第43話 復活の計画
「フフフ……素直でかわいい子ですね」
「いえそんな……」
褒められてリリアナは少し顔が赤くなる。
「それで、何をしに来たんですか?」
「そうですね……僕、あなたの事を前々から知っていまして。……あなたが、オーフィア様と出会う前から」
「? そうなんですか? でも私はあなたの事を知りませんが――」
「それも当然のことです。僕は――あなたのお父様と知り合いなのですから」
「――!」
リリアナは、突然出て来たその言葉に驚く。
自らの父親、というもはや遠い昔だった、もう出会えないと思っていた言葉に。
「リリアナさん」
彼は言う。
彼は言う。
「あなたのお父様にあってみたいと思いませんか?」
***
俺は、ガルザスの言った言葉に耳を疑った。
魔王を、復活させるだって?
何を言ってるんだコイツは。
あの世界に災厄をもたらした怪物を。こいつは――
「お前……なんて言った?」
「魔王を復活させるべきだといった」
すぐさま机をバンと叩き、立ち上がる。
「ガルザスお前っ……! 何を言ってるのかわかってるのか!?」
「ああ、わかっている。我々竜の世界にとっては、これが最善だ」
「なぜそんなことを――!」
「単純なことだ。今竜の世界は人に脅かされている。竜だけではない……ゴブリン、オーク、様々な魔物の住処が人間に追われている……かつて魔王が生きた時代から、少しずつ、少しずつな」
ガルザスはそういって目をこわばらせる。
まるで、何かを憎むかのように。
「我らは新たな秩序のために、団結しなければならない。そう、強力な魔王という力を手に入れることによってな」
「お前はまた人間と戦争を起こすつもりなのか……! また沢山死ぬぞ! 人間も魔物も!」
あの戦いにより世界は荒廃した。たくさんの食べ物、鉄、文化、生物の命、全てが無為に破壊された。
それをもう一度起こすだなんて、正気の沙汰ではない。
ガルザスは表情を変えず、何も言わない。
「死ぬだけじゃない、戦争をすれば民も、土地も弱っていく。作物は切り倒され、皆貧しい生活を送らなければならない。お前がやろうとしているのは守るはずの魔物の世界を傷つけるだけだ!」
「やはりお前はな」
ようやく口を開く。
「政治をわかっている。経済をわかっている。なのに竜の前に立とうとしない、関わろうとしない。それは竜の世界にとって大きな損失だと思うのだよ」
「何の話だ……!」
「お前ほどの奴が上に立つならば竜達も従うのだろうがな……今の自分には、もうそれほどの力がない」
「……お前」
「もう全盛期から大分過ぎた。今ではあの時ほどの力は持っておるまいよ。これは竜としての限界だ。お前はいつまでも若々しいままだ……もう、人々をまとめられるほどの力はない」
ガルザスと俺は友人のように仲良くしていたが、年はあちらの方が大分上だ。
もう自分に寿命が近いとわかっていて……
そうして翼をばさりと広げる。
「だから力が必要なのだ。竜達を、魔物たちを従えられる新たな力がな」
「魔王を召喚したからってお前に従うわけではないぞ……憎しみを力に人間を滅ぼすべく暴れるだけだ……そんなものは秩序でもなんでもない」
「それで構わない。人に対抗するだけの力がそこにある」
「力があれば何でもできると思うなよ……! しかも順番が違うだろうが、人間を危険視するなら己らだけで勝手に戦争でも起こしてろよ、なんで関係ない魔物全体を代弁してた戦う必要がある……!」
「竜をまとめる力は自分にはない。魔王ならそれができる。仮にまとめられたとしても竜だけでは人間を倒せない。魔王なら魔物全体を味方にできる。そして人間を倒せる力がある」
「魔王が魔物にできるのは仲間じゃない、服従だ、強制だ。誰もかれもが魔王に従いたいわけじゃねえ……」
「だが気づくだろう。魔物たちはそれが最善の選択だと」
「最善を一人の考えで勝手に決めるんじゃねえ」
「……わかってくれないようだな」
「当たり前だ。無理やり否応なく魔王に従わさせられていた俺が賛成するわけがないだろう……最もお前はそうではなかったようだがな」
「あの時は反発したこともあった。だが長い時を経てそれが間違いだと気づいたのだ」
「喉元過ぎれば熱さを忘れるってやつだな……」
「何の話だ?」
「こっちの話だ」
俺は踵を返す。
「そんなくだらない事を提案するなら俺は反対だ。それ以上に話すことはない。帰らせてもらおう」
「……果たしてどうかな?」
俺は扉に手を駆ける。
「うおっ!」
その時、扉にかけられた魔法により手がはじかれる。
「無駄だ。ここから出れないようにバリアを貼った」
「何のつもりだ……!」
「お前が反対するのはわかっていた。その勢力の中で最も強いのがお前だとな。だから、この議案を通すのに一番邪魔だ。だから会議には欠席してもらおう」
「俺を幽閉するつもりか……? だがこの程度!」
「あの子がどうなっても構わないのか?」
「あの子? まさか……!」
俺はガルザスに詰め寄る。
「てめえリリアナに何をした!」
「ハハハ、わざわざ自分の弱点を連れてくるとはな」
「てめえ最初っから……!」
「彼女に手を出してほしくないのならば、従うのだな」
俺は、ガルザスをにらみつけることしかできなかった。
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