第42話 ガルザスの「提案」
「リリアナ様はこちらへ。まずはオーフィア様と二人で話したいそうです」
大広間に着くとすぐに竜のメイドにそう言われた。
「まずは難しい話を片付けようって魂胆だな。リリアナ、そこで待ってろ」
「リリアナ様はこちらの部屋に」
「分かりました! ありがとうございます」
リリアナはすぐに理解し、部屋を出て行った。
(さて……)
一体何の話だろうか。
わざわざ二人きりで話すなんてなあ……。どうやら人に聞かれたくない話題のようだ。面倒なことでなければいいのだが。
***
数分後、竜に合わせて造られた巨大な部屋の扉が開いた。
「待たせたな」
「お待ちしておりましたよ」
そこにはガルザスがいた。
「久方ぶりだな。オーフィア。息災であったか?」
「おかげさまでな。まさかおまえが今になって俺を呼び出すとは思ってなかった」
「まずは座ってくれよ。普段は人間体なんだろう? 気楽にするといい」
「お言葉におまえてそうするよ。やっぱり竜の姿っていうのは堅苦しい。いくら城がでかいとはいえ、俺の巨体では窮屈になってしまうからな」
そういって人間体に戻る。
ガルザスの眉間に少ししわが寄った気がした。
「?」
「……あの日々から随分と長い時間がたってしまったな」
「今更昔話か?俺たちが会ったのはもう何年も前のことだろうに」
「そうだったか?俺は今でも昨日の事のように覚えているが」
「そうか?まあ、そういうことにしておいてやる」
「覚えているか? 俺たちが魔王軍にいたときの頃を」
「懐かしいな。まだ魔王の奴が生きていた頃だ」
「あの時は大変だった。各地へ赴き、終わりのない戦争を続けていたものだ」
とても悲惨で、無為な戦争だった。
魔物も死に、人間も死に、殺し殺される醜悪なものであった。
そして何よりも不愉快だったのが、己の意志に関わらず無理やり従わされ殺しをやらされたことであった。
「あいつが死んだ時は、流石に驚いたな」
「そうだな。まさか殺されるとは思わなかった」
「それも、ただの人間の男なんかにな」
「人間は強いぞ。たとえ俺たち一人一人がいくら強くても、あいつらには数がある。知恵がある。強さがある。……それに魔王は負けたんだ」
俺としては。
むしろ魔王が死んでせいせいしたものだが。
「……まあ、確かにな。俺も人間がここまでの力をつけるとは思ってもいなかった」
人間は弱い。だからこそ群れるのだ。
そして、その弱さを補えるだけの数の暴力を持っている。
まあ、元人間のひいきめという奴かもしれんが。
「今でもそれは変わらない。むしろその勢力は増している。竜の領地を削るほどにな」
「ほう? それはお前の頭を悩ませそうなことだな」
人間の町でもたまにどこそこの誰かが竜を打ち取っただので騒いでいるのを聞いたことがある。
それを他人事のように聞いていたが、確かにガルザスにとってはあまり愉快なことではないだろう。
「他人事ではないぞ。もしお前が打ち取られたらどうする」
「うん? 俺を倒すようなやつ? そんな奴現れるわけないが――」
あの勇者ですら俺を倒すことはかなわなかった。だが、ミハルちゃんがもっと成長するとか、もっと他の誰かが、例えばリリアナとかが――
俺を殺すほどにまで成長したのなら。
死ぬことが出来たなら。
それはそれで、いい事だと思う。
俺はもう、長く生きたし。
いや――リリアナが立派に成長するまでは、まだ死ねないな。
「まあ、困るな」
「随分とあっけらかんというな」
「まあだがまだ無理だろうな。俺はあの勇者ですら倒してしまったのだし」
「……倒した、か」
? なんだか今日のガルザスは含みのある言い方が多いな。
「まあ、お前ほどの物ならそう簡単に倒される心配もなかろうよ」
「お前も、そう簡単にやられるんじゃねえぞ」
「まだやられるほど衰えちゃいないさ」
そういって、二人は笑い合った。
かつて魔王軍にいた、その時のように。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
「んで、わざわざ俺を呼んだ意味って何だよ」
「単刀直入に言おう」
彼は、端的にこういった。
「魔王を復活させようと思ってる」
***
リリアナが案内された部屋は、とても豪華絢爛なものだった。
それだけでなくとても広く天井が高く、そしておいてある家具はどれも竜の大きさに合わせて巨大だ。
「うわあ……」
そして、部屋の中心には何着もの人間用の服が用意されていた。
「この日のためにガルザス様が用意なされたものです。どうぞお召しになってください」
「ええ!? こんなにたくさんですか!?」
用意されたのは、ドレスからタキシードまで様々な種類の衣服だ。
「ええ、そのように聞いております。お好きなものをお選び下さい」
「うわぁ……すごいです! こんなにたくさんの服が!」
リリアナは目を輝かせながら、その大量の衣装を眺めている。
「どれにしようかな~」
あれもこれもと選びながら気に入ったのを見つけては自分の体に当てていく。
そうやって選んでいる最中だった。コンコン、とノックが聞こえたのは。
「リリアナ様、入ってよろしいでしょうか」
「? どうぞ」
入ってきたのは、黒いスーツを着た、一人の男だった――
「――? あなたは?」
「どうも、僕はレイジといいます。ガルザス様の客人の一人ですがここにリリアナ様が来られたと聞きましてね。ああ警戒しないでください。僕はオーフィア様の知り合いでもあるのですよ」
「あっパパの知り合いなんですか!」
リリアナは警戒心を緩め、彼を部屋に招いた。
「フフフ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます