第30話 顛末の話
そんなこんなやあれやこれやがあり――キブレは、家庭科室で暇を持て余していたカイに誠心誠意土下座して教えを乞うことで新たな御技を身につけた。
まぁあんなんでも初めてボクのことすごいって言ってくれたセンセイだからねぇ、とはカイの弁である。
今日も相変わらず目に痛い夕景、人間に害を成す悪霊が屯している廃校にて。藻の緑を突き抜けて澱みの黒に充ち満ちたプールに足先を浸しながら、キブレは溜め息を吐いた。
「腹減ったァ……」
「ここには何もいませんよ」
「真顔で嘘つくな! ネタは上がってンだよ!」
「人魚からの寿司だけに?」
「マジで捌いてやろうか」
プールの水面に浮かんでいるのは、下半身を魚のそれに変えたウサギである。図書室の白兎とは名乗っているが、ウサギの縄張りはそこそこ広い。図書室は言わずもがな、このプールもウサギのものだった。
「お前がこの間三人くらい引き摺り込んでるのは理科室から聞いてンだよ……オラッ、ぴちぴち跳ねてみろや!」
「カツアゲですか? 品のない……」
「オレらに品があったことってあったっけ? なぁTS悪堕ち魔法少女さんよォ……」
「なってたのはそちらでは?」
「ならせたのはお前では?」
お互いに見詰め合い、同じ方向へ首を傾げる。
「三人の内、二人は外れだったので」
「外れでも腹の足しにはなるから寄越せよ」
「外れでも養分にはなるから嫌です」
「大家に忖度しろ! 優しくしろ!」
「まずはお前が優しさを見せるべきでは?」
「はー!? 居場所のないお前らを住まわせてやってンだから優しいだろうがよ!?」
「居場所をなくしたというか、僕等を幽霊にしたのって誰でしたっけ」
「知らん……何それ誰ェ? 怖ァ……」
「清々しくしらばっくれるなぁ」
白々しく斜め上を見上げているキブレの、プールに浸された足に忍び寄る影。がぷ、と噛みついたのはウサギが人肉を媒体として作ったピラニアもどきだ。
「ギャッ!?」
「おや、食べないんですか?」
「バカが!! 優しくしろっつってんだろ!!」
「それあげますよ」
「焼くなり何なりしてからくンない!? 生魚っつーか生きてる魚じゃん!?」
「生きてはない」
「それはそう」
ばしゃんと跳ね上げた足に噛みついたままのピラニアもどきは、宙に張られた糸に絡め取られる。そのままキブレの足から引き離され(その時にキブレの足の肉が地味に削げたが些事である)、吊り上げられ、向かう先は大きな蜘蛛の口――キブレが新しく覚えた御技で作り上げた、同族喰らいの眷属。
「マッッッッズ!!」
「逆にお前、自分がおいしいとでも? いいとこ下手物じゃないですか」
「お前も同族定期!!」
「まぁそれはそう」
「それはそう」
大蜘蛛がピラニアもどきを喰らうと同時に顔をしかめて叫んだキブレ。眷属を通じて悪霊(どうぞく)を喰らうようになったキブレは、舌を出して泣き真似をして見せた。
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