第15話 血縁の話
呪いというのは厄介なもので、原因が死んでも、否、死んだからこそ強まるものがある。呪いとは裏返せば因縁であり、原因と対象の縁が深ければ深い程、解き難くなる。
だから、隼人は己を蝕む呪いから、縁遠くなることで逃れようとした。姿を変え、名を変え、住処を変え、由縁を変え、呪われた人間とは全くの別人として生きることで。
その目論見は、半分成功した。■■を縛り上げていた呪詛は■■を見失い、隼人の周りを徘徊するのみ。だがしかし、根幹は残ったままなので、何のきっかけでまた隼人に襲いかかるか解らない。故に隼人は、意図して■■と自身を分けて考えている。
とはいえ、時と場合によるが。
失せ物探しの楠家、といわれれば、日本のオカルト関係者はすぐにぴんとくる。先祖代々、政府とさえ関わりのある超能力者の一族だ。彼等はその代名詞たる失せ物探しのみならず、様々な異能を日本のために役立てていた。
だから、その中で最も力の強い男子が麻宮に奪われたという話題は凄まじい速度で関係者の間を駆け巡った。禍津神の麻宮家、とはその名を知る誰もが顔を背ける忌家であるからして。そうして関係者たちの中では、とある話題が密やかに論じられるようになった。
「日本でも有数の超能力者の血と、腐ってもなお色褪せぬ魔術師の血が混ざったら、どうなるのか?」
結果だけを言うならば、■■はとても恵まれた素質を持つ子どもとなった。超能力者としての力を持ちながら、魔術師としての異能をも併せ持った子ども。だがしかし、それは尽く裏目に出た。制御できない超能力は常に■■の心を蝕み、■■の力に目をつけた悪神たちからは狙われ続ける日々。
結局、■■は生まれたことそのものが間違いだったのだ、というのが隼人の結論。今でこそそのどちらもそれなりに制御できているが、ここに至るまでの道程を思えば生まれない方がよかったと心底から思える。だから、こそ。
「……麻宮明神が、弔蔦花に、祈り願い奉る」
「えぇ、聞き届けましょう、何を望むので?」
「塵も残すな」
「承りました」
隼人の――本名、
明神の背中から、骨の間、肉を裂き皮を破り、高々と咲き誇るのは狂気の花々。まるで花束のようなそれは、花弁一つでさえ致命の御技。術者の血肉を代償に、全てを殺す腐蝕の花。
「美しい薔薇には棘があると申しますが、美しい花にも毒がありますので、ねぇ、最期の景色には勿体ないくらいでしょう?」
そう言って嗤う弔蔦花が、明神の血肉で育てた死の概念は、明神の実母と異父妹が送り込んできた呪神を圧し潰す。歪んだ鏡像の形を持つその神は、明神の姿を目に写す前に掻き消された。それこそ、塵も残らぬ程、散々に。
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