第22話 空巣の話
それは蜘蛛の巣のように。
「本当に不愉快!!」
「間借りしてる僕らが言えた義理ではないんですけど、そろそろ抜本的な対策を考えては?」
いつだって夕暮時の廃校、視界に突き刺さるのはべったりとした橙色。キブレとウサギは教室のベランダから夕日に染まったグラウンドを眺めつつ会話していた。
「抜本的な対策を、って言われてもなァ……じゃあ賢くて強いお前からは何かないのかよ?」
「賢くて強い僕は異界の制作について詳しくないので専門家の意見を待っています」
「謙遜の欠片もない!!」
廃校の形を取っているキブレが創った異界は、侵入者が多い。それが人間ならば何も問題はないし、寧ろ想定通りの運用なのだが、想定外の人間以外が入ってくるのだ。例えば、キブレのような悪霊を討伐する力を持った者だとか、キブレよりも強い力を持つ怨霊だとか。
そもそも、ウサギの主がまずもって侵入者だった。ウサギたちが女王と崇めるあの怨霊、キブレが密かにヒス女と呼んでいる黄昏の少女、通称アリス。彼女はキブレの廃校を乗っ取り、その一部を己の領地として接収した。キブレから見れば女王というより暴君である。
「いっそお前が強くなる他ないのでは?」
「悪霊は簡単にレベルアップ出来ないって知ってての答えか? 期末テスト全教科赤点にするぞ」
「おばけには試験も何もないんですよねぇ」
「腹立つ」
アリスの暴虐から這う這うの体で逃げ出せば、やれ霊能力者だの何だのが押し寄せてくる。それぐらいこの廃校が有名な噂話になったんだなァ、なんて感傷に浸る間すらない。殺せる相手は殺して、殺せそうにない相手はまぁ何とかしているものの、キブレとしては抵抗の手段を持たない人間を嬲り殺しにしたいので眉間に皺を寄せるしかなかった。
「お前の燃費が悪すぎるのも一因かと。この廃校、収支がとんとんじゃないですか?」
「
「僕はライトノベルをあまり読まないんでわからないんですけど、そんなに向こう見ずなんですか? その異世界転生者とやらは」
「もーすごいのなんのって。自分だけは死なないとしか思ってない。ヤバい。死ぬ寸前までチートがどうのとか言ってて絶望もしないから効率最悪」
「あー……悪霊にとっては死に際の断末魔とか絶望感とかが大事ですもんね、わかりますよ」
「わかっちゃうんだ」
「誰のせいだと」
青筋を立てて怒りを表すウサギに向かって、ごめーんね? なんて詫びる気が一切ない声をかけて笑うキブレ。そんなキブレに向かって本を投げようとしたウサギだったが、キブレが姿を消す方が早かった。
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