第46話 「魔王」


「フハハハハハハハ!」



 ガルザスは高笑いする。


「これこそが貴様を倒すためだけに用意した大量の魔力! 巨大な魔法陣! それを束ねた――光の槍! これに貫かれた今貴様と言えとも無事ではないだろう。」


 オーフィアの体に、大きな穴が開いている。

 彼は、しばらく微動だにしなかった。


 ***


「オーフィア!」


 遠くにいるユリスは、槍で貫かれた彼を見て叫ぶ。


「やっぱり無茶だったのよ、一人で行かせないで私も一緒に行けば……」


 今こそ、竜になってた助けに行くべきか。

 いや、そんなことをしても彼を助けることはできない。何とか傷を治す方法を考えないと――


 その時だった。


 ガルザスの玉座の方から、光が放たれたのは。


「あれは――」


 その光の中心にいたのは――


 ***


「パパ……パパああああああああああああ!!」


 光に貫かれるオーフィアを見てリリアナが暴れだす。だがそれをレイジが押さえつける。


「ハハハ、どうです? あなたのお父様の命が絶たれていくのを見るのは! おや、本当の父親ではありませんでしたね? ハハハ」


 リリアナの目から涙があふれだす。


「よくも、よくも……あああああああ!!!」


 悲しみ、叫び、暴れだす。


「ハハハ、無駄ですよ無駄……ですがおとなしくしていててください、あなたこそ大事な「依り代」なのですから!」



 その時だった。


 彼女の体から、光があふれたのは。


「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


「これは――? ぐわあああああああああああああ」


 衝撃。レイジは吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。


 ものすごい衝撃波が、周りを包む。レンガが崩れ、吹き飛んでいく。


 その中心にいたのは――


「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 黒いドレス、赤い瞳、そして背中に生えた翼。

 その姿はまさに、魔王と呼ぶにふさわしいものだった。

 だが――

 リリアナの体は、ボロボロになっていた。

 服は破れ、翼は折れ、手足はひしゃげている。

 そして、リリスはゆっくりと目を覚ます。

 そして彼女は、ガルザスを見た。



 ***






「ごばぁ!」


 俺は、口から血を放つ。


「すごい一撃だったが……俺を殺すにはまだまだだったようだぜ、ごほっごほっ」


「はは……だが貴様も血の息ではないか!」

「この程度で死ぬかよ! 俺には、リリアナが……」

「人間を飼う竜の裏切り物め!」

「飼う? 違うね、彼女こそ俺の娘だ!」

「所詮仮初の関係だろうに……!」

「だとしても、血のつながりがなくとも、二人の関係は本物だ……ごほっ!」


 再び、血を吐く。


「ぜえぜえ……思ったより傷が深いか……?」

「はは! 限界のようだな!」

「この程度……」

「ならば自分が引導を――」


 その時だった。


 一筋の――一束の、いや巨大な光が、ガルザスを貫いたのは。


「なっ――」


 極太の、何束もの光を重ねた、巨大な巨大な光。

 その大きさは、ガルザスの大きさを優に超える。


 そしてその光は。


 ガルザスの体を。


 消し飛ばした。


「――あれは」


 そしてその光の先には。



 黒と赤のオーラをまとい、大きな翼を広げたリリアナがいた。

 俺は思わずつぶやく。


「あれは――リリアナなのか?」



 リリアナの姿は大きく変わっており、先ほどまでの面影は全くない。

 ただただ美しく輝く姿に、俺は目を奪われる。

 しかしその目は赤く染まっており、禍々しい雰囲気を醸し出している。



 そして彼女はにやりと笑うと――


 力尽きて、地面へと真っ逆さまに落ちていった。


 ***


「リリアナちゃん!」


 ユリスがとびだし、彼女を受け止める。

 彼女は先ほどまでが嘘のように、意識なく力なく倒れていた。



「リリアナ! リリアナ!」

「一体何がどうなって――」



「フハハ! ハハハ!」


 塔の上から声が聞こえる。


「これが魔王の力! これが「魔王の依り代」!」

「ぐ……レイジ……てめえの差し金か!」

「その通りですとも。正確に言えば……僕の「マスター」の命によるものですが」

「なんだと……?」

「リリアナ様にお伝えください。例の場所で、あなたの父親が待っている……とね」


 そういって、レイジは一瞬のうちに消え去った。



 ***



「ぐはっ……ちぃ、そろそろ限界か……くそっ! それでも……」


 オーフィアは、力なく這いずるように動き出す。

 力を絞り、限界を超え、その体は死へと近づいているのにもかかわらず、進み続ける。



「リリアナ、リリアナ……!」



 たわごとのように、一人の少女の名前を呼び続けながら、彼は進み続ける。

 だが、限界はとうに近かった。

 一瞬のうちに彼は竜の姿を失って、人間体になる。

 小さな体になり、進んでも進んでも少ししか動かなくなっても、彼は進み続ける。

 一人の少女のために。



「オーフィア! 無事!?」

「俺は……俺の事はどうでもいい……!」



 ユリスは、リリアナを抱いてオーフィアの前に現れる。



「リリアナちゃんも無事よ、」

「リリアナ……!」



 そして、彼女の姿を見ると。



「リリアナが無事でよかった……」



 そういって、力なく倒れ。

 意識を失った。



「ちょっと! オーフィア! オーフィア……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る