第23話 下品の話



「インターネットの力でTS即堕ちメスガキ魔法少女にしてやる」

「最悪の化身か?」



 神様が人間の信仰によって司るものや姿がかわるように、怪異も人間の伝え方によって影響を及ぼせるものや姿が変わる。故に、怪異は存外自身のイメージを大事にしている。

 さて、いつだって黄昏時の廃校。ウサギから指先を突きつけられたキブレは全身全霊で首を傾げた。大家(キブレは女王に廃校の一部を奪われたことについて納得していないため、あくまでも貸してやっているという立場を取るようになっていた)に向かって何だその……TS即堕ちメスガキ魔法少女? 本当に何?


「してやるからな」

「イヤだよ」

「してやるからな!!」

「何がお前をそこまで駆り立ててんの? 怖ァ……」

「だってお前の言動、八割メスガキじゃないですか」

「急に正気みたいな顔すんな、全然正気じゃねぇクセに」

「ざぁこ♡ ざぁこ♡ とか言いながら次のコマでは完全に事後で悪堕ちしてるタイプ」

「悪霊の悪堕ちって何? 純粋に学術的興味が出てきたから教えて?」

「だからTSして魔法少女になれっつってんですよ!!」

「わかったわかった、何かイライラすることかしんどいことがあったんだな。今保健室の先生呼んでやるから」

「呼ばなくていい」

「急に真顔になるなって、情緒ジェットコースターか?」


 キブレのいう保健室の先生とは、最近この廃校に招かれた――現世では解剖準備室と呼ばれている怪異の化身であるミヤのことを指す。人体を解剖できるからといって保健室の先生とは安直ではないかとウサギは思っていた。


「いや、マジでどした? 悩みあるなら聞くだけ聞くぜ? マジで聞くだけだけど」

「お前に相談しても何も解決しなさそうだからいいです」

「気軽に人の地雷を踏みつけていくなぁ」

「今のは誘い受けでしょう、ここまで計算しての一言では?」

「まぁそうだけど。それはそれとしてお前が教育的に悪い言葉を使ってたらオレがあのヒス女に教育的指導されるからその芽を摘んでおきたくて?」

「我等が女王のことをヒス女って呼ぶの止めろ魔法少女にするぞ」

「もしかしてそのフレーズ気に入ってる? 教育的指導の対象なんで止めていただいても? つーかお前らのジョオーサマにTS何ちゃらとかって何って聞かれたらどうするんだよ」

「誰がそんな言葉使ってたんですか? よくわからないですね……」

「清々しいくらい手のひらを返してくるなぁ」


 僕はFANZ○も○Lsiteも知りません、みたいな顔をして言う。実際、生前のウサギは知らなかった。どれもこれも、廃校にどこ由来かもわからない無線ルーターを設置したキブレのせいである。というよりも、廃校でウサギに起こる嫌なことの原因は何はともあれキブレのせいだとウサギは定義していた。


「て言うかお前らに性欲とかないはずじゃん? 幽霊で性欲あったら色情霊なんですわ」

「それずっと謎に思ってたんですけど、色情霊って悪霊の一種じゃないんですか?」

「やだァ悪霊側に何でも寄せてこないでェ。これだから幽霊初心者は困る、何年幽霊やってんだバーカ」

「人を罵倒しないと会話できないのはメスガキの証ですよ」

「怖ァ……知らない内にメスガキにされてた……?」

「されてたって言うよりはなってたって言うべきかと」

「なるかバカが!! 途方もないバカが!!」

「前から思ってたんですけど、先生って罵倒の語彙がないにも程がありません?」

「バカと死ねくらいしかない……」

「悪霊としてそれはどうなんですか……?」

「そもそも会話とかする前に殺してるから……」


 何とも言えず、締まりのない雰囲気が漂う。


「あー……これ、完全にコメディの流れじゃないですか。ちゃんとホラーしないとジャンル違いって言われますよ」

「お前この話の出だしの台詞もう一回言ってみ? ここからきちんとしたホラーに巻き返すのは無理筋だろ」

「そうですか? ご自身の姿をご覧になっても同じことを?」

「は?」


 ぱちぱちとまばたきを繰り返したキブレは、廊下の窓を透かし見る。角度によっては鏡と成り得るそれに映るのは、如何にも女児向けアニメっぽいセーラー服姿の、TS即堕ち――


「いやこのオチはダメだろうが!!」

「うわうるさっ、急に怒鳴らないでくださいよセーラーティーチャー」

「それが魔法少女名だってんなら訴訟も辞さないからな!!」

「もっと訴えるべきことがあると思うんですけどね」

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