第35話 白石先輩とお出掛け 後編
◇◇◇
お昼を食べた後、すぐに解散することなく二人で"寄り道"をしていたら気づいたら16時となり、帰宅をするにはいい時間帯。
「いやー、時間過ぎるの早いね」
「楽しいことはすぐに過ぎ去ると言いますからね」
「だね〜」
二人揃ってそんな緩い会話を交わし合い朝、待ち合わせた駅までの道を歩いていた。
「明日、比奈ちゃんのお家……喫茶「鷲見白」を貸切にしてもらって美咲ちゃんの誕生会を開く予定だけど。弟君は……」
「明日は僕も参加しますよ。「お客」じゃなくて「店員」ですが、ね」
言葉を聞いた白石がまたニヨニヨと楽しそうに薄く笑う。
「ヘェ〜明日は「慎ちゃん」に会えるんだね。そっちもお姉さん楽しみにしているよ」
「……ご来店お待ちしております」
生徒会のメンバーには「小宮慎也」が「慎ちゃん」という事実は周知のためそう言葉を返すことしか選択肢はなかった。
「――ここから私の家は近いからお別れかな……弟君が心配だからお姉さんが家まで着いて行ってあげよっか?」
「いえ、間に合っています。「不審者」が出没したとかの危ない噂もあるので暗くならないうちに先輩は帰ってください」
「はーい」
聞き分けが良くて大変助かる。
「あ、先輩。別れる前にコレを」
「ん?」
キョトンと小首を傾げる先輩に美咲とは別に買っておいた物が入っている紙袋を手渡す。
「コレは?」
手渡された紙袋を手に不思議そうに。
「まあまあ、開けてみてください」
「う、うん」
白石は戸惑いを隠せない中、手渡された紙袋を開ける。紙袋の中にある物を見た瞬間目が輝き、次に小宮の顔を伺い。
「それ、今日のお礼です」
白石の手にはモフモフのうさぎのぬいぐるみ型キーホルダーが握られていた。
「い、いいの?」
「もちろん。先輩、アロマキャンドルを探しに行く時物欲しげに見てましたよね。なので欲しいのかなって」
「そうだけど……私だけこんな、悪いよ」
少し気まずそうにそれでも受け取ったのでどうしようかと悩む白石におちゃらけた感じで語りかける。
「言いましたよね。それは「お礼」だと。先輩とあの店に入ったからプレゼントが見つかりました。だから「お礼」です。それに――」
「そ、それって」
ニヤリと笑い手に持っている袋からおもむろに取り出した――白石が手に持つ物と同じうさぎ型キーホルダー。
「実はコレ、二個セットになってるんです。僕も可愛くて欲しいと思っていたので買っちゃいました。先輩に片方お裾分けです」
「……」
「いやでした?」
「……いやじゃない」
白石は手に持つキーホルダーを大切に胸に抱きしめて。
「なら良かったです。お揃いですね」
「お揃い。ありがとね、慎也君」
「! どういたしまして」
白石の名前呼びにも驚いたが、その初めて見る「お姉さん風」じゃない普通の女の子の笑みを見て満足をした。
最後はお互い変な空気になることなく別れられた。
白石の背中が見えなくなったところで小宮は夕日を眺め一人で不適な笑みを携える。
「フッフッフ。やはり同行して貰ったのなら対価は支払うのがマスト。ああ言えば先輩も貰ってくれると解っていたから、計算通り」
ほくそ笑む。
「この頃、愛読書としていた「女性とのお出掛けで最後まで不快にさせない別れ方10選」が役にたつ日が来るとは……「イベント」も発生させなかった今日の僕は、完璧だ……」
計算通り計画が成功し、悦に浸る。
実は今日の「お出掛け」は小宮が裏で工作を図っていた。それは「自分が白石穂希に好かれない」こと。
以前、蓮二から「人に好かれる体質(女)」と言われた。今回は自分に「好意」が向かないことを前提で動いた。
白石自身小宮が「補佐」という役職が決まる時に鷲見白が口にした「仲を引き裂かない」という宣言に同意はしてくれたもの、自分の意思と反して好きになる恐れもあった。
そこで考えたのが「イベント」を強制的に消そう作戦である。作戦内容は単純であらゆる「イベント」を力技でねじ伏せること。
「待ち合わせ」の時本来なら何度か白石目当ての男性が「ナンパ」を仕掛けようとしたもの小宮が手配した知古の「噂崎組」の組員の協力もあり、未然に防げた。
そんなこんなで他の「イベント」も発動させることなく「別れ」まで漕ぎ着けた。
「美咲達に黙って異性とお出掛けをしていたってものそうだけど……これで相手が「自分に「好意」が向いちゃいました!」……じゃあ問屋は降ろさないってね」
今回は問題ないことに安堵し帰路につく。
◇◇◇
小宮と別れ、何もなく我が家に辿り着いた白石の現在。
「――」
部屋着に着替えまくらに顔を押し付け、花柄模様のベットにだらしなくうつ伏せに倒れる姿は青南高校で見せるような「お姉さん然」とした雰囲気は見えない。
「んん〜んんん〜〜!!!!」
置物のように動きがなかった白石はまくらに顔を押し付けた状態でモゴモゴとうめき、ジタバタともがき、徐に横をチラリと向く。
そこには何食わぬ顔で机の上にポツンと座るように置かれている小宮からのプレゼント、モフモフのうさぎ型キーホルダー。
「本当、そういうところだよ」
無言を貫いていた白石はようやく言葉を発し、その顔はその耳は真っ赤に染まり。
「あーああぁ。慎也君のこと諦めるって決めたのに、揺らいじゃった」
切なげな声を振り絞り。
数時間前の出来事を鮮明に思い出す。
自分よりも早目に待ち合わせ場所で律儀に待ち、こちらのたわいもない話にいやな顔一つせず付き合ってくれる可愛い後輩。
歩く際に何気なく車道側に歩いてくれる紳士的で自分を「邪な目」で見ず、「一友人」として見てくれるカッコいい後輩。
私の「大好き」な――慎也君。
「……好きだな。気持ちに、嘘はつけない。けど、美咲ちゃんの「彼氏」さんだし。あはは、自分ながら未練がましいね」
小宮を「弟君」なんて呼ぶのも……無理にでも「異性」ではなくて「弟」と見るためだったりする。
「ね、君はどうしたらいいと思う?」
「――」
「返答が返ってくるわけ、ないか」
うさぎ型キーホルダーに問いかけ、返ってくるわけがないと解っているそんな自分自身の行動に「ふふ」と笑う。
「慎也君はさ、美咲ちゃんが「ヤンデレ」かもって言ったけど。「好意」を向けている
白石は本気か嘘か取れない声量でその顔をまくらに埋めながらつぶやいた。
二人の気持ちはすれ違う。
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