第40話 ガルザスの手紙


 ある日、手紙が来た。



「ガルザスからか……珍しいな」

「誰ですか?」

「竜の会議の取りまとめをしてる奴だよ……ほら序盤の序盤に出てきた奴」



 端役にしては序盤に出たがその後覚えている方は果たしていらっしゃるだろうか。



「何の話ですか?」

「竜の会議も近いからなあ。今度は真面目に聞けっていう念押しだろう。面倒だが……読まないわけにもいかないな」



 ガルザスには昔お世話になったし、いろいろしてやった。同じ魔王軍の手下として、様々な戦場で一緒になった。

 やる気が出ずぐちぐち言っている俺を諫めていたのがあいつだった気がする。だが、時には同じように愚痴を吐き合い、時には強大な人間に立ち向かうため、時には内部抗争でとある四天王が気に食わないからと追い落とす助けをしてやったり。

 魔王が死んだあとは竜の取りまとめをやるのに奔走してたから、それを手伝ってやった。あの時は反発があったとはいえ魔物たちを支配していた奴がいなくなって秩序が失われかけたときがあったのだ。

 それを見かねて竜達をまとめたのがあいつ、ガルザスなのだ。なぜそんなことをしたがったのかはわからないがあいつがやりたい、やらなければならないというからそれを手伝ってやったのだ。

 やれ、あいつは何を考えているのかさっぱりわからんところがあるんだよな……。

 まあ昔からよく分からん奴ではあったが。とにかく今は読むしかないな。どれどれ?




 ===

 オーフィア殿


 近頃めっきり寒くなったがいかがお過ごしだろうか?

 また次の竜の会議が開かれるときになった。

 ついては、貴殿に賛成してほしい議題がある。

 貴殿のような高名かつ偉大な竜に賛成してもらえばさぞかし皆賛成してくれることだろう。

 ===



「いやあ高名かつ偉大だなんてそんな」

「……褒められて嬉しいんですか?」

「いや別に」



 竜達に褒められたからと言って何があるわけではないが、悪い気はしないものだ。



 ===

 詳しいことについて個人的に出会って話がしたい。

 久方ぶりに親交を深めるためにも、わが領地に来てはくれないだろうか。

 議題に賛成して来れば礼もしよう。領地を増やしてやるくらいの便宜は図れる。

 ぜひ、来てくれないだろうか。親愛なる我が友に良い返事をくれることを期待している。


 ガルザス

 ===



「領地はいらねえが……まあ親交を深めることくらいはしてやるか」



 名高い竜は自らの領地をもち、竜達を束ねている。まあ領地と言ってもなわばりのようなもので、自分が食べるものだけの獲物を確保しつつ他の竜との争いがないような生存権の確認のようなものである。

 俺は無理を言って小さな領地にしてもらったし、別に束ねる竜もない。面倒だからな。隠居生活のようなものである。

 リリスは……知らん。領地なぞ関係なく人間の国で好き勝手しているようだが。

 まあ、領地を増やしてやるっていうのは大変なことだ。それを提案してくるって事は最大限の礼はしてやる、くらいの意味でとらえればいいだろう。

 ここ最近はあいつに会っていないし、あちらからも誘うこともなかった。まあ隠居している身だし、今までは積極的にどうにかしようという事もなかったのだろう。それに、竜にとっては10年に一度話せば仲がいいといわれるくらいである。……リリスはまあ、腐れ縁という奴だ。

 そんな竜の中では数少ない友人だ。せっかく誘ってくれたのならばこれに答えることにしよう。



「面倒だが……奴の誘いに乗ってやるとするか」

「パパ、一人で出かけるんですか?」



 そういうリリアナはふくれっ面をしている。

 一人は寂しいのだろう。そうだな、リリスも会議に出なければならん身だろうが。ミハルでも誘って一緒に留守番してもらって……



「ん? 続きがあるな。どれどれ……」



 ====

 追伸

 人間の子と一緒に暮らしていると聞いた。君にしては珍しい事だ。

 是非、来るときがあれば一緒に来るといい。歓迎しよう。

 わが領地のすばらしさを見せてあげよう。

 ===



「ほら、リリアナも呼ばれてるぞ、いくか?」

「行きますっ!」



 そういう彼女の眼は、キラキラしていた。

 リリアナを一人で留守番させるのもかわいそうだから、気を使ってくれたのだろうか。

 あいつが、こういうところまで気が利く奴だとは思わなかったが……



「パパ! 竜の国ってどんなところなんでしょう!」

「うーん人間の町と比べると殺風景なところだがなあ……まあ、何でも竜に合わせてでかい城があったりとかするぞ」

「それはすごいです……!」



 やれやれ、ここまで期待されたんじゃあ連れてかないわけにはいかないな。

 まあ、せっかく誘われたのだから一緒に行かせてやるとしよう。一人は寂しいからな。



「パパと一緒にお出かけ……! 楽しみです!」



 そんな彼女の笑顔を見て、俺は嬉しく思うのだった。

 ……それにしても、この手紙には「賛成してほしい議題」についての中身が一切かかれていない。

 やれ、面倒なことではないといいのだが。最悪断ればいいし、棄権すれば角も立たないだろう。

 竜の世界がどうなろうと俺には知ったことではないしな。

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