第26話 菓子の話
悪霊と怨霊の違いとは何かといえば、怨念の向かう先だといえるだろう。怨霊は、怨みの先を間違えない。愚直に、素直に、たった一つへとその呪いを向け続ける。
悪霊は所謂、八つ当たりだ。
家庭科室、と呼ばれている悪霊は見た目こそ可愛らしい少年だが、その中身が醜悪過ぎる。彼は生前、この廃校に同級生数名と迷い込まされ、その中の一人に騙されてこの家庭科室で絶命した。
家庭科室に蔓延っていた悪霊たち曰く、死にたくなければ代わりに死ぬ人間を用意しろとのことで――死にたくない彼女に選ばれたのが、彼女に好意を抱いていた彼だった。彼女は彼を生け贄にして、自分一人が生き残ろうとした。
彼は悪霊だらけの家庭科室に閉じ込められ、気紛れに腐肉を喰わされたり、或いは水の一滴さえ与えてもらえなかったりして、必然的に死んでしまった。悪霊たちは新たな仲間を歓迎したが、彼の怨みの先は直接的に彼を殺した悪霊たちと、間接的に彼を殺した彼女だった。
餓死した怨霊は、飢餓に関わる権能を持つ。彼に芽生えたのは、食べても食べても満ち足りない地獄を作り上げる力。そして、同族喰らいの御技。彼は家庭科室に屯していた悪霊たちを喰らい尽くし、その頂点に君臨することとなった。
「カーイー、カイー!!」
「うるさいなぁもう、なにー?」
だから、この廃校の主であるキブレは彼をスカウトした。キブレにとって、最初から強い悪霊というのは護衛兼罠としてとても使い勝手がいいのだ。
結果――キブレは全治半年の重傷を負わされたものの、彼を自陣に引き入れることに成功した。カイ、とは彼の生前の名前からもじった名前である。
そんな、家庭科室に縛られているカイとは家庭科室の窓越しに話すしかない。キブレは廊下に面している方の窓から顔を覗かせたカイへ、轆轤を回すような手つきをした。
「お前、最近……こう、髪が長くて、左手に指輪してる女を殺したりしなかった?」
「殺してなんかないよ! ボクはおいしいお菓子を食べてもらいたいだけなんだから!」
「あーはいはいわかったわかった、髪が長くて指輪してる女にお菓子食わせたりした?」
「してないよ。それに髪が長い女の人は宿直室の先生が連れてっちゃうじゃん」
「宿直室は真っ先に調べたっての。これ何回説明すりゃいいの?」
「髪が短くて、左手に指輪してる男の人は見かけたけど」
「もう入ってきてンの!? 殺る気に満ち溢れてるじゃん……」
「片手に数珠持ってて、お経唱えながらあっちに行っちゃった」
「あー……たった今グラウンドの縮小が決まったわ」
「でも、その前にあっちでブーンって音がしてたからもう少ししたら終わると思う」
刹那、駆動音、断末魔。
「あー……まぁ残当ってヤツ?」
「宿直室の先生、手が早いもんね」
「仕事が早いって言ってやれよ意味が変わっちまう」
きょとんとした表情で首を傾げるカイと、嫌そうな顔で廊下の先へ視線を向けたキブレ。ずるずると、体積が半分になった元霊能力者を引き摺ってきたのは――頭に紙袋をかぶった大柄な男。その全身は、返り血で、真赤に染まっていた。
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