第4話 時代の話



 いつだって、時代の流れというものがある。



「オンライン神事を企画します」

「なんて?」


 夜遅く、水之登神社の社務所にて、ルキと酒英が顔を突き合わせてひそひそ話をしている。とはいえ、酒英は橙色の鱗をした小蛇の姿に化けているので、傍目にはルキが独り言を言っているようにも見えるのだが。


「オンライン神事ですよ」

「聞こえてはいたよ。何、インターネットを通じて神事をするって?」

「現に他の神社ではテレビ電話を通じた御祈祷などをされているようで」

「よそはよそ、うちはうちって言わない?」

「龍神様の御神徳をより多くの方々に」

「本音は?」

「和太鼓が壊れちゃったので購入費用が必要なんですよね」

「壊しちゃったじゃなくって?」

「壊れちゃったんですよ」


 つい先日、祭囃子の練習と称して太鼓を乱打していた徹が、ルキから常にない叱られ方をしていたことを思い返す酒英。顔面と両腕に開いた目は三角に吊り上がっていたし、額から角まで生えていたルキの姿は、控えめに言っても人外のそれで。


「壊れちゃったってしとかないとまだちょっと怒りの感情がね、抑えきれなくて」

「神職として精神を穏やかに保つ修練を積んだ方がいいと思う」

「鬼としての性質と結びつきやすいのでね、僕もちょっと困っています」

「本当に? ここぞとばかりに暴力として発散したりしてない?」

「困ってるって言ってるだろ」

「ほら見ろすぐに暴力! 人間なら言葉で何とかしなよ!」


 ぶん、と振るわれたルキの拳の下を這うようにして回避する。酒英は大口を開いて、しぁあ、と鎌首を擡げた。赤茶けた酒毒の霧がその口から放たれるも、鬼とは酒に強いものだ。一般人ならば吸い込んだだけで昏倒するそれを、ルキは柏手一つで吹き飛ばした。


「兎に角、オンライン神事を企画します」

「それ、陵の負担が増える感じ? だとしたら絶対に反対するけど……」

「最悪、動画配信サイトでお祓い動画とかを配信する感じにするのでそう負担はないかと」

「お祓い動画って御利益あるの?」

「あると思えばあるのではないかなと」

「詐欺師みたいなことを言う……」

「失敬な、お祓い動画で検索したら約九十六万件もヒットするんですよ」

「逆にその中に今から割って入って儲かると思ってるの? 自信がすごいね?」

「龍神様の御神徳を信じているので……」

「それ言ってたら何でも許されると思ってない? いっぱい叱られて反省しろ」


 睨み合い、同時に視線を逸らす。今夜もまた、水之登神社商売繁盛作戦会議は――特に進展もなく、解散と相成った。

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