第9話 憤激の話

「今一度同じ言葉を吐いてみろ……何故『使鬼』なんて術が創られたのか、その理由をわからせてあげますよ」

「もういいから!! マジでいいから!! ルキ君がオレのこと大事にしてくれてるのはわかったからぁ!!」



 やはり暴力が全てを解決する、とルキは信じていた。



 陰陽師連合の本部は京都にあり、各地の『陰陽師』たちは最低でも年一回、顔見せすることを義務づけられている。それは、『陰陽師』として研鑽を怠っていないか、外法に手を出してはいないかなどの確認のためなのだが――時に、嫌がらせとして呼びつけられることもある。

 日本の霊的平和を守る、という崇高な目的がある組織であろうと、大きな組織には少なからずよくない側面が生じるもので。故に、水之登神社の宮司である陵は幾度も呼びつけられ、嫌な目に遭っていた。それを知ったルキは怒り、その次の呼び出しに応じて本部へとやってきて、秒での暴力であった。


「駄目ですよトラちゃん。この手の輩は精一杯わからせとかないとまた同じことするんですから」

「暴力反対!! 止めて差し上げて!! ソイツそんなでも結構なお偉いさんの息子様なんです!!」

「これが偉い訳ではなくないです? これが何か世の中の役に立っているならまだしも……」

「これから役に立つかもしれないじゃん!? 頭蓋骨粉砕とかやだグロい!! 見たくない!!」

「髄液ちょっと漏れるようにするだけですよ、粉砕したら僕の手が汚れるじゃないですか」

「二重の意味でー!?」


 ぎしぎしと音を立てているのは、虎彦曰く結構なお偉いさんの息子様の頭蓋骨。彼は陰陽師連合の幹部の息子である生粋の『陰陽師』であり、それ故の選民思想が目立つ男。彼は、陵の代わりにやってきたルキと、ルキが暴力に走らないようにとついてきた虎彦を見つけて、難癖をつけたのだ。

 ルキは、鬼と人との混血児である。怪異をも捻じ伏せるその怪力は陰陽師連合の中でも脅威と見做されていて、時として人擬きと貶されることがある。虎彦は、『陰陽師』でありながら外法にも通じていて、それ故に重宝されつつも警戒されている。

 男は、そんな二人に対し、鬼と外法使いが何をしにきた、と嘲ったのだ。その結果秒で暴力が振るわれた。所謂脳天締めと呼ばれる技をルキからかけられた男は、自分を誰だと思っている、お前らなんて親父にかかればすぐに、などと騒いでは更に締め上げられていた。


「何でそんなに好戦的なの!? 止めよ止めよ!! 平和的に生きてこ!?」

「僕は鬼らしいので……鬼らしい所を見たいのかなって……期待には応えないと……」

「止めよ止めよ!! 平和的なルキ君が好きだな!! 怒るの止めよ!?」


 えーん! と泣きながらルキの腕に取り縋り、必死で首を横に振る虎彦。そもそも、ルキは自分だけが何かを言われてもあまり怒らない(虫の居所が悪ければ秒で暴力だが)。今回、こんなにもねちっこく暴力を続けているのは、虎彦をも嘲り、侮ったからである。

 ルキは、友人を大事にしている。友人が困っていれば助けるし、友人が酷い目に遭わされたら仕返しする。何故ならば、友人は大事にしなければならないものだから。よって、友人ではなく、友人に対して失礼な態度を取った男に対して暴力を振るうのは、当然のことであった。


「ちっ、『式神』か。覚えてろよ次あったら続きだからな」

「続かなくていいよ!! 続けないで!?」


 と、不意に男の姿が掻き消える。ルキの手の内に残ったのは一枚の紙切れ――自身の身代わりとなる霊体を作り出す、『式神』の媒体だ。ルキは乱暴に舌打ちすると、その紙切れを破り捨てた。

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