第45話 竜と竜の戦い

「なあ、本当に大丈夫か?」

 

 牢のすぐそば、見張りがひそひそと会話をしている。


「人間の姿とは言え、あの神竜王オーフィアだ。暴れられたら……」

「牢には魔法がかかっているし、今のところ暴れる様子もない、大丈夫だろう」

「そうは言うがなぁ……相手はあのオーフィアだぞ?」

「まあまあ、そうビクビクするなよ」

「そうは言ってもなぁ……」

「ほら見ろよ、あんなにぐっすり眠っているじゃないか」

「ああ、そうだな」

「それに暴れる様子がないということは、それだけ疲れているってことだ。今のうちに休ませておくべきだと思うぞ」

「……それもそうかもな。よし、お前は一度戻っていいぞ」

「え、いいのか?」

「俺はもう少しここに残る。あとで交代してくれればいい」

「わかったよ。じゃあお言葉に甘えて」

 見張りの一人が去って行く。

 その時、ふわりと風が吹いた。

 次の瞬間、一人の兵士が首から血を吹き出して倒れる。

 もう一人の兵士が声を上げる間もなく、もう一人も倒れこむ。

 彼女は二人の背後に立ち、爪についた返り血を振り払う。

 そしてそのまま、牢にかけられていた魔法を解除した。


「いつまで眠ってるの? 助けに来たわよ」

「ふわぁ……遅かったな、ユリス」


 牢の前に現れたのは、ユリスだった。


「遅かったのじゃないわよ。間抜けにつかまっちゃって……もうちょっとどうにかならなかったの?」

「こちとらリリアナが人質に取られてんだ。そう簡単に動けないだろ。それに、そのためにお前を呼んだんじゃねえか」

「人使いが荒いわね……どれだけ借りがたまってると思うの?」

「すまんすまんって。まとめてどっかで返すから」

「待ったく……」


 そういって兵士の持っていた鍵を取り出し、牢を開く。


「リリアナの居場所は見つけてあるんだろうな?」

「ええ、向こう側の塔にいるわよ。今のところは手を出す様子はないみたい」

「ならいい。手短に済ませるぞ」

「どうするつもり?」

「竜になる」

「……相手に気づかれるわよ?」

「リリアナを助けられればそれでいい。さっさとケリをつけて帰るぞ」

「全くもう……」




 二人は駆け出し、一度外に出る。


「行くぞ……待ってろ、リリアナ!」


 そして高く飛びあがると、瞬く間に竜に変身した。


 ***


 巨大な衝撃と共に、城が破壊される。


「何事だ!?」

「ガルザス様、大変です! オーフィア様が……」

「ちぃ、そう簡単に閉じ込めておけんか……」


 外に出る。すると、巨大な竜に変身したオーフィアが、今まさに塔に手を伸ばさんとしていた。


「くそっ奴はどこにいる! このまま逃げられたらどうするつもりだ!」


 その瞬間、塔から土煙が上がる。

 そして、そこから一人の男がリリアナを抱いて現れる。


「そう簡単に取らせはしませんよ。仕事ですから」

「うう……」


 腕の中にいうリリアナが、うめき声をあげている。


「レイジ。どうしてくれる?」

「閉じ込めておいたのはあなたじゃありませんか。そっちでどうにかしてくださいよ。僕じゃあの人には勝てませんし」

「……自分が出るしかないか」


 翼を広げるガルザス。


 そして大きくはためかせ、城を破壊しながら外へ出た。


 ***


「ちぃ! 先を越されたか!」




 俺は、男が飛び立っていた方向を見る。

 一瞬しか見えなかったが……あれは、レイジだ。


「くそっあいつの差し金か! 何を企んでやがる……って魔王の復活以外ねえか」


 その先にあるのは、ガルザスの玉座だ。

 そして、城がばらばらと音を立てながら崩れ行き、奴が現れる。


「随分と激しいご登場だな! ガルザス!」

「騒がしいな、オーフィア」

「御託はいい! リリアナを返せ!」

「断る。あれこそが「魔王の依り代」だからだ。我々の計画には外せん」

「なんだって!? いったい何を……」

「そしてお前は用済みだ。ここで散ってもらおう」

「へっお前が俺に勝つ? それは無理なご相談だな!」


 俺は翼を広げる。



「来いよ。格の違いを教えてやる」

「ぬかせっ!!」



 俺とガルザスは、空中で激突する。

 お互いの鉤爪がぶつかり合い、火花を散らしながら離れていく。



「ふん、大したことないな。これでは魔王復活など夢のまた夢だ」

「戯言を」



 再び、俺たちはぶつかる。



「はあっ!!」

「うおおおっ!!!」



 俺は右前足でガルザスの胸を切り裂こうとするが、それを奴は左腕で受け止める。

 そのまま力任せに押し込み、俺を地面に叩きつけるつもりだろうが、俺は尻尾を使い、地面すれすれのところで態勢を整え、勢いよく振り上げる。

 しかしそれも、右腕一本で受け止められてしまう。



「この程度か?」

「まだまだぁっ!!」



 今度は左の後ろ足を使って、顔面を狙う。

 しかしそれも、奴は口を大きく開けて俺を飲み込もうとしてくる。



「来いよぉ!」



 俺は急いで急上昇し、ぎりぎりのところで回避に成功する。

 しかしガルザスの口からは、俺の吐いた火炎放射のように炎が噴き出す。

 何とかかわすが、完全には避けきれず、俺の体に少しだけかすってしまう。



「どうだぁ!」

「痛ってぇな……こんにゃろーめ」



 俺は一旦距離を取る。



「逃がすかぁ!」



 ガルザスも追いかけてくる。



「ちょこまかと……さっさと落ちろ!」

「やなこった!」



 俺は急旋回して突撃する。しかし、ガルザスも素早く対応して、爪による一撃を繰り出す。



「くっ……まだまだぁっ!」



 俺はそれを避けず、あえて受けることで攻撃の威力を軽減させる。



「ぐぅ……だがなあ!」



 俺はさらに速度を上げ、ガルザスに体当たりを喰らわせる。

 さっきよりもダメージがあるはずだ。



「ぐあああああああ!」

「大分年を取ったようだな!」



 そして俺はそのまま爪をとがらせ。

「食らえ! クロードラゴーニッシュ!」

 必殺の、一撃を叩きこむ。



「ぐああ!」



 直撃を受けたガルザスが吹き飛ぶ。



「まだまだ!」



 俺は追い打ちをかけるように、急降下して襲い掛かる。



「ぐあああ!」

「これでとどめだ!」



 俺は体を回転させ、爪を振り回す。



「グワアアアアアアアッッ!!!」


 叫び声とともに、大量の血しぶきが舞った。









「俺の、勝ちだぜ? ガルザス」

「がぁ、はぁ……果たして、それはどうかな?」

「なんだと?」

「お前の負けは最初から決まっている――発動せよ!」

「何っ!」


 城の下から、魔法陣が展開される。


「この城丸ごとを囮にして……?」

「もとより普通の手段でお前を倒せるとは思っていまいよ……!」

「ちぃ!」

「行け! 光の槍!」


 一本の光が、地面より生えてくる。



「ぐわああああああああ!!!」


 その槍は、俺を、貫いた。

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