第16話 人探し


「……はぁ?」



 思わず間の抜けた声を出してしまう。だが、ミハルは真剣に助けを求めているようだ。



「うーん……」



 俺は腕を組んで考える。

 先日出会ったばかりでこんな手紙を送ってくるとは、それだけ俺が信用されたという事なのだろうか。

 特に助けに行く義理はないが、見捨てるのもなあ……

 と、ふと追加で何か書かれていることに気づく。



『追伸 探してあげた借りを返しなさい。今すぐ。ユリスより』

「っはあ……」


 俺はため息をつく。

 ユリスの頼みとあれば仕方あるまい。俺は覚悟を決めて返事を書くことにした。



『了解。すぐにそっちへ行く』



 そう手紙に書き、配達の人に渡す。



「毎度ー」



 こんなところまで来るとは、仕事熱心だなあ。



「ま、いっか」



 そう呟くと、俺は荷物をまとめて旅支度にとりかかった。



「パパ、どうしたんですか?」

「ミハルに呼ばれてなあ……リリアナはお留守番してろよ」

「えっ! 嫌です! 私も行きます!」

「駄目だって」

「私、もう子供じゃないもん!」

「それでも、お前はまだ子供だよ」

「む~!!」



 リリアナが頬を大きく膨らませて抗議する。俺はそれを微笑ましく見つめる。



「ったく、しゃあねえなあ……まあ、ここに一人で置いとくのも危険だし、まあいいか。連れてくか」

「やったー!」



 飛び跳ねて喜ぶ。本当に可愛い奴だ。



「ただし、ちゃんと言うことは聞くんだぞ?」

「はーい!」



 ……本当かな?

 ……不安だ。



 ***



 と、いうわけで俺はミハルがいるという町まで向かうことにする。



「ユリスから聞いた話ではこの辺のはずなんだがな」



 辺りを見回すが、それらしき建物は見当たらない。……おかしいな?

 確かここのはずだが……。その時、リリアナがこちらを振り向いた。



「あの、パパ」

「ん? どうかしたのか?」

「えっと、道がわからないなら私が案内しますけど」

「おお、そりゃ助かる……が知ってるのか?」

「はい! 前にこの町にきたことがあるので!」



 そりゃあびっくりだな。……俺が拾う前の話か。そういえば全然知らないな。



「へえ、そうなのかい」

「はい! ですから任せてくださいね!」

「おう、よろしく頼むぜ」



 俺はリリアナに笑顔を向ける。リリアナも嬉しそうに笑い返してきた。



「それで、ここは一体どこに……」

「えーっとですね……とりあえず、この道をまっすぐ行ってください」

「わかった」



 俺はリリアナの指示に従って歩き出す。……さて、この先にミハルが待っているはずだが。



「ん、あれは」



 前方に小さな人影が見える。おそらくはミハルだろう。



「ミハル」



 近づいて声をかける。するとミハルは驚いたように振り向いた。



「あっ、オーフィアさん!」



 ミハルは嬉しそうに笑う。



「よう、久しぶりだな。元気にしてたか?」

「はい、もちろんです。来てくださったんですね!ありがとうございます!」

「はは、気にすんなって」

「でも、どうして急に?」

「ああ、ちょっと頼まれごとがあってな。ところでリリスはいるか?」

「リリスさんですか?」


 ミハルはきょとんとした表情を浮かべた。そして不思議そうに首を傾げた。


「いえ、私が来た時には誰もいませんでしたが」

「なに?」



 どういうことだ? ユリスがいない? 俺は困惑する。あいつに呼ばれてきたのに。だが、すぐに冷静になる。



(ま、そういうこともあるか)



 考えてみれば、ユリスにはユリスの考えがあるのだろう。それに、ユリスがミハルと一緒にいないということは、あいつは別の所で何とかしてるという事だろう。

 ……さては手紙を検閲して後で付け足したな。人のものを勝手に……ったく、あいつは。



「それで、用事ってのは何なんだ?」

「はい、実は……」



 ミハルは真剣な顔つきになる。どうやらかなり深刻な問題を抱えているようだ。



「実は、最近この周辺で行方不明事件が多発しているんです」

「行方不明者ねぇ……」



 確かにそれは一大事だ。しかし、それとミハルとどんな関係があるというのだ?



「その被害者の中に私の友達もいるんです」

「なるほど、その友達を助けたいと」

「はい!」



 力強く答えるミハル。その瞳からは強い意志を感じる。

 なるほどねえ……しかしこういう人探しはユリスの得意分野だってのに、どうして俺に。

 ……いや、別にいいんだけどよ。

 ま、そんなこと言ってる場合じゃないか。今は目の前の問題に対処しないと。

 俺はミハルの話を聞くことにした。

 ミハルによると、行方不明になった人間は大体二十代前後の女性ばかりだという。それも全員かなりの美人だそうだ。

 しかも、ミハルの知り合いはミハルと同じ年の少女なのだとか。

 ミハルは必死になって少女の行方を探しているらしい。



「それで、俺を呼んだわけは?」

「実は……裏で魔王軍がからんでるとか」

「何?」



 それは一大事だ。

 もし事実だとしたら、放っておくことは出来ない。……魔王軍には恨みもあるしな。ちくしょう。昔俺をこき使いやがって。俺はミハルに詳しい事情を尋ねることにした。



「詳しく聞かせてくれないか」

「は、はい」



 ミハルは緊張した面持ちで語り始めた。

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