第53話

 そもそも、感染性呪詛とはどのような怪異なのかといえば、その名の通り感染する呪詛である。オカルト系動画配信者ことSUWA君が投稿した動画を見ることがトリガーとなる。

 彼の動画を見た人間の中には、呪詛の因子が紛れ込む。呪詛の因子を取り込みされた人間は、無自覚かつ無意識に彼の動画を拡散していく。そうして充分に呪詛を拡散させた所で、新たな怪異候補あるいは怪異の苗床として凄惨な事件に遭遇させられる。


 本人に未練はなかったので、というより未練を自覚する間すらなかったので、充には悪意がない。


 動画にはネタが必要となるため、充は他の怪異と仲がいい。仲がよくなくてもよろしくしていく。結論、仲がいいことになる。陽キャの三段論法であった。論理学者が発狂しそうな馬鹿理論である。


「んー、にゃー!! とかしないの?」

「殺すが」


 ネコオトコ渾身のツッコミをスルーした充は、すぐに興味を失ってスマートフォンへと向き直る。充が振っておいた話題に秒で興味をなくすのはいつものことなので、ネコオトコも慣れたものだ。まぁ慣れていることとキレるキレないは別問題なので普通にキレたが。


「殺すわ」

「元気に死んでる」

「もう一回死んでもらっていいか?」

「んー、それって動画のネタになる?」

「ネタにはなるだろうけれど爆速でアカウント消えそう」

「じゃあヤダです」


 そりゃ本物の殺人現場を撮影してアップロードしたらどんなサイトでも超速でアカウントは消されるし公的暴力装置がリアルにこんにちはしてくる。最近は情報開示請求のハードルも随分下がったらしいし。いや、怪異的なアカウントって運営的にはどうなってるんだ。ネコオトコはつらつらと考えていたがどう考えても無益だったので考えることを止めた。


「今日のもほぼほぼ厄ネタじゃねぇか」

「ノコちゃんがダメーってなっちゃって回ってきた案件だからねぇ」

「八尺女がダメならお前はもっとダメだろ」

「や、相性の話。ノコちゃんはほら、おっきい男の人が苦手だから」

「八尺女より大きい男の怪異とかお前マジで勝てる気でいんのか?」

「ネコオトコ君は勝てるくない?」

「バッカお前そこアウトソーシングすんなよせめて外注かける前に詳しく説明しとけようーわナニコレバカの塔?」


 しゃこ、と軽い音を立てて爪を伸ばしたネコオトコだったが、その顔はくしゃくしゃにしかめられている。そんな彼の目前に現れたのは、4m程の大きな人影。その顔には巨大な目が一つ、それ以外はない。にも関わらず、その人影は吠えた。


「がんばえねこたーん」

「お前から殺すわ」

「バッカお前ここで戦力減らすのは悪手でしょオレもお手伝いするから頑張れ、頑張れ♡」

「やっぱお前から殺すわ」

「うーん決意が固い」

「メスガキの真似が普通にキモかった」

「次に期待しててくれよな!! 本物のメスガキってヤツを見せてやりますよ!!」

「バカ」


 と、端的に言い置いて。ど、ど、ど、と重い音を立てて駆けてくるその人影に向かって獣の動きで飛びかかるネコオトコ。スマートフォンを掲げた充を背に、シャアァ、と鋭く鳴き声を上げた。

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