曜日、最後に確認として行った文との数学のテスト勉強を思い返す。
『いいですか先輩。今回はおそらく円周率のもとめ方について高確率で出題されます。円周率……πについて覚えてますね?』
『まぁ』
そう質問をされた僕は曖昧に答える。それは別に覚えてないからではない。ただ円周率について文さんの教え方が、ちょっと、いやかなり特殊的だったから。
『では、1パイは?』
『……1パイは0.1センチの直径でもあり、直径、1mmでもある』
『正解です。どんな問題でもそうですが、もとめ方、数式、単位と呼ばれる基礎中の基礎。初歩さえ押さえてしまえば簡単です!』
文さんはそうドヤ顔で言う。その時に揺れる大宮と大差ない大きさの胸に目が――
『そうです。私の胸……おっぱいです』
あの文さんが前までなら絶対に口にしないであろうお下品な言葉を使った瞬間だった。
『慎也先輩が大好きなおっぱいと似た単語なので覚えるのは容易ですね。正解した報酬として文のお胸、ふみふみしますか?』
『し、しないよ。それに好きでも……』
『好きでも?』
そんな風に後輩に煽てられながらの勉強会だったため記憶に濃く残っている。
「……」
決して僕個人が胸を好きなのではない。男は皆胸が好きなのだ――
自分の考えを正当化するかのように言い訳を並べて中間考査最後のテストに挑む。
◇◇◇
「――そこまで。答案用紙を後ろから回すように」
数学の担当教師である田嶋先生の合図で皆手を止め各々答案用紙を前に送る。
「これで中間考査は終わりです。テストが終わっても勉学に励むように。では」
右手の腕時計をチラッと確認したのち最後にそう伝え教室を後にする田嶋先生。
キーンコーンカーンコーン
校内に鳴り響くチャイムの音が中間考査終わりの合図を知らせた。
「はーい、皆テストお疲れ様。今日はこれで授業も終わりだから家に帰ってゆっくりするんだよ〜ただし、帰る際は寄り道をあまりしないで気をつけて帰ってねぇ〜」
『はーい』
帰りのホームルームにて愛沢先生の言葉を受け、またクラスメイト達は幼児退行をしたかのように返事を返した。
やはりここは幼稚園かな?
そうこうしているうちに愛沢先生も教室を後にし、またテストが終わったことによる解放感からか生徒達はいつも以上に騒ぐ。
「この後、ゲーセン寄らね?」
「いや、サイゼでしょ」
「メイドカフェだろ」
男子生徒達がこの後の寄り道について熱弁を行い。
「テストどうだった? 私はまた微妙かも」
『それな』
「この後、ミスド寄らない?」
『それな』
「あ、今日バイト入ってたわぁ」
『それな』
「……実は、私彼氏と別れたんだ」
「え、まじ!?」
「ドンマイ!」
「ウケる!」
「そこは、「それな」で流せよぉぉ!!」
女子生徒達がまたワイのワイの騒いでいた。
「小宮君は今回も自身ありげなんだ」
「自信はない。いつもよりはできた程度」
テストも終わったこともあり早目に教室を出ようと心の中では思ってはいたもの解放感からか出先が遅れ、大宮に捕まっていた。
「フフフ。今回のテストは六教科だから〜その半分の点数の300点取れたら、私がなんでもお願い一つ叶えてあげよっか?」
「はん。誰がそんなものにのるか。どうせ僕が300点を取れなかったらお前の思う壺だろ」
どうせいつものことだろと思いながらスマホを片手に眉間に皺を寄せる。
「あったり〜賭け事にリターンは大事だよね。無償なんてそんな上手い話はないよ。小宮君もこの手にはもう引っかからないかぁ」
感嘆の声を上げパチパチと手を叩く。その仕草に少し、いやかなりイラッとくるが自分の怒りの衝動を抑え込む。
「じゃぁじゃあ、400点取れたら君の無実を認めてあげる……と言ったらぁ?」
「ふん甘いな。僕を舐めるな。そんなもので易々と引っ掛かる僕じゃあやってやるよ。400点だろ楽勝だ負けても後悔するなよ」
「にはは〜そうこなくちゃ〜」
ふ、ふん。これは別に流されたわけではない。勝てると踏んだから誘いにあえてのっただけにすぎない。
楽しそうにニマニマと笑う大宮の顔がムカつくと思いながらもこれで勝てば解放されることに喜びテスト結果が待ち遠しく思える。
「明日のテスト返しが楽しみだねぇ。ところで小宮君はこの後は? お家でおねむ?」
「まさか。僕はこの後――」
「慎也先輩!!」
最後まで口にする前に自分の名を呼ぶ声が聞こえる。それは計画通り。
「ん?」
そこで大宮は声の発信源に顔を向ける。そこには――
「あ、あれって一年で美人で有名な雪見さんじゃない?」
「うわ、本当だ可愛い」
「白髪とか初めて見た」
「というか、慎也先輩って……」
来訪者、一年生の後輩である雪見文の来訪にざわつきその人物が名指しした名前に気づき始め――小宮に視線が集まる。
初めから見越してかいつもは浮かべることのないドヤ顔を作り大宮に向き合う。
「――残念だけど暇じゃなくてね。この後あそこにいる彼女、文さんとデートなんだ」
「え」
その発言を聞いた大宮はこちらも普段は浮かべることのない驚いた顔を作る。
「それって――」
『『えぇぇぇぇ!!?!?』』
そして大宮の言葉を掻き消すように残っていたクラスメイトの絶叫とも取れる悲鳴が重なり合う。
◇◇◇
「先輩、本当にあのような形で教室を後にして良かったのですか?」
二人で帰路に着いていると、隣に歩く文さんにそう質問をされた。
「……少し予想外ではあったけど……クラスメイトもいたし、大丈夫でしょ」
「先輩がそれでいいなら……」
心配そうにする文さんの顔を見て安心させるように微笑む。
文さんのことを「彼女」と公言した後、予想通りクラスメイト達から矢継ぎ早しに質問をされた。その質問の多くが「大宮と付き合っていたのではないのか」という不可解なものではあったけど事実を話し、「文さんとお付き合いしている」と話した。
もちろん、周りへの「彼女」の公言は文さんも了承してくれているためクラスメイト達がいる間で行った。大宮にわからせるという理由が一番。だけど、文さんの「男避け」に対しての行動でもある。
以前、まだ僕達が「彼女(仮)」になっていなかった頃に聞いた話し。
同級生や上級生から告白をうけるもの断ることが大変で断った後も申し訳ない気持ちになってしまうと語っていた。その時は「モテる人にも悩みがあるんだ」という感想を持つ。ただ今回のように第三者であるクラスメイト達に知られればそれははたまた学校中に知れ渡り、文さんにちょっかいをかける
そこまではいい。意表返しとは言わないけど大宮を見返すことが成功した。なんだかんだノリが良く察しがいいクラスメイト達は僕達のことを祝福してくれた。しかし――
『……』
当の大宮が上の空て顔を頭上にあげて一言も話さない。近くにいた女子生徒が話しかけた時、それは「失神している」と分かった。何故大宮がそんな状態に陥ったかは検討もつかなかったけどクラスメイト達はやはりその察しの良さから目と目で通じ合い、何も言わない。ただただ大宮の体調を確認したり、保健室に連れていく話しを進める。
おそらくクラスメイト達は大宮が失神した理由を知っている。ただ、聞いてはいけないという何か嫌な気持ちに取り憑かれ己の中の警報が鳴り響く。僕は「それ」に何度も救われたことがあることから今回も気にすることなく、それ以上考えることなく、クラスメイト達に急いでいる旨を伝え、その場を任せ後にした。
一緒に着いてきた文さんの終始申し訳なさそうな顔が妙に脳裏にこびりつく。
「……この話しは一旦やめにして、まだ時間もあるし文さんが前から行ってみたいと言っていた駅前の猫カフェにでも行こうか?」
「え、いいんですか?」
「うん。中間考査無事終了会及び勉強を見てくれた恩返しも兼ねてね」
こちらの提案で暗い表情から一変、明るい表情となり嬉しそうな顔を浮かべてくれる後輩を見てつい微笑ましく思うも、これで気分転換になればと思った。
・
・
・
「うぅ、猫さん可愛かったです。もっとお触りしたかったです……」
「可愛かったね」
両頰を押さえさきまでの猫との戯れの余韻に浸っているであろう後輩を見て苦笑した。
「……先輩と猫さんの大変貴重な戯れ写真も激写できたので心残りはありません」
「あぁー、できればその写真は消してもらいたいとか……」
「断固として拒否します」
「さいですか……」
一言でバッサリと断られてしまう。今も「家宝にします」と喜んでいる後輩を見てこれ以上の要求は厳しいと悟る。
諦めよう。僕だってにゃんこ達との戯れは楽しかった。文さんも他の人に見せびらかすような子じゃないし。
「さて、この後文さんは何か予定ある?」
「特には……強いて言うならまた先輩のお家に……(チラッ)」
期待の眼差しでこちらの様子をチラチラと伺ってくる後輩の姿に頰を掻いてしまう。
「話した通り叔母さん達が居ないからまたの機会にお願いしたいな」
「うぅ、分かりました我慢します」
話しが分かる後輩で鼻が高い。こちらの要望をしっかりと聞いてくれるのもよき。
本当は美春さんが今日もうちに来る可能性があるから二人を鉢合わせなんてさせられないのが一番の理由。
「では、約束通り明日は一緒に登校しましょう。これだけは譲れません!」
「あぁ、うん。駅で待ち合わせだね」
「はい……先輩忘れやすいから気をつけてくださいね」
「……善処します」
最後、明日の待ち合わせについて話して二人は別れる。
猫カフェ店内で明日の行動について話し合った。それは自分達が大宮に「付き合っている」という「事実」を知らせた上で次の一手として「カップル」という「姿」を明日惜しみなく見せるため。
「ん?」
文と別れて帰路についているとスマホが振動しメールを知らせた。
「美春さんから?」
スマホを取り出して液晶の画面を見ると「美春さん」の名がありすぐに内容を確認した。
【実は学校で美咲が倒れたと聞いて今は学校にいるの。大事はなさそうだけど……今日は美咲の看病で慎也君のお家に行けそうじゃなの。また明日、そちらに顔を見せるね。慎也君も気をつけて帰ってね】
そんな内容だった。
「あぁー」
そのメール文を見て少し悪いことをしたなと感じてしまう。
「……大宮から連絡が来たらしっかりと今日倒れた事情を聞いて、謝ろう」
あの場の雰囲気的に自分達が原因で失神したのだと薄々気づいていた。毎夜のルーチンとなっている
そう思っていたが、一向に電話は入らずこちらから連絡をしても繋がらなかったため謝罪の機会は訪れぬまま翌日へ。
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