第21話 悪霊の話
悪霊とは、その名の通り悪い霊である。悪、という言葉が何を意味するかは兎も角として、悪い存在であることは確かである。
殺人はまぁまぁ悪だといえるだろう。
キブレ、と名乗る悪霊がいる。彼はぼろぼろのスーツを着ていて、ネクタイ代わりに首吊り縄を引っかけている。その首周りにはどす黒い痣――索状痕が生々しく巻きついている。人前に現れる時は、これ見よがしに首を吊った姿で現れることが多い。
彼は生前、高校教師をしていた。彼が担任となったクラスでいじめがあり、その解決に尽力したものの、最終的に彼が全て悪いということにされて、失意と絶望のまま首を吊った。その、死に至る寸前で、彼は悪霊へと変成した。
手始めに、自分に全責任を負わせて無関係を決め込んだ校長を殺した。続いて、いじめの主犯格だった少女とその取り巻き連中を殺した。いじめがあることに気付いていながら見て見ぬふりをした人間を殺した。あぁ、生きていれば誰かをいじめるかもしれない人間も殺さなければ。生きている人間が憎い、生きているから死ね、怨嗟と呪詛の対象が拡がるのは早かった。
それは、悪霊と呼ばれる存在の必然。悪霊は生きている人間を呪わずにはいられない。キブレは、だから廃校を創った。生きている人間を放り込んで、無茶苦茶な死に様を強制する場所として。異界はその創造主の性質によって千差万別であり、悪霊であるキブレが創ったそれは無惨極まりないものだった。
「……暇ァ~」
「僕は暇じゃないので帰っていただいても?」
「帰ってもろて、じゃなくてェ~?」
「僕はお前程ネットスラングに毒されていないので」
だらり、と両手を垂らして悪霊らしく。天井から吊り下がっているキブレと会話しているのは、陰気そうな男子高校生。だらり、と垂れた前髪の隙間から伺うようにキブレを見上げている彼の名を、図書室の白兎、通称ウサギという。
無論、生前の名前とは全く異なる――ウサギもまた、悪霊だった。とはいえ、現世で何かあった訳ではない。キブレが創ったこの廃校で、悪辣極まりない罠にかかって死んだことで悪霊と成ったのだ。故にウサギはキブレのことがそこそこ嫌いなのだが、キブレはそれなりにウサギのことを気に入っていた。
「だって誰も来ねェし……」
「集客力の低下は全てお前の責任では? 全滅させ続けたら来るものも来ませんよ」
「だって生きてるんだもん、死ねってなるじゃん」
「だもんじゃありませんよ可愛い子ぶるな鳥肌が立つ」
「その腕を揚げたらおいしい唐揚げになったりする?」
「馬鹿の発想」
「普通に傷ついた」
「嘘つくの止めてもらっても?」
「えぇ……傷ついたってことさえ嘘扱い……?」
口元に両手を添え、わざとらしく潤ませた目でウサギを見詰めるキブレ。ウサギは、はぁと大きな溜息を吐くと、手に持っていた本を閉じて――同時に、その姿を消した。
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