第7話 少女の不安


 俺達は買い物を終えて家に帰っていた。今日は何を作ろうかな。……とりあえず肉を焼いてみるか。野菜は市場で買った新鮮なものがたくさんあるから問題ない。



「ただいま帰りました~」

「帰ったぞ」



 リリアナと目が合う。俺は微笑みかけた。すると、彼女も嬉しそうに微笑んでくれた。


「パパ~」


 リリアナが抱き着いて来る。まったく、甘えん坊だな。

 俺は頭を優しくなでた。



 ***



 俺は料理を始める。今日の晩御飯は、ステーキとサラダだ。あとはパンを用意して終わりだな。

 俺はリリアナと一緒に料理を作る。リリアナは手際よく材料を切り分けていく。うん、中々の腕前だ。



「おぉ、上手いな」

「えへへ、そう?」



 なんだか嬉しそうだ。そんな笑顔を見てるとこっちも癒されてくる。



「リリアナ」

「なに?」

「お前は将来、良いお母さんになれるな」

「ほんとう?」

「ああ、間違いない」

「えへへ」



 リリアナは照れくさそうに笑っている。



「ねぇ、パパ」

「ん?どうした?」

「ぎゅってしてもらってもいい?」

「別にいいけど……」



 リリアナは俺に抱き着いた。リリアナはとても嬉しそうだ。



「えへへ、ありがとう」

「まぁいいけどな」



 そうしてリリアナは俺に頬ずりする。そんな彼女は幸せそうだ。



「……パパ、私ね」

「ん?どうした」

「私ね、パパのこと大好きだよ」

「そうか」

「だからね、私ね、ずっと一緒に居たいの」

「おう、当たり前だ」

「ありがとう、パパ」



 そういって少しだけ俺から離れる。でも少し寂しそうだ。



「大丈夫だ、またいつでも会えるさ」

「うんっ!」



 リリアナは嬉しそうだ。



「さて、料理の続きを作るぞ」

「うんっ!」



 ***



「パパ、おいしい?」

「ああ、美味いよ」

「やった!」

「リリアナの作った料理が美味くて、俺は嬉しいよ」

「えへへ」



 リリアナは俺の腕に抱き着く。まったく可愛い奴め。



「……パパ」

「ん?」

「あのね、その……」



 恥ずかしそうにモジモジしている。一体どうしたのだろうか?



「パパ、ぎゅーってして」

「あぁ、いいぞ」



 俺はリリアナを抱きしめる。リリアナは満足げに笑う。……どうやら何かあったようだな。俺はリリアナの背中をポンポンと叩く。リリアナは俺に顔を埋める。



「……あのね、昨日怖い夢を見たの」

「どんな?」

「……お父さんとお母さんの夢」

「……」



 俺はリリアナの頭を強くなでた。



「大丈夫だ、心配するな」

「……うん」

「……パパが居るからな」

「うん」



 リリアナは俺にしがみつく。……少し強く抱きしめすぎたかもしれないな。少し力を弱めた。



「……ぐす」



 ……泣いているようだ。仕方ないか。まだ子供だもんな。



「大丈夫だ、安心しろ」



 そんなに両親の事が嫌なのか? 虐待でもされていたのか――

 この子の昔の話を俺は知らない。……知るつもりもないが。



「……ありがとう、パパ」

「……大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫だよ」

「そうか」



 俺はリリアナの頭をなでた。



「そういえば、パパってどこから来たの?」

「……遠くからだ」

「そうなんだ……」

「あぁ、遠い所だ」

「……そっか」



 リリアナはどこか悲しそうだ。



「……パパはどうしてここに来たの?」

「……」



 ……話すべきか、話さない方がいいか。まぁ、いいか。

 俺は、何も言わなかった。


「……色々とあってな」

「そうなんだ……」

「まぁ、気にしないでくれ」

「……分かった」



 ……仕方ないか。



「……なぁ、リリアナ」

「なに?」

「お前は優しい子だな」

「……そんなことないよ」

「いや、そんなことあるよ」



 ……俺には分かる。こいつは心の底から優しい女の子だ。

 俺は、そんな女の子をずっと見てきたからな……。



「俺は、そんなリリアナが好きだ」

「……私も、パパが好き!」



 ……そんなリリアナを守りたいと思っている。だから、俺は決めたんだ。

 俺はリリアナの目をまっすぐに見つめる。



「リリアナ」

「なに?」

「俺はお前を守るよ」

「うん!よろしくお願いします!」



 リリアナは元気よく返事をした。


 ***

 俺は、リリアナの言葉を思い出す。パパは、どこから来たの? という言葉を。

 ……俺は、どこから来たのか。異世界だ。

 先日、俺は勇者と出会ったーー

 俺は、この世界とは別の世界で生きていた。だが、ある日突然この世界に飛ばされた。俺が飛ばされたのは偶然ではない。俺をこの世界に召喚したのは……魔王軍だ。

 とある竜をよみがえらせるため、異世界から魂を引っ張ってきたのだ。それが俺だ。

 俺を呼び出したのは、魔王軍の四天王の一人だ。そいつは俺のことを「神竜王」と呼んだ。そして俺を配下に加えようとした。だが、俺は断った。俺は自由が欲しかったんだ。だが、魔王軍は俺に無理やり契約をさせた。その結果、俺は魔王軍の一味になった。

 魔王軍の一味になって俺は後悔した。あいつらは人間の敵だった。魔王軍の一味になってからというもの、俺は人間をたくさん殺した。罪のない人間たちを大勢殺してしまった。

 だから――魔王が勇者に殺されたとき、俺は安心した。これで俺の戦いは終わった――

 昔の、話だ。


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