第44話 魔王の依り代
ドレスを着たリリアナの目の前には、色とりどりの豪華で高級な夕食が並べられていた。
その前で、リリアナは居心地が悪そうにもじもじしている。
「あの……」
「なんでしょうか、リリアナ様」
「パパは……いつ帰ってくるんですか?」
「本日オーフィア様はガルザス様と会食をなさるようです」
「でも……」
「我々はそうとしかお聞きしておりません」
「……」
リリアナは、ようやく何かがおかしい事に気づいて来た。
この部屋に閉じ込められ、そとにでたいといっても出させてもらえず、ただオーフィアを待つばかり。
それもかれもいつまでたっても帰ってこない。
「うう……パパ……」
ご飯に手を付けず、ぽろぽろと涙を流し始める。
それに、反応するものは誰一人いなかった。
***
「やれやれ、ずいぶんな歓迎だな……」
俺が案内されたのは、灰色の壁で彩られた牢獄であった。
「竜化できないように魔法がかけられている。入れ」
「あいよっと」
灰色の床に雑魚寝し、考え事をする。
……魔王を復活させる、なんてずいぶんなことを考えるものだ。
しかしあまりにも考えが突飛すぎる。誰かに吹き込まれたのではなかろうか。
何やらそういう動きはあったみたいだが、それがまさか自分の身に危険が及ぶような事態になるとは。
やれやれ、俺もやきが回ったかな。
ガルザスがあそこまで参ってるとは思わなかった。魔王を復活させて、魔物をまとめ上げ人間に対抗するというが、そこまで人間が怖いのか。
俺としては人間の生息範囲が次第に広がっていくのは自然なことと思っていたし、それに対してどうこう思うことはなかった。
いや、俺は竜と離れて一人孤独に隠居していたつもりだったが、少し人間よりになりすぎていたのかもしれない。
……そういう意味では、俺が人間を家族として迎え入れたのは、ガルザスからすれば不愉快なことだったのかもしれない。
人間と共存していくなどというのは、ガルザスからしてみれば裏切りに等しい行為だっただろう。
魔王復活に関してはあまり賛同はできないが、その考え事態には否定はしないつもりだ。
ただやり方が間違っているだけだと俺は考えている。もっと共存とかを先に――いや、これも人間よりというべきか。
……しかし、リリアナは大丈夫だろうか?
あいつのことだ、すぐに危害を加えるようなことはしないだろうが、何かことに感づいて暴れられても困る。
じっとしてくれるといいのだが……あの子まだ子供だしな……心配だな。
さぞかし、俺に会いたがっていることだろう。なるべく早く会ってあげなければ……
「とはいうものの、俺に出来ることは何もないしな」
俺は目をつぶり、その時を待つ。
逆転の一手が訪れる、その時まで。
***
「さてと、うまくいったようだね」
ガルザスの玉座に、一人の男が現れる。
「……レイジか。何ようだ」
「喜ばしいことではありませんか。一番の障害を牢に押し込め、
「魔王の依り代が奴の手に渡っていた……これも貴様の差し金か?」
「まさか。僕としては予想外の事ばかりでしたよ。いかにして彼から彼女を引き離すかばかり考えていましたが、どれもうまくいきませんでしたし。彼にもにべにも断られてしまいましたがね」
「ほう、それで自分を利用しようとしたわけか?」
「利用だなんて、協力関係と言ってほしいな。あなたにも利のあることなはずだ」
「ああ、すべてが懐かしい……強者と戦った、心躍る日々。統制の取れた軍。若さゆえに、いろいろ思う事もあったが、今では間違いであったとわかる。我々は強さを前に頭を垂れるだけでいい。そのはずだった。今では身の程知らずが、頭の固い老人どもが、くだらない意地のために争いくだらない知恵を使う竜のみ。くだらん、くだらんよ」
「竜を統べるのがあなたの目的だったのでは?」
「其れは手段にすぎんよ。目的は、竜たちに秩序が必要だと考えただけだ。上は誰でもよかった。……オーフィアにもやる気がなかったしな。自分しか上に立つものがいなかった」
ばん、と手を地面にたたきつける。
すこし、ぐらりと地面が揺れる。
「しかし、貴様らはどうして魔王を復活させようと心得る?」
「簡単なことですよ。今の平和な世の中に飽きた。かつての混沌の時代に戻そうとしているだけですよ。その方が面白い」
「混沌か。混沌のなかにも秩序はある。むしろ、強さが支配するのは大きな秩序があるというものだ」
「ふふ、考え方次第ですよ」
「ふん、まあいい。それで、復活のてはずはどうなっている」
「人間から魔力を集めるだけではいつまでたっても集まりませんのでね、ちょうどいい魔力の塊がある、あれを利用させていただくという事でよろしいですか?」
「……まあいい。すきにしろ。あいつも年貢の納め時だ。いつまでも隠居せず世界のために役に立つがいい」
「ふふふ、それではあとは待ちましょうか。魔王の復活手、ブックマスターが来るまで……」
そういって、男は消えた。
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