第18話 子孫の話
百合が妊娠したと聞いた時の隼人の思考は、やられた、の一言に尽きた。
何せ隼人は現在進行形で呪われていて、その血統も札付き折紙付き。幾ら百合と婚姻関係にあるからといって、絶対に子どもなど作るまいと決意していた。
だって、自分ではどうしようもない要因で呪われたり疎まれたり狙われたりするのはよくないことだから。日本にとって有用な
だから、隼人は百合と――率直な言い方をするなら、致したことがない。精々が、隣り合って睡眠を摂るくらい。だというのに子どもができたというならそれは、百合が何かしでかしたからに他ならない。
そもそも隼人は百合に、呪いを解くために結婚し、その対価として百合を尊重することを誓った。百合はそれに納得して、隼人の協力者として共にあることを誓った、そのはずだった。その時に、言葉を尽くして子どもを作らない、作れない理由は説明した、なのに。
「……産むんだな」
「えぇ、愛しい隼人との子どもだもの」
しかして、産むなとも言えないのが隼人である。明神は、誰にも望まれない子どもとして生まれてきた。あんな思いを、自分の子どもにまでさせたくはない。故に、隼人は思考を切り替えた。
百合と自分の子どもは、どうすれば平和に生きることができるのか。楠家はまだしも、麻宮家に知られればとんでもないことになるのが目に見えている。柊というのは架空の家であるため、歴史も後ろ楯も何もない。家に対抗するには家の力が必要だ。
対して、百合はといえば――これで、ようやく隼人への楔ができたと心底から安堵していた。勿論、ローレライの歌を聞かせて死に程近い眠りに落とした隼人と合意なきあれこれをしたことは、ほんの少しばかり悪かったと思わなくもないし、生まれてくる子どもにはたくさんの愛情を注いで育てようと考えてはいるが。
隼人に憑き纏う、希薄ながらも根強い死への思い。それが、いつ隼人を向こう側へ連れて逝ってしまうか、百合は気が気ではなかった。そこで隼人の性質を利用することを思いついたのだ。隼人は、自身に課された役割を違えない。父となったならば、その子を育てるために生きるだろう。
「……わかった」
だがしかし、百合は一つ思い違いをしていた。確かに隼人の子どもは、隼人にとって楔になるだろう。それと同時に――隼人が、その身を投げ出す理由にもなる。
隼人は、その決意を鉄面皮の下に隠し通した。まずは、自身に向けられた呪いに決着をつけねばならない。そのためには、明神の妹を、万寿を、徹底的に折り砕かねばならない。す、と視線を下ろした隼人は、百合が想定していなかった所へと思考を巡らせていた。
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