第6話 町へお出かけ


 人間体になり、街に出かけることになった。この姿だと竜だとばれないので便利だ。



「ねぇ、パパ! 見てみて!!」



 リリアナのはしゃぐ声が聞こえる。



「はいはい、何を見ればいいんだ?」

「えっとね……あ、あれ! あれがいい!!」



 リリアナが指差したのは、アクセサリーショップだ。



「ほう、綺麗だな」



 リリアナが見ているのは、宝石で作られたネックレスだ。

 とても美しいデザインだ。見ているだけで心が癒される。



「ほしいのか?」

「うんっ」



 期待に満ちた目でこちらを見る。

 ……全く、そんな目で見られちゃ断れないな。



「どれが欲しいんだ?」

「これ!」



 リリアナが選んだのは、ネックレスだ。

 小さな赤い宝石が付けられた、かわいらしいデザインだ。


「わかった、買ってやる」

「やった!」



 そういって、彼女はとても喜び飛び跳ね始めた。



「ありがと、パパ!」



 リリアナは嬉しそうだ。リリアナが喜んでいる姿を見ていると、こちらも嬉しくなる。



「……ねぇ、パパ」

「ん?どうした?」

「えへへ、なんでもない」



 リリアナは、嬉しそうに笑っている。



「なんだよ、気になるじゃないか」

「内緒ですぅ」



 リリアナはとても上機嫌だ。まったく、かわいらしいな。



「なぁ、教えてくれよ」

「だぁめ」



 意地悪な笑みを浮かべる。そして俺の手を引っ張る。



「早く行きましょ、パパ」

「あ、おい待ってくれよ」



 リリアナは駆け足で走り出した。



 ***



「はぁ、疲れた」



 少し休憩をすることにする。リリアナも賛成してくれた。

 俺はベンチに座って一息つく。リリアナは少し遠くで犬を追いかけまわしてる。子供は元気だな。


「ちょっと買いすぎたか?」



 両手には大量の荷物を持っている。

 しばらく分の食料も買って、食べるものには困らないだろう。

 さて、これで何を作ろうか。そんなことを考えていた時だった。



「お兄さん、大丈夫ですか?」



 女性の声が聞こえてきた。どうやら俺を心配しているようだ。



「ああ、大丈夫だ」

「でも、凄く重たそうですよ?」

「大丈夫だよ」


 女性は心配そうな顔で俺を見ていた。……どうしたものか。ここで素直に言えば、彼女は手伝ってくれるかもしれない。

 しかし、竜であることがバレてしまうと、面倒なことになる。……どうするべきか。まぁ、適当にあしらえばいいか。


「悪いが、手伝いは不要だ」

「でも……」

「お前の気持ちは嬉しいが、一人で出来ることだ」

「……そうですか」



 彼女は悲しそうに俯いている。うむ、なんか罪悪感があるな……。



「…………はぁ」

「……なんか事情がありそうだな?」

「はい……」

「話くらいなら聞いてやるぞ」

「本当ですか!?」



 彼女は、パッと明るい表情になった。……そんな顔をされると、断れないな。まぁ、仕方ないか。



「よし、分かった。話を聞こう」

「ありがとうございます! ……私は、ミハルと言います」

「オーフィアだ」

「実は、私、勇者なんです」



 なんと。勇者か……。俺は、目の前の女性を観察する。……まぁ、確かに正義感が強そうな感じはするが……。それにしてもまたこの世界に勇者が生まれてたのは知らなかった案。この世界に召喚されたのか? それとも現地人か? まぁ、いいか。



「それで、勇者らしく人にやさしくあろうと心掛けているんですが……」

「……上手くいかないと」

「はい。なんか怖がられたり敬われたりして……私は小さな親切にこそ意味があると思っているのに」


ふむ、この子は真面目なんだな。


「なるほどな」

「はい。あの、私は小さい頃から正義の味方に憧れていて、勇者として旅に出たときは本当にワクワクしました。……だけど、今はなんかちょっと騒がれすぎてちがうような」



 彼女は肩を落としている。彼女の気持ちは分からなくもない。俺だって子供の頃はヒーローにあこがれていたからな。

 だが、その気持ちを否定することは出来ない。憧れを持つことは素晴らしいことだと思うからだ。



「あれ、でもお兄さんは私の事知らない様子でしたよね?」

「……遠く離れた場所に住んでいてな、世情を知らなかった」



 嘘は言っていない。俺が住むのは魔族たちの国だからな。

 人間の国は遠い場所にある。……もっとも、竜の姿になればすぐだが。



「……そうなんですか」

「ああ、そうなんだ」



 俺は空を見上げる。太陽が眩しい。俺は目を細める。……何とかごまかせたようだな。よし。



「それで、人にやさしくする話だが」

「はい」

「俺は、人を助けようと思って行動することに意味があると思うぞ」

「え?」

「善行を積むことは尊いものだ。それをあきらめないことこそに意味があると思うんだ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、そういうものだ」

「へぇ」

「誰かのために行動したいという想いを忘れるなよ」

「はい、分かりました!」

「よし、じゃあそろそろ帰るか。リリアナー」

「はーい!」



 リリアナが駆け寄ってくる。



「楽しかったか?」

「うん!」



 リリアナは笑顔で言う。よかったな。



「そうかそうか」



 俺はリリアナの頭を撫でる。リリアナは嬉しそうな顔をしている。



「ふわぁ」



 リリアナは俺の手に自分の手を重ねた。



 ……勇者か。

 昔の話だ。俺は人間たちの住む世界にやって来た。魔王軍の一味だった俺は、俺は人間の国の一つを滅ぼすために、その国にやってきた。そして、勇者を名乗る男と出会った。


 勇者と名乗る男は、正義感が強く、とてもまっすぐな心を持っていた。俺は勇者と戦った。戦いは長引き、決着はつかなかった。だが、お互い全力を出し合ったことで友情のようなものを感じた気がしたんだ。だが、勇者は言った。お前とは友達になれないと。勇者は去って行った。勇者はその後も旅を続けたらしい。だが、勇者は二度と俺たちの前に現れることはなかった。

 ……俺が、神竜王と呼ばれる前の話だ――

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