第41話 竜の国


「リリアナ―そろそろ行くぞー」



 ガルザスの誘いに乗り、ついに彼の入れに行く当日が来た。



「ちょっと待ってください―!」



 なのだが、リリアナの初めての遠出とあって無駄にワクワクしているのか、なかなか準備ができていないようだ。



「早くしろよー」

「もうすぐ終わりますからっ!」

「何をそんなに詰め込んでるんだか……大体の物はあっちで用意してくれるぞ」

「仕方ないじゃないですかぁ、こんなにたくさん持っていきたいものがあって迷っちゃいます」



 そう言ってリリアナが見せてきたものは、服だった。それもただの服ではなく、おしゃれなものばかりである。

 なるほど、知らない人に出会うからにはおしゃれしていきたいというのもしょうがないだろう。

 どれもこれも可愛らしいデザインであり、リリアナに似合うこと間違いなしである。

 しかし、こんなにいっぱいあると荷物が多くなりすぎる。



「とりあえず、最低限必要な物だけにしとけ。余計なもんは置いていけ」

「えぇ~!? このスカート可愛いですよね!?」

「多分ドレスとかもあっちで用意してくれるんじゃねえかな……まあ最低限にしな最低限に」

「そんなこと言っても……あっ、じゃあこれなら大丈夫ですよね?」

「どれどれ?」



 彼女が持ってきたのはシンプルなデザインの白いワンピースであった。



「これなら大丈夫ですよね? 私に似合いますよね」

「ああ、それなら結構似合ってるんじゃないかな」

「やったー♪」



 彼女は喜んでその服を持っていく。



「よし、これで大丈夫ですね」

「おう、忘れ物はないか?」

「ありませんよー」



 そう言って彼女は、ようやく荷物を纏め終わったようだった。



「じゃあ、出発しましょう」

「おうよ」




 俺は竜の姿に変身し、ばさりと翼を広げる。

 そして、リリアナは恐る恐る背中に乗る。



「乗り心地はどうだ?大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「そうか、しっかり掴まっておけよ」



 そう言うと、俺はゆっくりと飛び上がる。

 ふわりと体が浮き上がり、そのまま空高く飛んでいく。



「わぁ! 凄いです!」

「はしゃぐのもいいが、落ちないようにしてくれよ」

「分かってますよ」



 リリアナは目を輝かせながら、辺りを見渡している。

 初めて空を飛ぶのだから気持ちはわかるが。

 そこは、雲の上だ。青空が広がり、下では鳥たちが空を飛んでいる。



「すごーい……」



 その景色に、リリアナは感嘆の声を漏らしていた。



 こうして俺たちは、ガルザスの領地へと旅立った。




 ***


 空を飛べば、目的の地まではそう時間がかからない。



「そろそろつくぞ」

「えっもうですか?」

「ほら、あっちのほうだ。よく見ておけよ……・」

「わぁ……」



 リリアナは目の前に広がる光景に、思わず声を漏らした。

 それは、まさに竜の住む国にふさわしい景色。

 青々と生い茂る森に、綺麗な川。

 透き通るような青空に、どこまでも広がる大地。

 そこにいる竜達は皆、優雅な姿形をしている。



「……綺麗」

「だな」

「あ、あれが竜ですか……?」

「竜は皆あんな感じだぞ」

「凄い……みんな、私よりずっと大きい……」

「パパだって竜だろうに。俺の姿もたまに見てるだろ」

「確かにそうなんですけど……パパ以外のこうやって竜の姿を間近で見るのは初めてなので」

「まあ、そりゃそうだな」

「それに、私達人間とは全然違う種族ですから……やっぱりびっくりします」



 竜と人間。二つの種族は昔から相容れない存在同士として争ってきた歴史がある。

 舞おうとの争いが終わった後、竜と人間は一線を引いて別の場所で生きて生きた。

 だから、人間が竜の姿を見て驚くのは無理もないことだ。見慣れない、という意味でもある。

 俺も普段は竜の姿にならないしな。体が大きくて生活に向くものではない。

 しかし、それにしてもリリアナがこんなに竜慣れしてないとは驚いた。もっと普段から竜の姿を見せておくべきかね。


「オーフィア殿だな。ガルザス様がお呼びだ。来るといい」

「案内よろしく頼むぜ」

「うむ」



 俺は案内に従って、竜の国を進んでいく。

 その間も、リリアナはきょろきょろ辺りを見回していた。

 しばらくすると、大きな城が見えてきた。

 その城の姿は、まさしく竜に合うように作られたがために巨大で、その竜のまとめ役たるが住むに相応しいといったような立派なものであった。

 城の前には門番の竜が立っており、その竜はこちらに気づくと近づいてきた。

 どうやら、この竜が案内してくれるようだ。


「お前さんが、オーフィアの釣れている人間だな?」

「はい! リリアナです! 今日はパパと一緒に来ました! よろしくお願いします!」

「ははは、元気のいい子じゃないか。さあ、中に入ろう」

「はいっ!」


 俺は門番についていき、中へと進んでいく。

 リリアナは俺に乗ったままである。

 竜の姿に合わせて作られたため、人間には大きすぎるのである。そのため、竜にくっついていた方がいいというものだ。


「パパ、ここがお城の中なんですね……!」

「ああ、そうだぞ」


 リリアナが興味深そうに周りを見る。


「ほら、あんまりキョロキョロしてると落ちてしまうぞ」

「はい!」


 リリアナが返事をして、俺は前に進む。


「ほら、こっちだ」

「はーい!」



 俺とリリアナはそのまま一番奥の大広間に案内された。

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