第32話 森の中の鍛錬


 リリアナが俺のところに駆け寄ってきた。リリアナの頬が少し赤くなっている。

「お父様、私にも稽古をつけてください」

 そう彼女はかしこまって言う。やれやれ、いつも通りでいいというのに。


「ああ、いいぜ」



 俺は剣を構える。リリアナもそれに合わせて構えを取った。そして、お互いに距離を詰めていく。そして、ぶつかり合った。鍔迫り合いの状態となる。俺はリリスを押し返した。そして、斬りかかる。リリアナは後ろに飛び退いてそれをかわす。俺は追撃する。リリアナは上手く受け流していく。そして、俺の攻撃は当たらない。だが、攻撃も当たらなかった。俺は一旦距離を取る。



「中々やるじゃねえか」

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴します」

「ははは、そう固くなるなって」

「はい」



 リリアナは真面目な性格のようだ。まあ、悪くはないと思うがな。俺はリリスに向かって叫ぶ。



「もっと力を抜いてもいいんだぜ!」



 リリアナが驚いたような顔になる。そして、すぐに真剣な表情になった。



「はいっ!」



 リリアナが力強く答える。俺は笑みを浮かべる。



「おう、その意気だ」

「はい!」

「さて、そろそろ終わらせるか」

「はい!」



 俺は一気に間合いを詰めた。リリアナは俺の動きに反応しきれていない。俺はリリアナの首筋に木刀を叩きつけた。リリアナは尻餅をつく。そして、首を押さえながら苦しげな表情をしていた。俺はリリアナに手を差し伸べる。



「立てるか?」

「は、はい!」



 リリアナは俺の手を取って立ち上がる。そして、深々と頭を下げてきた。



「ありがとうございました!!」



 リリアナの瞳は輝いていた。俺はリリアナの頭を撫でてやる。リリアナが嬉しそうにしている。

 俺はリリアナに言う。



「リリアナ、お前は強いな」

「えへへ、そうでしょうか?」

「ああ、間違いない」

「嬉しいです」



 リリアナが照れたように笑う。

 空で鳥が鳴いている。俺はリリアナの頭をもう一度撫でてから、立ち上がった。

 リリアナが俺の顔を見上げてくる。俺はリリアナの頭をポンと軽く叩いた。

 俺はリリアナを背負う。リリアナが嬉しそうにしている。俺は歩き出す。

 俺は納得して、再び前を向いて歩く。しばらくして、俺は足を止める。



「……道に迷ったな」

「そうみたいですね」



 俺はリリアナを背中から下ろす。そして、リリアナと手を繋いだ。



「とりあえず、進むしかないよな」

「そうですね」



 リリアナが俺の手をギュッと握ってくる。俺はリリアナの歩幅に合わせるようにゆっくりと歩いていく。すると、前方に魔物が現れた。ゴブリンである。数は四体ほどいる。

 俺はリリアナに尋ねる。



「リリアナ、戦えるか?」

「はい! 任せてください」



 リリアナが自信満々な様子で言う。



「よし、行くぞ」

「はい」



 リリアナが戦闘態勢に入る。そして、魔物たちに突っ込んでいった。

 まず最初に、リリアナが一匹目の魔物に狙いを定めた。魔物が棍棒を振り回してくる。リリアナは攻撃をひらりとかわすと、魔物に強烈な蹴りを入れた。魔物が吹き飛ぶ。

 続いて二匹目に向かう。今度は拳で殴って倒そうとする。だが、避けられてしまう。リリアナが悔しそうな顔をしている。

 三匹目がリリアナに襲いかかる。リリアナはそれを受け止めると、投げ飛ばした。しかし、まだ二匹残っている。そのうちの一体がリリアナに攻撃を仕掛ける。リリアナは慌てて回避した。そして、体勢を立て直すと二匹の魔物を睨む。そして、同時に殴りかかった。二体の魔物は倒れたまま動かない。どうやら気絶したらしい。

 リリアナは一息つくと、俺のほうを見てきた。俺は微笑んでから声をかける。



「お疲れさん」



 リリアナも笑顔で返してきた。



「パパもお疲れさまです」

「はは、俺は何もしていないけどな」

「そんなことありませんよ」

「そうか?」

「はい」

「なら、良かったよ」



 俺は苦笑いしてから、リリアナの頭を撫でた。リリアナが気持ち良さそうに目を細める。俺はリリアナに言う。



「ところで、これからどうする?」

「そうですね……」



 リリアナが顎に手を当てながら考え始める。それから数秒後、彼女は答えを出した。



「なんとかして森を抜けましょう」

「そうだな」

「それで、どこかの街か村に行きたいです」

「分かった」



 俺はリリアナと手を繋ぐ。そして、二人で並んで歩き始めた。



 ***



「パパ! あれは何ですか!?」

「ん? ああ、あれは木苺っていう果物だよ」

「へぇー」



 リリアナと二人で森を歩いていると、様々な物を発見した。俺も見たことのない物ばかりで、とても新鮮だ。俺は木の実などを摘み取りつつ、リリアナに説明していく。



「ほら、これなんかも木苺だぜ」

「わぁ、凄いです!」

「だろ? でも、木苺には毒があるものもあるんだぜ」

「そうなんですね」

「ああ、だから食べる時は気をつけるんだぞ」

「はいっ!」



 リリアナが元気よく返事をする。それから、俺はリリアナと色々な話をした。

 歩きながら、幸せをかみしめながら。

 俺たちはひたすら迷いながら森の中を歩いていった。

 その先にあるものが何か知らずに。

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